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第12話 ニーナさんに唇を奪われる
しおりを挟む「ぐす……っ」
しばらく待つとニーナさんは多少落ち着いたようだった。
けど僕は動けないでいた。
どうしよう。
いや、どうしようというか。
何があったのだろう。
「えっと、ニーナさん……?」
声をかけた。
名前を呼ぶとニーナさんは。
ブルッ……!
涙で塗れた顔にどこか悦びとも思える表情を浮かべて震えた。
透き通るような青い瞳には僕しか映していない。
ニーナさんを見ると熱っぽく顔を赤らめて僕を見上げてくる。
走り回っていたからだろう。
軽く息を乱しながら額に汗を浮かべている様がなんとも艶っぽい。
不覚にもドキッとした。
ニーナさんほどの美少女を見たのは初めてだ。
そんなニーナさんのこの顔は非常に情欲を刺激される。
僕は唇を噛んだ。
少し落ち着いた。
「ニーナさん、これ何本に見えますか?」
僕は状態異常を調べることにした。
何かしらの魔術による混乱状態にあるなら対象をはっきりと認識できていない可能性がある。
「ユウトさんの……指が、2本あります……」
妙にボーっとしているように見えるのが気になるけど答え自体は間違っていない。
何度か繰り返す。
脈拍を測る。
他にもいくつか確認をする。
「これはなんですか?」
手を差し出して質問する。
「ユウトさんの……手です……」
次に足を前に出す。
「これは?」
「足です……」
(肉体的な異常はない……脈拍がやたら速いけど、それだけだ……)
僕はそのまま考え込む。
まさか何も異常がない、のだろうか?
それはそれで怖いけど……
目の前に座り込むニーナさんに目を向ける。
僕の足を舐めようとしていた。
咄嗟に引っ込める。
「……ニーナさん? なぜ足を?」
足を引っ込めたまま聞く。
ニーナさんが蝶を追う子供のように僕の足に吸い寄せられていく。
そのまま僕の足に手を添えて再度舐めるために舌を這わせようとしてくる。
「ユウトさんの、靴が汚れていたので……」
「……そうですか」
名状できないような感情が沸き上がる。
僕は今理解できないものを目の当たりにしている。
というかなんだこれ。
どういう状況だ。
「おい、なんだあれ?」
「奴隷?」
「あれってあの化け物じゃない?」
凄い注目を浴びている。
駄目だ、これ以上ここにいたら悪目立ちする。
「と、とりあえず足見せてください」
治療のために怪我の具合を確認するためだ。
ニーナさんが顔を上げて足を見せる。
ローブを捲り上げて股の間が見えるギリギリまで露出した。
ニーナさんの目。
これと同じ目を知っている。
前の世界アトランタでのことだ。
大規模な宗教の教祖がこんな目で見られていた。
信者は盲目的に信じていたのだ。
だけどそれよりも遥かに純粋で確信的な感情。
全幅の信頼。
僕に対する絶対的な感情。
ハッキリ分かる。
それの比じゃない。
どう見ても上限を振り切れている。
(魅了に近い気がする……? けど、理性はあるように見えるし……って、もしかして?)
僕は膝をついてニーナさんの手をとった。
魔力の流れを確かめる。
首の辺りも確認。
(魔力障害の一種だ……たぶん感情が一時的に活性化してるんだろう……)
実際にこの手の症状は何度か見たことがある。
ファンタジー世界特有の病気みたいなものだ。
日本でも徹夜明けでテンションが高い人とか見たことあると思う。
それに近い。
見たところ軽度なのでしばらく療養させれば治るだろう。
治る……とは思う。
そのはずだ。
さっきも言った通り魔力障害自体は見たことがある。
ただこれはレアケースだった。
何にせよ早めに寝させた方がいい。
「ニーナさん、今日はもう帰りましょう。すみませんけどもう一度足を見せてください」
「………」
「ニーナさん?」
黙ったままのニーナさん。
その姿に何か良くないものを感じた。
どうしたのかとニーナさんの顔を覗き込んだ。
ちゅっ。
「―――」
キスされた。
首の後ろに腕を回されそうになる。
「ちょっ!?」
咄嗟に回避して無理矢理引きはがす。
唇にニーナさんの熱が残る。
慌てて距離を取った。
ニーナさんほどの美少女との接触は初めてだった。
尋常じゃないくらい興奮する……けど、周りの視線が僕たちに集まっているのを見て我に返った。
早いところ終わらせたほうがいいなこれは。
「……ニーナさん、動かないで下さいね?」
じりじりと警戒しながら近付く。
少し離れた位置から浄化魔法と回復魔法の併用によってニーナさんの足を治療する。
さっきまでボロボロになっていた泥と血に塗れた足が巻き戻しのように元に戻っていく。
綺麗な足になった。
どさりっ。
ニーナさんが意識を失い倒れた。
慌てて状態を見る。
回復魔法は体力を使う。
本来経過するはずの時間を無視して体を酷使するのだから当たり前と言えば当たり前だけど。
けど、疲れると言っても少しだけのはず。
精々その辺りを散歩する程度の。
これはつまりニーナさんがそれだけ疲弊していたということなのだろう。
(とりあえず、家まで送るか……)
唇の感触を思い出す。
キスの余韻がまだ体に残っていた。
「ユウ……ト……さん……」
ニーナさんが甘えるように寝言で僕を呼ぶ。
僕の体に回された手にぎゅっと力が込められた。
「………」
僕はまだいい。
問題はニーナさんが起きた時だ。
果たして冷静になったニーナさんが今の行為をどう思うのか。
それだけが怖くもあり不安だったりする。
そして、もう一つ。
僕はニーナさんの奇行は魔力障害の一種だと思っている。
特定の感情を活性化している状態だ。
ただ0にいくら数字を掛けても0になるように、ニーナさんにまったくその感情がなければこうはならない。
『好き、好き……なんです……っ』
ニーナさんの言葉を思い出す。
急すぎて理解が追いつかなかったけど、確かに彼女はそう言った。
僕はどうなんだろう。
ニーナさんのことをどう思っているんだろう。
ニーナさんを背負って歩くこの時間が心地良い。
ニーナさんの体温を意識する。
唇に残ったニーナさんの感触に心臓が高鳴る。
「………」
まだ整理はついてないけど。
この気持ちはそういうこと……なのだろうか?
僕にはまだよく分からない。
ただ、少しだけ……僕はこの時間を惜しく感じるのだった。
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