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アリーシアの世界
しおりを挟む日が差し込むと、白く光ったように輝く白銀の細い髪、花が色付いたように発色の良い唇と、ほんのり染まる頬、瞳は大きく、サファイアのように青く、輝き、陶器のようにきめ細やかで透き通る白い肌を持つ彼女は、それはそれは大切に育てられ、彼女の周りは彼女を宝物のように扱った。
社交界デビューを果たし、彼女を一目見ようと近寄るものや、彼女の家と繋がりを持とうとするもの、彼女自身を手に入れようとするもの、多くが彼女を取り巻いていたが、余りの美々しい姿に容易に近づけるものは居なかった。
同年代の少女等は彼女の引き立て役になるのが嫌で、お零れを貰おうと近づくものすら居らず、また、多少見目に自信があるものでも、彼女の姿を見ると自信をなくすほどだった。そして彼女はいつも1人だった。
両親や使用人がいくら
「可愛い」
「天使のようだ」
と言ってくれても、素直に受け入れることができず、自分は気を遣わせてしまうほどの容姿なのだと鏡を見るのも怖くなり、内向的な性格に拍車をかけた。
ただその勘違いが悪かったのか、と聞かれれば、せめて、心根だけでも美しくあろうと誓った彼女は、周りが甘やかすのに対して自分に厳しく、間違った考えを起こさないよう細心の注意を払い、また、教養や舞踏もしっかりと学び、学園の入学を控えた年には、益々、美々しい姿に磨きがかかっていた。
そんな時、父の申し出で世界は動き出した。
「アリーシア、明後日、王家主催の舞踏会に呼ばれたぞ。」
嬉しそうに話すのは父のドータス・クロッカン。国の三大貴族と呼ばれるクロッカン公爵家の当主である。
「お父様…、私も行かなくてはダメですか?」
「招待状にアリーシアの名もある。コレは王命であるから、無碍にもできん。」
アリーシアを溺愛しているクロッカン公爵は、アリーシアが嫌がるのであれば断ってもいいとは思ってはいるが、アリーシアがこれから入学する学園は全寮制であり、これがきっかけで少しでも彼女の内向的な性格が改善されればと願っている節がある。
賢いアリーシアはその事も理解はしつつ、どうしても尻込みしてしまう。だが、王命を断るとなればそれ相応の理由が必要な事も理解していた。
「畏まりました。」
消え入りそうな声で了承すると、クロッカン公爵は娘の成長と、そして自慢の娘を自慢出来ることに喜んだ。
今回の王命により集められているのは、アリーシアと同世代の子女を持つ貴族夫妻と、その子女だけであり、王太子殿下の婚約者探しだと分かりきっていた。
可愛いアリーシアに婚約者などまだ早いと考えている公爵ではあるが、アリーシアに見合うほどの美丈夫なものとなると限られてくる。ましてや王太子殿下を含めアリーシアの美しさにふさわしいものなど本当は居ない。と断言するほどに娘を溺愛している。
そもそも、王太子殿下がアリーシアを選ばないはずがない。と自負している程だ。
その次の日、宝石商から仕立て屋、デザイナー迄がクロッカン亭を訪れ、アリーシアに見合う衣装を決める日々が続いた。
「お母様、このデザインが良いのではないでしょうか?」
「駄目よ、アリーの可愛さに相応しくないでしょう?こんなのは如何かしら?」
差し出されたドレスは、刺繍やレース、宝石が散りばめられ、キラキラと輝いていた。
「これは、私には派手すぎるかと…」
遠回しに、違うものがいいと告げると
「そうよね、アリーはシンプルなものの方がより美しさが映えるものね。」
とポジティブに話が変わっていく。
そんな意図で発した言葉ではないのに、まるで自分に自信があるみたいな流れになってしまっている。
その後もドレス選びは続き、何着目のドレスかわからなくなった頃、
「アリー、この薄い水色でレースと刺繍の施されたドレスは如何かしら!」
とそのままの勢いで、ドレスを体に押し付けられる。今日見た中で、一番シンプルなデザインだ。これならば、容姿に自信のない私でも着れるかもしれない。と喜び、そのドレスに決めた。
「宝石はアリーの瞳と同じ色のサファイアの物にしましょう。」
母に押し切られるような形でその他の装飾はどんどん決まっていく。
そして、全てが決まる頃には、とうに日が暮れていた。
そして翌日、を迎え、彼女付きの侍女ナンシーを始め、多くの侍女に体を磨かれ、ドレスアップされ、彼女の美々しさに磨きがかかっていた。
ベルラインのドレスはウエストと裾の部分に刺繍がされていて、胸元はレースが施されている。首元には大きなサファイアが一つ付いたシンプルなチョーカー、耳には小さなサファイアと真珠の付いたイヤリングを付けて、髪はサイドに流されている。
彼女を普段から見ている両親と使用人ですら、その姿を見て息を呑むほどだ。
勿論そんな彼女が王城に着いた時には、賑わっていた会場は静まり返った。
やっぱり私の容姿でこの素敵なドレスは似合わなかったのかしら…
自信を失いつつも凛と立つ姿は、とても目を惹き、人々は彼女に見惚れていた。
それからすぐ、陛下と王太子殿下が会場に入場し、順番に謁見する事となった。
私が陛下や王太子殿下に謁見なんてして、笑われたりしないかしら…
徐々に不安が募り、緊張が最高潮に達した頃に、アリーシアの番が巡ってきた。せめて姿勢だけでも、と気を張って礼を取り、始めに公爵である父が口上を告げ、母が続く。
そして、ついに私の番がやってきた。
「ほ…本日は、お招き頂きありがとうございます。わ、私はア…アリ…」
極度の緊張で、簡単な挨拶すら詰まりつまりになってしまう事が恥ずかしく、どんどん声が小さくなる。
泣きたい気持ちになりながらも、必死に挨拶をこなそうとするアリーシアに、サーシス王太子殿下が
「緊張しているの?深呼吸して、ゆっくりで大丈夫。」
と優しく声を掛けて下さった。
言われるがままに、小さく呼吸を整えて挨拶の続きをする。
「大変失礼致しました。アリーシアと申します。本日はお目通し頂きありがとうございます。」
と頭を下げれば、顔をあげよと声がかかり、トパーズブルーの瞳と目があった。
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