2 / 14
初めての気持ち
しおりを挟む見守る様な優しい瞳で、此方を見つめるトパーズの瞳、そしてハチミツ色のサラサラの髪。
声にはなっていなかったが、唇が
"ほら、できた"
と小さく動いて、優しく微笑んでくれる。
初めて、家族と使用人以外で私に優しくしてくれた彼が、とても眩しくて、近くに居れるこの瞬間がとてつもなく幸せで、心が温かくなるのを感じた。
勿論、謁見するものが多く、時間は限られているので、あっという間に時間は過ぎてしまい、何だか寂しくもあった。
それでも素敵な人と出会えた夢のような時に感謝し、王太子殿下の婚約者に選ばれることはないだろうが、この時間は宝物のような時間になると感じた。
のだが、
時間が経つにつれ、数分の謁見の時を思い出し、胸が熱くなっては、寂しくなる。そんな日々を過ごしていた時に、侍女のナンシーが心配そうに声を掛けてきた。
「アリーシア様、ご気分が優れないようでしたらお休みになられては如何ですか?」
「ナンシー、大丈夫よ。ただあの日の事が忘れられなくて…思い出すだけで胸が苦しいの…」
「アリーシア様…、宜しかったらお話を聞きます。話す事で胸が軽くなる事もあるでしょうし。」
遠慮がちな申し出ではあるが、それでも幼い頃から一緒だったナンシーが、私を気にかけてくれるのが嬉しく、ポツリ、ポツリとあの日の出来事を話した。
「だからね、ナンシー、私きっと、サーシス様のとこをお慕いしているのだと思うの。2人だけの秘密よ?」
そう、言葉にして、初めてその気持ちに名前が付いた。
気づいた気持ちが嬉しくもあり、言葉にした事が恥ずかしくもあり、赤くなっているであろう頬を両手で抑える。
あらましの事を話し終えた時には、もう一度会えたなら、なんて考えてしまう自分自身を少し攻めてしまう。
王太子殿下の婚約者という大役が、自身に務まるはずがない、あれだけ素敵な方なら、きっと美しい方を婚約者に選ぶだろう。そう考えたところで、少し悲しくなったが、ナンシーが気遣ってくれた事が嬉しかったのもあり笑顔を作る。
「だけどね、陛下や、王太子殿下のお眼鏡に叶うものなんて、私、一つも持っていないの、だから婚約者に選ばれることはないと知っているは。けど、この気持ちを誰かに知っていて欲しかったの。」
そう告げれば、ナンシーは複雑な表情をしてから
「アリーシア様を選ばない様な男は、この世に居りません。」
と声高らかに宣言した。
気遣っての言葉だとは理解していたが、ナンシーの優しさが嬉しくて
「外でそんな事言ったら、不敬罪になってしまうから駄目よ?」
と軽口を叩きあった。
決して叶うことのない初恋、それでも初めての気持ちを教えてくれた王太子殿下に感謝し、この気持ちを宝物にしようと決めて半月程経った頃。
王城から書状が届いたという知らせを受けた。
これだけ時間がかかったのだ、今回はご縁がなかった…
という内容だとは分かっていても、妙にそわそわしてしまい、落ち着くことが出来なかった。
気持ちを鎮めようと、深呼吸をすれば、あの日の、王太子殿下とのやりとりが頭をよぎり、またドキドキしてしまい、刺繍や読者などで気を紛らわせた。
コンコン、とノックの後、ナンシーからお父様からお呼びだと告げられ、残念な結果を聞かされるのだと執務室に向かえば、神妙な面持ちのお父様と、お母様がそこには居た。
「アリーシア、王太子殿下の婚約者の件なんだが……」
お父様から告げられた話に、どこか夢見心地で、何かの手違いがあったのかと心配したり、足元が浮かびそうなほどに喜んだり、気持ちが上手く追いつかない。
「勿論、アリーシアが望まなかったら、お断りすることも考えている。」
そこまで言われて初めて、目の前の出来事と向き合う事ができた。
隣に立つのが私で、王太子殿下は笑われないかしら?
だけどこの機会を逃せば、今、叶いそうになった初恋は叶わずに、いつか王太子殿下の隣に他の女性がいるのを見て、傷つく事になるのではないかしら?
諦めたくないという気持ちが勝り
「私、王太子殿下の婚約者になりたいです。」
と返事をすれば、少し悲しそうなお父様と、嬉しそうなお母様が目に入った。
お父様が返書を送り、正式な婚約者になる為の書状が届くまでで半月、更にその半月後サーシス殿下の心遣いで、顔合わせをすることとなった。
0
あなたにおすすめの小説
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる