アリーシア嬢の勘違い

むむ

文字の大きさ
3 / 14

おまけ*ナンシーの苦悩

しおりを挟む

この日、幼い頃からお仕えするクロッカン公爵家のご令嬢、アリーシア様のご婚約が決まった。


アリーシア様は幼い頃から白銀の細く美しい髪と、サファイヤのような大きな瞳を持ち、肌は陶器のように白く、色付く頬と唇は綺麗な桜色をしていて、間違いなく誰もが認める美少女である。

人形のように美しいアリーシア様に公爵様も、奥様も目に入れても痛くない、と言うほど溺愛し、愛らしいその笑顔に私を始め、全ての使用人も彼女を宝物のように扱った。

普通のご令嬢ならば、この時点で性格も歪み、底意地の悪い悪女に成り下がるところだが、アリーシア様は違った。
彼女は天使のような見た目のまま、聡明で、性格も美しいまま成長し、16歳の学園入学を控えた頃には多くの縁談が舞いこんでいた。

ただ、あまりの美々しさに、容易く近づくことも叶わず、友と呼べるものは少ない様に思える。

それでも溺愛するアリーシア様に変な虫が付かないよう、公爵様が全てをお断りしていた事を知っている。
私も純真無垢なアリーシアをお守りする為に、アリーシア様付きの侍女として近くで御守りしていた。


そんなアリーシア様に変化があったのは、学園入学を控えた少し前のとある日に開かれた王家の社交界だった。


公爵と夫人に囲まれ社交界に連れていかれたアリーシア様は、帰ってきてから、毎日のように溜息をついては、憂いを帯びた表情を見せるようになった。

「アリーシア様、ご気分が優れないようでしたらお休みになられては如何ですか?」

「ナンシー、大丈夫よ。ただあの日の事が忘れられなくて…思い出すだけで胸が苦しいの…」

「アリーシア様…、宜しかったらお話を聞きます。話す事で胸が軽くなる事もあるでしょうし。」

見たことのある症状に、大まかな検討は付けていても、愛らしいアリーシア様の話を聞く事にした。
アリーシア様を誑かすような不埒者は公爵様に報告して排除していただかねば。

そんな事を考えているとは知らない、アリーシアがポツリ、ポツリと話し始めた。


「あのね…」


王家の社交界で、どの家のものもアリーシア様と同じ年頃のご令嬢を連れてきていた事。

それが王太子殿下の婚約者候補を探すためのものだった事。

王太子殿下と一人ずつお話をする時に、緊張して話す事が出来なかったアリーシア様に、ゆっくりで大丈夫だと微笑んでくれた事。

その優しい笑顔に釘付けになり、あの日以降王太子殿下の笑顔が忘れられない事。


「だからね、ナンシー、私きっと、サーシス様のとこをお慕いしているのだと思うの。」


白魚のような手で、赤く熱を持った頬を抑え、内緒よ?と言うアリーシア様はとても恥ずかしそうで、それでいて、どこか嬉しそうだった。


「だけどね、陛下や、王太子殿下のお眼鏡に叶うものなんて、私、一つも持っていないの、だから婚約者に選ばれることはないと知っているは。けど、この気持ちを誰かに知っていて欲しかったの。」


と悲しそうに微笑む。

アリーシア様はご自分の美しさを理解していないのだ。
何も持っていないはずがない、誰にも負けない美貌と、其れを振りかざすことのない美しい心を持ち合わせているのだ。


アリーシア様のお心を奪ったサーシス殿下が憎くある反面、アリーシア様を選ばないような事があれば、この手で葬ってみせようと決意する。


そんな物騒な考えを過ぎらせてから半月。

王家からの書状が届いた。

それは勿論、サーシス殿下の婚約者としてアリーシア様を迎えたいとの内容だった。


勿論渋っていたクロッカン公爵だが、アリーシア様の気持ちを、私からそれとなく聞いていた事もあり、望まぬ婚姻を結ぶくらいなら、大切なアリーシアが幸せになれるように、と渋々納得し、アリーシア様に最終確認を取った上で、婚約を受けると返事を出していた。


あの時、泣きながら悔しそうに返書を送った公爵様の気持ちが痛いほどにわかった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

殿下、そんなつもりではなかったんです!

橋本彩里(Ayari)
恋愛
常に金欠である侯爵家長女のリリエンに舞い込んできた仕事は、女性に興味を示さない第五皇子であるエルドレッドに興味を持たせること。 今まで送り込まれてきた女性もことごとく追い払ってきた難攻不落を相手にしたリリエンの秘策は思わぬ方向に転び……。 その気にさせた責任? そんなものは知りません! イラストは友人絵師kouma.に描いてもらいました。 5話の短いお話です。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して── 大商会の娘サーシャ。 子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。 華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。 そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。 けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。 サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。 新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。 一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき── 夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。 ※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。 ※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...