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アリーシア嬢の勘違い
しおりを挟むサーシスは少し遅れて懇親会の会場に着いた。
というのも、アリーシアの父クロッカン公爵に呼び止められたからだ。
クロッカン公爵は、アリーシアとサーシスの噂を知りアリーシアに危害が加わることがないようにより何度も、何度もサーシスに口酸っぱく念押ししたためだ。
クロッカン公爵から解放され、会場に着いた時にはアリーシアはすでにミランダとの勝負に負け、と言っても本人がそう考えているだけなのだが…
アリーシアを見つけたサーシスは、すぐさま駆け寄りアリーシアのエスコートを申し出た。
「アリー、今日君のエスコートをする権限を僕に与えてくれないか?」
サーシスの申し出にこれが最後になると分かりながらも、小さく微笑み差し出された手の上にそっと自身の手を乗せた。
「喜んで。」
胸焼けに苦しみながらも、サーシスと踊れる最後の機会であろうワルツを踊る為、ダンスホールに足を進め、曲と同時にゆったりとしたステップを踏み出す。
「アリーと踊れて嬉しいよ。」
「私もです。ーーー最後に素敵な思い出が出来ました。」
アリーシアの消えそうな程小さな声を拾ったサーシスは“最後”と言う言葉が引っかかり少し慌てたようにアリーシアにその言葉の意味を問いかけた。
「アリー、最後というのは…?」
「それは…、私はシス様、サーシス様をお慕いしております。ですから、サーシス様がミランダ様に思いを寄せているのに私が邪魔をするなんて、そんな事…、なので私は、サーシス様の恋心を応援したいのです。」
戸惑った様子を見せながらも、その後の言葉を続けたアリーシアにサーシスが驚いたのは言うまでもない。
「…私がミランダ嬢に思いを寄せていると?」
震えるサーシスの声を聞き確信だと思い小さく頷く。
徐々に顔色を失う彼を見て、アリーシアは彼がその気持ちに気付いてなかったのだと思った。
言わなければ彼の隣に居続けたことができたのかもしれない。
けれどそれでは誰も報われなかったのだと自身に言い聞かせる。
悲しい気持ちになり、視線を床に落とせば両手を彼に握り締められ、反射的に彼を見つめてしまった。
「君は大きな勘違いをしている。私は、初めて君と会った日に、アリーに、アリーシアに恋をしたんだ!君以外を愛するなんて有り得ない!」
「ですが…」
「君がなんと言おうと、私が愛してるのはアリーシア、君なんだ。何故そんな考えをしてしまったんだ?」
真剣な表情でこちらを見つめるサーシスから偽りではなく、心からの言葉をかけられてると感じる。
そして、自分の考えが間違っていたのだと思い、どうしてそのように考えるようになったのか経緯を話すことにした。
きっかけが初めてのお茶会だという事。
ミランダ様の話をされる事が多かったことから、ミランダ様を思っているのでは、と考え会う度にその想いが募っていったということ。
全てを話し終えた時、サーシスは片手で目元を覆うようにして大きな溜息を吐いた。
そして何故ミランダの話をしたのか、そのことを順に説明して行った。
緊張して何を話せばいいのか分からず、公爵令嬢同士なら面識があると思いそれを共通の話題にしようとしたこと、悲しませるために振った話題だったわけではないが、結果として悲しませてしまったことを詫びた。
「そんな、私の勘違いだったなんて…サーシス様申し訳ありません。私、優しくて素敵なサーシス様に自分が釣り合っていないと心配なあまり、サーシス様の優しさを誤って捉えてしまうだなんて…」
「いや、私も君と婚約出来たことが嬉しくて舞い上がってしまい、君を傷付けていたなんて…」
「いえ、私が!」
「イヤ、私が!」
そして、自分の方が悪いと競い合っているのか可笑しくてどちらからともなく笑い出してしまった。
「私達はまだ知らないことが多すぎる、元は違う人間なのだ、互いの気持ちも正確には分からない。これからは素直な気持ちを伝え会わないか?」
「はい。…シス様、あの、わた…私はシス様をお慕いしております。」
恥ずかしそうに小さくはにかみながら、一生懸命に自身の気持ちを紡いだアリーシアにサーシスは息を飲んだ。
サーシスがアリーシアと出逢ってから一番自然体の笑顔を自身に向けられた喜びと、その愛らしさにクラクラとした感覚を覚える。
そして、アリーシアに二度と辛い思いや勘違いをさせなくていいように、しっかり愛を伝えようと強く思った。
それにより、〈婚約者候補〉という扱いは形だけで、サーシスはアリーシアを溺愛しており、アリーシアもまたサーシスを愛している。
とあっという間に噂されることになるのだが、二人はまだ知らない。
「ねぇ、ネイト。私の大切なアリーシア様を一瞬でも苦しめたのだから殿下にこれから少しずつ嫌がらせをしても許されるわよね?」
狂気を持った不敵な笑み浮かべる姉、ナンシーに胃をキリキリさせながら、その考えを必死に阻止する。
「殿下に何かあればアリーシア様が悲しみますよ、姉さん。」
「あら?ネイト、いつから私に歯向かうようになったのかしら?」
「いや、っっ事実を伝えただけです。」
冷や汗をかきながらも必死に訴える。
「あら、反抗期なのね?そうなのね?もう一度教育してあげるわ。」
一時的とはいえ姉の狂気から殿下を守れた事を喜ぶべきなのか、はたまたこの後見るであろう地獄に泣けばいいのかよくわからない気持ちになりながらネイトは天を仰いだ。
遠目に二人の姿を見たアリーシアは、二人はとても仲がいいのね。と従者の二人が仲良くやっていけそうな事を喜んだ。
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