青空と白いピース

megi

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第4章 あぁ、高校3年生

8 難解な問題

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「おっ、おはよう……!?」
「空、おはよう」

 桜の家へ迎えに行くと、家の前で、奏が、鞄を後ろに回して、ブランブランとブランコのように、揺らしている。

「奏、どうしたの?」
「桜を迎えに、来たの!」

 奏は、ニコリと笑う。

「行ってきま……すって、奏!?」
「おはよう、桜……!」
「あぁ、おはよう……桜」

 空は、頭を掻きながら、桜へ、ニッと、微苦笑する。

「奏、よく私の家が、わかったね!?」
「啓介に、桜の家、聞いたんだ……」
「あっ、そうなの!」

 空の頭の中で、啓介が得意げな顔をして、奏に家を教えているところが、浮かんでくる。多分、桜も同じシーンを浮かべている。「ハハ……ン」と、納得した顔をしている。

 別に、奏に、内緒にしてたわけではない。

 ただ、話す必要はないと、思っていた。

 桜を挟んで、3人並んで、ひび割れたアスファルトの端を歩いていく。

「気持ちがいいね!」
「うん……」

 田植えが、終わった田んぼ、植えたばかりの稲が、キラキラと光る水面に、揺れている。

「痛くない?」
「うん……大丈夫」
「辛くないかな……」
「あっ……うん、大丈夫」

 何とも、『過保護な母親』のようで、桜も、笑っているけど……きっと、困惑している。

「空っ! 遅いよ! 遅れるよ!」
「そっ、そうだね……」

 わざわざ、桜を迎えに来るなんて、奏も、いいとこあるな……。

 *

 学校に着いても、桜へ対する奏の態度は、変わらない。

 階段を上がる時も「ほらっ、おんぶして」とか、「桜ッ、何処に行くの?」・「桜、お昼は、売店?」とか、とにかく世話を焼きたがる。終いには「トイレ、1人で、大丈夫?」と、聞く始末。

「ねぇ……空ッ」
「何?」
「奏って、あんな子だっけ?」
「えっ、何で?  それに何で、小声なの?」
「奏が、どこかで、聞いてそうで……」

 奏が、売店へ、パンを買いに行ってる間に、桜が、囁くように、聞いてきた。

「桜の事が、心配なんだよ」
「そうかなぁ……!? あの、優しさは、異常だよ!」
「そう……かな……」

 桜は、奏の過剰な世話焼きに、疑問を抱いている。

 優しいって、いい事なのに……。

「2人とも、どうした? コソコソと、何、話してんだよ?」
「わっ、啓介!? もう……驚かさないで……」
「そうだよ!! 奏かと、おも……」
「空ァ……私がどかした?」

 空は、心臓が止まるかと思った。啓介の後ろに、クリームパンを2つ持った、奏が、立っていた。

「ねぇねぇ、焼きそばパン売り切れてた、美味しいのにね……」
「私……嫌いなんだ、焼きそばパン」
「そうなの!? じゃぁ……よかったのか……」

 あれっ!? 桜、焼きそばパンが、好物なのに……いつも、売り切れてると「クソッ、焼きそばパンが、ない……⁉」って、叫んでたのに……?

 桜が、イラついている。顔は、平静を装ってるけど、指で、トントンと叩いている。

 桜が、疑問を抱く理由が、わかったような気がした。

 奏はどこか、無理をしてるというか……少し、強引な気がする。

 *

「空、私、部活を見ていくから、先に、帰って!」
「そうかぁ、大会が、近いもんな! 奏はどうする?」
「あぁ……私も、用事がある……かな」

 あんなに、献身的に……強引に『親切の押し売り』をしていたのに、あっさりと、帰るなんて……。

 桜は、手を振ると、ヒョコヒョコと部室へ歩いて行く。

 奏と2人玄関の前に取り残される。何か、気まずい。

「帰る?」
「うん……帰る」

 奏と2人で並んで帰る。否が応でも、男子生徒の視線を集める事になる(別に、そんな関係じゃないからな……)。

「あのさっ!」
「何?」
「奏、どうしたの?」
「何が?」
「急に、桜の家にまで来て……」
「……別に、いいじゃん」

 何で、奏の機嫌が、悪いの? プイッと、空から顔をそらす。

 奏が、無口になる。

 彼女の家の前に来るまで、ずっと、黙っている。

「じゃ、またね」
「……」
「奏?」
「ねぇ、明日も、桜を迎えに、行くの?」
「あぁ、どうかなぁ……」
「ほらっ、そうやって、誤魔化す」

 奏は、門を開けると、家の方へと、走っていく。

「わからん!」

 空は、ため息をつくと、坂を下って家に帰る。

 *

「あら、空君」
「あっ、幹恵姉ちゃん」

 バイトが終わって、アパートの階段を上がると、ちょうど、仕事が終わって帰宅した、隣の幹恵姉ちゃんと鉢合わせる。

 幹恵は、空が、小さい頃から隣の部屋に住んでいる。昔は、夜の仕事をしていたが、今は、近くのスパーで事務をしている。40歳を多分過ぎているが「いい男に出会わないのよ」と、未だ、独身である。

「バイト、終わったの?」
「姉ちゃんは、仕事終わったの? 今日は、遅いね!」
「残業……」
「あぁ……!」

 幹恵姉ちゃんは、空の事を可愛がってくれる。空も、彼女の事を姉のように、至っている。今は、酒の臭いもタバコの臭いもしない。

「あっ、あのさ……」
「女の子の事、話すなんて、初めてね……」
「そうかな?」

 廊下の手すりにもたれて、2人で話をする。母親に、話せない事も、幹恵姉ちゃんには、話せる。今日の奏の事を話してみた。

「へぇ、空君も、隅に置けないなぁ……」
「えっ!?」
「それっ、彼女の焼きもちだよ!」
「まさかぁ……誰に!?」

 空には、桜の世話を焼くことが『母親ごっこ』を楽しんでいるようにしか、見えなかった。

「取られたくないのよ!」
「何を?」
「鈍いなぁ……後は、自分で、考えて」

 幹恵は、呆れた顔をして、部屋に入るとバタンと、ドアを閉めた。

 ベッドの中で、空は、今日の事を思い出す。奏の事、桜の事、何度、思い出してみても、幹恵の言った言葉の意味が、わからない。

 何を……?

 誰に、取られたくないんだ……?

 女心とは……?

 初めて、空が直面する難解な問題だ!
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