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第1章 君が眩しいから
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しおりを挟む「ねぇ、良太ぁ……」
「なっ、何?」
「先生って、鯵に似てるよね……」
(どういう感覚……???)
担任の大貫先生は、痩せた体型に、黒縁の眼鏡を掛けた男性教師。独身で、物静かな先生。
人気が、ある……訳では、ないけれど、嫌われてもいない。
「似てるるよね……?」
「そっ、そう……?」
「絶対、似てるよ!」
咲は、しつこい。
「うん、似てる似てる……」
「だよねぇ……! 大貫先生って、鯵に、似てるよねぇ……!」
「誰が、鯵に、似てるってぇえ……!!??」
大貫先生が、怒ったのを初めて見た!
口を尖らせて、パクパクと動かす顔は、確かに、鯵に、似ていた。
「古賀! 神谷! 廊下に立っとけ!!」
「ハァ……イ」
「えぇ……!?」
咲は、手を上げ、立ち上がると、廊下に出て行った。
「怒られたね!」
「君の所為だよ!」
「いいじゃん! 授業が、面白くないもん!」
「僕は、大事!!」
「良太は、真面目だねぇ……」
廊下に立たされても、咲は、気に留めてない様子。良太は、初めて、廊下に立たされた事が、ショックだ。結局、授業が終わるまで、許される事はなかったが、その後、クラスの中では、大貫先生を陰で『アジ先生』と、呼ぶようになった。
「良太ぁ……!」
「あっ!?」
静かに、下校をしようと、思っているのに、咲の大きな声は、それを台無しにする。
「何か、よう?」
「一緒に、帰ろうよ!」
「何で?」
「だって、私の家は、あそこだもん!」
咲が、指さす所は、酒井田漁港から、高台へと続く、真っすぐな坂を上った、酒井田ニュータウン。
「嫌だ!」
「何でよ?」
初めて、自分の気落ちを言ったかもしれない。
最悪だ、1人の静かな時間が、過ごせなくなる。それに、女の子と2人で帰ってるとこを見られると、バカにされる。
「嫌なのは、嫌だ!」
「どうして?」
「僕は、1人で帰るんだ!」
「フ……ン……そうっ!」
どうだ! 言ってやったぞ!
「私も、同じ道だから、私も、1人で帰る!」
「はぁ……!!??」
咲は、立ち止まると、良太が、先を歩くのを待っている。
“タタ……”
良太が、咲を追い抜くと、後ろから速足で、迫ってくる。
そして、良太を追い抜くと、ピタッと足を止めて、良太が、追いつくのを待っている。この、出来レースは、坂の登り口まで、続く。
次の日も、また、次の日も……。
「わかったよ! 一緒に、帰ろう!」
「ほらっ、一緒に、帰りたいんでしょ?」
腰に手を当て、ニコリと笑って、良太が、追いついてくのを待っている。
女の子って、こんなに、面倒くさいの? それとも、咲が、面倒くさいの?
咲の隣に並ぶと、一緒に、歩き始める。白線の外側を歩く良太は、空を見上げて、微笑んだ。
*
学校から、家まで歩いて、30分の道のりが、何だか、楽しい。
他のクラスの女の子とは、未だに、意識して、話せないけど、咲とは、普通に話せる。不思議だ。
「ねぇ、良太は、家に帰ると、何をしてるの?」
「家の手伝いだよ! この辺の子は、みんな、家の手伝いをするよ!」
「そっ、そうなんだ……」
「咲は? 何してるの?」
「えっと……何も、しない……」
この辺りの家は、大半が、漁業関係の仕事をしている。学校から帰ると、家の掃除に、翌日の漁の準備の手伝い、兄弟の面倒を見るなんて、普通の事。
「良太の家も、漁師なの?」
「違うよ! お母さんがスナックをしてる」
「スナックって……お酒、飲むところ?」
「うん……咲のお父さんは、会社員?」
「うん。あそこ!」
咲は、立ち止まると、海の方を指さす。
「あぁ……基地の人か?」
「詳しくは、知らないけど……」
親が、石油備蓄基地に勤めている子供は、酒井田小学校にも、たくさんいる。決して、珍しい事ではない。
「すごいんだね!」
「何が?」
「お父さんって、すごい人なんだ!」
「えぇ、知らないよぉ……」
務めてる人は、地元出身か、隣の市から通うのが、ほとんどで、転勤したきたって事は、会社の偉い人だと、母親に聞いていた。
「ねぇ、海を見ようよ」
「いいけど、何もないよ……?」
漁協の前を走り抜けて、堤防の先端へと、2人で走る。
「ほらっ! 海ゴキブリ!」
「違うよ、フナ虫って言うんだよ」
「知ってるよ! でも、ゴキブリみたいじゃん」
「ハハハ、じゃぁ、海ゴキブリだ!」
カサカサと逃げるフナ虫を追いけ、からかう。何のことない事が、楽しい。係留しているロープをピョンピョンと飛び越え、堤防の先端に2人で立つと、サァーと海風が、顔を撫でる。
「私ね、海が好き! 良太は?」
「普通……」
「あそこで、お父さんが働いてるの!」
「そうだね……」
「何してるのかなぁ……?」
そうか……あの時も、お父さんを見てたんだ……。
「家に帰ってこないの?」
「何で?」
「だって、『何してるのかなぁ……』って……」
「う……ん。帰ってくるけど……帰りが、遅いんだよね」
「向こうでも?」
「そうだよ!」
父親がいない良太にとって『父親』が、わからない。物心がついた時には、お母さんだけで、帰りの遅い父親を待つ事の寂しさは、わからない。
「ねぇ、咲ちゃんさ、今度、店においでよ!」
「えぇ⁉ お酒飲めないよ」
「ハハハ、ジュースぐらいあるよ!」
「う……ん。わかった」
何故、そんな事をいったのかは、わからない。同級生を今まで、家に誘ったことは、ない。夜に仕事をしてるってだけで、いつも、バカにするから。
ただ、咲の寂しそうな顔を見ていると、お母さんなら、何とか、してくれそうと、思ったから。
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