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IV章 Don’t Look Back In Anger

PART2 Don't hit, Don't hit!

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テニス部というのは、どのようなイメージでしょうか。
かっこいい、地味。ださい。スマート...

だいたいあっていますが、うちのテニス部の1年生には異端児が集まっています。

ギアルは、みためだけいうとパソコン部。色白で細いからだつきは、殴られたら骨が折れそうです。

織田は、みためだけいうとヤンキー。黒く焼けた肌に、屈強な体つき、鋭い眼光で周りに圧を与えます。元野球部のエースでしたが、現在は脂肪が増えており、まれに巨乳化することもあります。

そんな相反する二人ですが、意外にも彼らはよく絡んでいるのです。
 
モテ男織田が、廊下で女の子に話しかけられていると、ギアルは彼を冷やかします。

「がっつかれとうなあ。モッテモテやぁ」

ギアルに冷やかされた織田は女子との会話を終えると、ギアルの元へと向かいます。

そして、「筋肉潰しやあ!」 と、ギアルの二の腕をわしづかみにするのです。

筋肉が潰されるギアルは「うぁわわやぁー」と叫びます。

しかし、筋肉がつぶされるわりには、控えめな叫び声です。

実際筋肉が潰されたことがないので、筋肉が潰される痛みは想像できませんが...

そんな仲良しの彼らは、部活開始前の団らん中も隣同士にいましたが、そんな彼らのそばから急に鈍い音が響きました。

ッゴン

音が響くと同時に、織田の拳がギアルの二の腕をえぐります。

「いってぇ~!」ギアルが甲高い声を発するや否や、
「すまん!」織田は真顔で叫びます。

あまりにも心を込めて、「すまん!」と叫ぶので、ギアルは何も言い返せません。
ただただ、頬を歪ませるギアル。
 

10秒後。

ッゴン

またも鈍い音が響き、織田の拳がギアルの二の腕をえぐります。


「いってぇ~!」ギアルが蚊の鳴くような甲高い声を発するや否や、

「すぅーまぁん-!!」織田は先ほどにもまして、真顔で叫びます。

さすがに二度も殴られて黙っているギアルではありません。

ギアルは織田をキッとにらみ、こう告げます。
「謝るなら殴るなよ~」

殴るなよ!ではなく、'謝るならば、殴るな'と言う条件付け否定。
このあたりが、ギアルの優しいところです。
湊町というお柄のよろしくなき町に育った彼ですが、生粋の優しさを秘めています。

そんな優しさの塊のギアルを殴った織田は、申し訳なさそうにこう言います。

「すまん。やってもうた!」

織田がヤンキーになりきれない理由はここです。

本物のヤンキーは殴ってから謝るなんてことはしません。
しかし、織田は'謝ることができる'のです。ヤンキーっぽくてヤンキーではない、これが織田の魅力であり、やっかいな部分でもあります。

ギアルと織田の間に微妙な空気が流れる事態に、状況を観察していたボブときゃぷてんが割り込んできました。
彼らは厄介ごとをさらに厄介にさせるプロです。

「ギアル、織田は謝ってるんやから許したれよ」

「そうやな。謝ってるやつは責めたらあかん」

二人が織田の肩を持つので、ギアルはバツの悪い顔をしています。いつも色白の彼の顔が、化粧つけとんのかいなと思うほど白くなり、
「わかった...」と呟いたのです。

そんなギアルをみて、見た目ヤンキーの織田は、にんまありと笑っていました。

そして、10秒ほどの沈黙の後、またもや織田は動きました。

彼の拳がギアルの二の腕をえぐると同時に、咆哮が部室に響き渡ります。

「すまん!」と

なんと、織田は、謝ると同時に殴っているのです。

人類の歴史上、かつてこんな殴りかたをした人はいたでしょうか?!

「謝るなら殴るなよ~」というギアルの希望に沿いつつ、殴りたいという自らの欲求もかなえているのです。なんという隙のなさ!

パンパン腫れ上がった二の腕を押さえながら「殴るな~」と、訴えかけるギアル。

そんな彼を見て、さすがの織田も反省をしたのか、すっとうつむいて大人しくなりました。

これで解決したと、みんなが思った矢先でした...


「すまん!」
織田は、ギアルをみつめて、叫びます。

なんのことかと、事態が飲み込めないギアルの二の腕に襲いかかるのは、またも織田の豪腕でした。

グゥオオッーッンッ

鈍い音がこだますると同時に響くのはギアルの叫声。「イッィッテェ~」

事前に謝ってから、拳を振り抜いた織田は、腕をふらふらにしながらよろめくギアルを見つめます。
さすがに今の一発は答えたのか、ギアルは目を細めてじっと織田を睨みつけます。

この一触即発の状況に、誰もがーマジモンの喧嘩ーを覚悟しました。

「これはギアルもやり返すぞ」
「喧嘩や、喧嘩が始まるゾォ」
「おい、道端の小学生呼んでこい!大勢で盛り上げっぞ」
部員たちはささやき合います。

しかし、野次馬根性に溢れた彼らは喧嘩を止めようとはしません。
喧嘩という名の、魂のぶつかり合いを見て見たい気持ちになっていたのです。

きゃぷてん1人を除いて...
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