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IV章 Don’t Look Back In Anger
PART14 野球対決 サッカー部VSテニス部(3)
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打撃戦が想定されたテニス部VSサッカー部の野球対決ですが、荻田さんと織田の息詰まる投手戦が続いていました。
遊撃手ボブの警戒なフィールディングに、一塁手きゃぷてんの全てを受け止める安定感のある捕球で、アウトカウントを確実に増やしていきます。
ライトのギアルは穴ですが、それを見越した織田は、ライトに打たせないよう右バッターのインコースを丁寧につき、サッカー部に点を与えません。
しかし、一方のテニス部側も得点が奪えません。
中学時代は速球でバッタァをヒィヒィ言わせてきたらしいサッカー部の荻田さんは、この試合でもぼくらから三振を量産していたのです。
こうしてスコアは0-0のまま試合は進みましたが、最終回の5回、織田が荻田さんのすっぽ抜けたカーブを叩き、レフトに痛烈なライナーを放ったのです。
レフトの下川は、ボケようとしたのか、そのライナーをグラブで捕球せず、ヘディングで対処しようとします。
白球が下川の頭を当たり、ファールゾーンを転々とする間に、織田はホームまで帰還したのです。
この織田のランニングホームランで、テニス部は1点を奪います。
この回をゼロに抑えれば、という最後の裏の守り。
ツーアウトまでとったあと、エラーが二つ続き、二死二、三塁のピンチを迎えました。
エラーにイラつく織田を見かねた内野手と捕手の僕は、マウンドに集まります。
「大丈夫か織田?ここが踏ん張りどころや」
そっとんさんが励ましの言葉をかけたすぐ後に、エラーの張本人、きゃぷてんがエラーなど気にしないようなドヤ顔で織田に語りかけます。
「俺はな。
織田が中学野球の引退試合で、キャッチャーがストレート投げろ言うてるのに、一回も投げたことないパーム投げるって言い出して、めちゃめちゃ打たれた話が好きなんや」
「なんで今その話するねん」
織田は少しイラつきながら答えます。
「パーム投げて欲しいからや。今度こそパームで抑えてくれ」
きゃぷてんはそう言って織田をみつめます。
そのとき、ライトの守備についているはずのギアルがマウンドにひょっこりと現れて口を挟みました。
「パームって言うのが何かはわからんけど、パームだけはやめろよ」
「お前なんでマウンドにおるねん?」
「寂しいから来た」
「バカ、外野手はマウンドまで来たらあかん」
「遠い距離走ってんから褒めてやー」
「褒めるか!早くライトに戻れ」
「え?俺が守ってるとこライトって言うん?」
ぼくらがギアルとくだらないやりとりをしているときに織田はボソリと呟きました。
「決めた。ウイニングショットはパームや」
彼のその眼差しは、バッターボックスの荻田さんをじっと見つめています。
そこにはテニス部の織田の姿はなく、中学時代の野球部のエース織田でした。
この時の服装がヨネックスのシャツを着た半袖短パンでなければ、5.6人の女子からわんさか告白されていてもおかしくはありません。
このピンチを織田に託した僕らは各々が守備位置に戻り、試合が再開されました。
ギアルは何を思ったのか、ライトには戻らず、ベンチに座って「みんなー全力で頑張れ!」と応援しています。
織田はライト不在のことも、ニ、三塁にいるランナーも気にせず、ただバッターだけを見つめてワインドアップのモーションから豪快なフォームに移り、目一杯の速球を投げ込みました。
ズバァーン!!
ど真ん中のストレート。
荻田さんは手が出なかったのか、微動だにしません。
次の球もストレートでしたが、タイミングがバッチリあったスイングをされて、審判の真後ろへのファールボールとなりました。
ここで、ツーストライクと追い込んだ織田。
キャッチャーのぼくは、ストレートのサインを出しましたが、彼はニヤリと笑いながら首を振ります。
そして、ぼくの次のサインを確認する間も無く、ワインドアップモーションに入ったのです。
グゥァーン!!
豪快なフォームから解き放たれた白球は、蚊の止まるようなスローボールでした。
ストレートを予想していた荻田さんは意表を突かれたのか、体が前方に泳ぎます。
それでもためを作って腰でスイングする荻田さん。
そのバットから逃げるかのようにボールはストーンと落ち、ぼくのキャッチャーミットに収まったのです。
その瞬間、
「お前ら!何してるねん!!」
サッカー部の顧問でもある生徒指導担当鈴木先生の声がグラウンドに響き渡ります。
「勝手に野球しやがってぇー!!」
烈火のごとく怒り狂った鈴木先生は半袖短パンの小僧をグラウンドの隅に正座させたあげく1時間こっぴどく叱りつけ、グラウンド50周というまるで昭和のスパルタ指導を命じたのでした。
「あー、だりー」
「なんで俺らが走らなあかんねん」
命じた鈴木先生がいなくなると、ぼくらは走るのをやめて部室に戻ろうとします。
そんな中、「クッソだるいんじゃ」とキレつつも、たった1人、サボらずに50周走ろうとする織田の姿は、一際輝いていました。
遊撃手ボブの警戒なフィールディングに、一塁手きゃぷてんの全てを受け止める安定感のある捕球で、アウトカウントを確実に増やしていきます。
ライトのギアルは穴ですが、それを見越した織田は、ライトに打たせないよう右バッターのインコースを丁寧につき、サッカー部に点を与えません。
しかし、一方のテニス部側も得点が奪えません。
中学時代は速球でバッタァをヒィヒィ言わせてきたらしいサッカー部の荻田さんは、この試合でもぼくらから三振を量産していたのです。
こうしてスコアは0-0のまま試合は進みましたが、最終回の5回、織田が荻田さんのすっぽ抜けたカーブを叩き、レフトに痛烈なライナーを放ったのです。
レフトの下川は、ボケようとしたのか、そのライナーをグラブで捕球せず、ヘディングで対処しようとします。
白球が下川の頭を当たり、ファールゾーンを転々とする間に、織田はホームまで帰還したのです。
この織田のランニングホームランで、テニス部は1点を奪います。
この回をゼロに抑えれば、という最後の裏の守り。
ツーアウトまでとったあと、エラーが二つ続き、二死二、三塁のピンチを迎えました。
エラーにイラつく織田を見かねた内野手と捕手の僕は、マウンドに集まります。
「大丈夫か織田?ここが踏ん張りどころや」
そっとんさんが励ましの言葉をかけたすぐ後に、エラーの張本人、きゃぷてんがエラーなど気にしないようなドヤ顔で織田に語りかけます。
「俺はな。
織田が中学野球の引退試合で、キャッチャーがストレート投げろ言うてるのに、一回も投げたことないパーム投げるって言い出して、めちゃめちゃ打たれた話が好きなんや」
「なんで今その話するねん」
織田は少しイラつきながら答えます。
「パーム投げて欲しいからや。今度こそパームで抑えてくれ」
きゃぷてんはそう言って織田をみつめます。
そのとき、ライトの守備についているはずのギアルがマウンドにひょっこりと現れて口を挟みました。
「パームって言うのが何かはわからんけど、パームだけはやめろよ」
「お前なんでマウンドにおるねん?」
「寂しいから来た」
「バカ、外野手はマウンドまで来たらあかん」
「遠い距離走ってんから褒めてやー」
「褒めるか!早くライトに戻れ」
「え?俺が守ってるとこライトって言うん?」
ぼくらがギアルとくだらないやりとりをしているときに織田はボソリと呟きました。
「決めた。ウイニングショットはパームや」
彼のその眼差しは、バッターボックスの荻田さんをじっと見つめています。
そこにはテニス部の織田の姿はなく、中学時代の野球部のエース織田でした。
この時の服装がヨネックスのシャツを着た半袖短パンでなければ、5.6人の女子からわんさか告白されていてもおかしくはありません。
このピンチを織田に託した僕らは各々が守備位置に戻り、試合が再開されました。
ギアルは何を思ったのか、ライトには戻らず、ベンチに座って「みんなー全力で頑張れ!」と応援しています。
織田はライト不在のことも、ニ、三塁にいるランナーも気にせず、ただバッターだけを見つめてワインドアップのモーションから豪快なフォームに移り、目一杯の速球を投げ込みました。
ズバァーン!!
ど真ん中のストレート。
荻田さんは手が出なかったのか、微動だにしません。
次の球もストレートでしたが、タイミングがバッチリあったスイングをされて、審判の真後ろへのファールボールとなりました。
ここで、ツーストライクと追い込んだ織田。
キャッチャーのぼくは、ストレートのサインを出しましたが、彼はニヤリと笑いながら首を振ります。
そして、ぼくの次のサインを確認する間も無く、ワインドアップモーションに入ったのです。
グゥァーン!!
豪快なフォームから解き放たれた白球は、蚊の止まるようなスローボールでした。
ストレートを予想していた荻田さんは意表を突かれたのか、体が前方に泳ぎます。
それでもためを作って腰でスイングする荻田さん。
そのバットから逃げるかのようにボールはストーンと落ち、ぼくのキャッチャーミットに収まったのです。
その瞬間、
「お前ら!何してるねん!!」
サッカー部の顧問でもある生徒指導担当鈴木先生の声がグラウンドに響き渡ります。
「勝手に野球しやがってぇー!!」
烈火のごとく怒り狂った鈴木先生は半袖短パンの小僧をグラウンドの隅に正座させたあげく1時間こっぴどく叱りつけ、グラウンド50周というまるで昭和のスパルタ指導を命じたのでした。
「あー、だりー」
「なんで俺らが走らなあかんねん」
命じた鈴木先生がいなくなると、ぼくらは走るのをやめて部室に戻ろうとします。
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