114 / 188
特別編 ~8年の歳月、淡路島再訪~
9話 大好きな神戸・確率論
しおりを挟む
【クラ】
<8年前>
クラ。
彼は、テニス部の一員でした。
ネガティブすぎる性格と、体力面での懸念から自転車で淡路島旅行のメンバーをはずされたギアルの代わりに抜擢されたのがクラです。
特段おもしろいことを言うわけではありませんが、おちゃめなキャラクターでした。
<現在>
`クラ`は、いません。
彼の代わりにギアルが後部座席に座っています。
しかし、クラはぼくらの集団の記憶では生きていました。
「`クラ`ならここで「…」っていうよな」
「そやな。そういう普通なことを普通に言うのがクラや!」
「はっはっはー」
場にいなくとも、場を盛り上げる。
これこそがクラの真骨頂なのです。
彼はいったい今、何をしているのでしょうか…
【大好きな神戸】
<8年前>
「俺らってさ。この町、神戸にいつまでおるんやろな」
「仕事で転勤するかもしれんから、いずれこの町から去るやろうな」
「そんな現実的なこと言うなよ」
「少なくとも俺は、この町が好きや。ずっとおるよ」
<現在>
「分別なんていらんよ、全て燃えるゴミでええねん。大宮の火力舐めんなよ」
ボブは、埼玉県の大宮に住んでいました。
就職とともに上京、孤独な一人暮らしと思いきや、素晴らしい彼女がいるのです。
しかし、彼は関東という町には満足していませんでした。
「あの町は砂漠や。眠ることがない砂漠や」
「この町に未だに残ってるやつで、何か大成したやつおるか?
おらんやろ?いつまでもこんなとこおったらあかんねん」
キャプテンは、悔しそうにそう言いながらも、まだ実家にいました。
高校時代は実家の重力に負けて、学校を休みがちだった彼ですが、現在はGWの5月3日もお仕事に行くほどの立派な社会人です。
「少なくとも俺は、この町が好きや。ずっとおるよ」
そう言っていたぼくは、鳥取県に転勤になりました。
あさっぴに振られた衝撃で神戸の町から逃げ出したくなり、全国転勤の職場に就職してしまったのです。
しかし、いざ神戸を離れると、人生の展望が開けない。
「こんな薄給で全国転勤とか人生プラン立てられねーだろうが」と、転職して神戸に戻ろうとしています。
「神戸帰りてえー!神戸帰りてえー!!」
まさはるは、口癖のようにそう言っていました。
彼は、「神戸で働ける」という理由で現在の会社に就職しましたが、1年目から東京勤務になってしまったのです。
それからというもの、「神戸帰りてえー!」を連呼するまさはる。
実際、彼のモチベーションは、「神戸」であり、年に6回のハイペースで帰省するほどでした。
新幹線代で貧乏になるという事態。
ぼくらはそんな彼に尋ねました。
「まさはるっていつ転職するん?」
「なるべく早く転職したいよ。神戸帰りたいからな」
まさはるは真剣な面持ちで言いました。
それを聞いたボブはあっけらかんと言いました。
「世の中残酷なもんでな。
そこまで神戸を思っても、まさはるは東京に住むしかないねん」
「でもさ、仕事を辞めたらよくない?そしたらすぐ神戸に帰れるやん。
これってまさはる次第ちゃうん?」
その質問に答えたのは、まさはる本人ではなく、ボブでした。
「そうやで。よくそこに気付いたな。
まさはるは、`神戸帰りてぇ!`って言いたいねん。
`神戸帰りたい`のに、東京におらざるを得ない状況が好きなんかもしれん。
この点は、とっしーと、あさっぴの関係とは別やな。
まさはるは、仕事をやめれば、すぐに神戸が手に入るけど、とっしーは違うやん。
お前は出会って10年も経った今でもあさっぴがめっちゃ好きやのに、ぜっんぜん無理」
「痛いところつくなよ」
ぼくは苦笑いしました。
ギアル、彼は神戸市の上沢駅を根城に生活していました。
ぼくらの高校で唯一、大学に進学しなかった彼は、音楽の専門学校に入り、特殊技術を身に付けていたのです。
そんな彼の今の職業は、「一発を狙う男」です。
「ギアルは今、フリーターとして日銭稼ぎながら音楽の道で一発狙ってるんやろ?
一発当てれそうなん?」
キャプテンは彼に尋ねます。
「きついよ。
とっしーが、あさっぴと復縁できるくらい無理や」
「それはもう無理やん。
確率論でいうなら、俺の復縁確率は0.002%にも満たへんねんからな」
ぼくは真顔で答えます。
「せやで、無理やねん。
音楽で一発当てるなんて限りなく不可能に近い。
でもお前は、こんなに無理やのにあさっぴをまだあきらめてないんやろ?
俺も諦めてないねん」
「痛いところつくなよ」
ぼくは先ほどにもまして、苦笑いしました。
ギアルは、ひょうひょうと言います。
「でもさ。無理でも死ぬわけじゃないやん。
とっしーがあさっぴ無理でも、いや、無理やけど、お前は生きていける。
俺も音楽で一発当てれなくても生きてはいける。
しかも、俺は、音楽でミスって所持金が1万円になっても、飯食わせてくれる人がおるからな」
そのとき、ボブがにんまりと笑ってギアルに言いました。
「まかせろ、ギアル。
お前が所持金1万円になったときには、俺はいつでもうまい飯食わせるわ」
「うぅれしー」
<8年前>
クラ。
彼は、テニス部の一員でした。
ネガティブすぎる性格と、体力面での懸念から自転車で淡路島旅行のメンバーをはずされたギアルの代わりに抜擢されたのがクラです。
特段おもしろいことを言うわけではありませんが、おちゃめなキャラクターでした。
<現在>
`クラ`は、いません。
彼の代わりにギアルが後部座席に座っています。
しかし、クラはぼくらの集団の記憶では生きていました。
「`クラ`ならここで「…」っていうよな」
「そやな。そういう普通なことを普通に言うのがクラや!」
「はっはっはー」
場にいなくとも、場を盛り上げる。
これこそがクラの真骨頂なのです。
彼はいったい今、何をしているのでしょうか…
【大好きな神戸】
<8年前>
「俺らってさ。この町、神戸にいつまでおるんやろな」
「仕事で転勤するかもしれんから、いずれこの町から去るやろうな」
「そんな現実的なこと言うなよ」
「少なくとも俺は、この町が好きや。ずっとおるよ」
<現在>
「分別なんていらんよ、全て燃えるゴミでええねん。大宮の火力舐めんなよ」
ボブは、埼玉県の大宮に住んでいました。
就職とともに上京、孤独な一人暮らしと思いきや、素晴らしい彼女がいるのです。
しかし、彼は関東という町には満足していませんでした。
「あの町は砂漠や。眠ることがない砂漠や」
「この町に未だに残ってるやつで、何か大成したやつおるか?
おらんやろ?いつまでもこんなとこおったらあかんねん」
キャプテンは、悔しそうにそう言いながらも、まだ実家にいました。
高校時代は実家の重力に負けて、学校を休みがちだった彼ですが、現在はGWの5月3日もお仕事に行くほどの立派な社会人です。
「少なくとも俺は、この町が好きや。ずっとおるよ」
そう言っていたぼくは、鳥取県に転勤になりました。
あさっぴに振られた衝撃で神戸の町から逃げ出したくなり、全国転勤の職場に就職してしまったのです。
しかし、いざ神戸を離れると、人生の展望が開けない。
「こんな薄給で全国転勤とか人生プラン立てられねーだろうが」と、転職して神戸に戻ろうとしています。
「神戸帰りてえー!神戸帰りてえー!!」
まさはるは、口癖のようにそう言っていました。
彼は、「神戸で働ける」という理由で現在の会社に就職しましたが、1年目から東京勤務になってしまったのです。
それからというもの、「神戸帰りてえー!」を連呼するまさはる。
実際、彼のモチベーションは、「神戸」であり、年に6回のハイペースで帰省するほどでした。
新幹線代で貧乏になるという事態。
ぼくらはそんな彼に尋ねました。
「まさはるっていつ転職するん?」
「なるべく早く転職したいよ。神戸帰りたいからな」
まさはるは真剣な面持ちで言いました。
それを聞いたボブはあっけらかんと言いました。
「世の中残酷なもんでな。
そこまで神戸を思っても、まさはるは東京に住むしかないねん」
「でもさ、仕事を辞めたらよくない?そしたらすぐ神戸に帰れるやん。
これってまさはる次第ちゃうん?」
その質問に答えたのは、まさはる本人ではなく、ボブでした。
「そうやで。よくそこに気付いたな。
まさはるは、`神戸帰りてぇ!`って言いたいねん。
`神戸帰りたい`のに、東京におらざるを得ない状況が好きなんかもしれん。
この点は、とっしーと、あさっぴの関係とは別やな。
まさはるは、仕事をやめれば、すぐに神戸が手に入るけど、とっしーは違うやん。
お前は出会って10年も経った今でもあさっぴがめっちゃ好きやのに、ぜっんぜん無理」
「痛いところつくなよ」
ぼくは苦笑いしました。
ギアル、彼は神戸市の上沢駅を根城に生活していました。
ぼくらの高校で唯一、大学に進学しなかった彼は、音楽の専門学校に入り、特殊技術を身に付けていたのです。
そんな彼の今の職業は、「一発を狙う男」です。
「ギアルは今、フリーターとして日銭稼ぎながら音楽の道で一発狙ってるんやろ?
一発当てれそうなん?」
キャプテンは彼に尋ねます。
「きついよ。
とっしーが、あさっぴと復縁できるくらい無理や」
「それはもう無理やん。
確率論でいうなら、俺の復縁確率は0.002%にも満たへんねんからな」
ぼくは真顔で答えます。
「せやで、無理やねん。
音楽で一発当てるなんて限りなく不可能に近い。
でもお前は、こんなに無理やのにあさっぴをまだあきらめてないんやろ?
俺も諦めてないねん」
「痛いところつくなよ」
ぼくは先ほどにもまして、苦笑いしました。
ギアルは、ひょうひょうと言います。
「でもさ。無理でも死ぬわけじゃないやん。
とっしーがあさっぴ無理でも、いや、無理やけど、お前は生きていける。
俺も音楽で一発当てれなくても生きてはいける。
しかも、俺は、音楽でミスって所持金が1万円になっても、飯食わせてくれる人がおるからな」
そのとき、ボブがにんまりと笑ってギアルに言いました。
「まかせろ、ギアル。
お前が所持金1万円になったときには、俺はいつでもうまい飯食わせるわ」
「うぅれしー」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる