ヒョーイザムライ

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

文字の大きさ
64 / 94
3章 京都動乱

20、侍と宗輝

しおりを挟む

「両親は、俺が生まれた時から、先祖である土居宗珊を褒め讃えていた。ことあるごとに、'宗輝もご先祖様のようになりなさい'と、言われながら育った。
一族の間でも、`祖先の宗珊様は一条兼定を支え続けた優秀な忠臣、一族の誇りだ`と称賛していた。
 
だが俺は、それが本当かどうか信じていなかった。歴史なんていうものは、あくまでも後世の者が伝えた伝承に過ぎない。一族が手放しに褒めたたえる土居宗珊が本当に優秀で素晴らしい人物だったのか、それを知りたかった,
 
それから調査を始めた。古い文献を調べて、一次資料、二次資料を読み込み、土居宗珊ゆかりの地を訪ねて、聞き込みまで行った。
 
すると、一族が決して語らなかった不都合な伝承が現れてきたんだ。
 
それは暗殺された後、成仏できなかった土居宗珊が、長宗我部元親に乗り移り、祟りをもたらしたという言い伝えだ。
 
これを考える際には、長宗我部元親について話さなければならない。
遡ること1586年。長宗我部元親は、嫡男の信親とともに秀吉の九州征伐に従軍した。しかし、仙石秀久の独断により、島津軍の策にはまって敗走し、嫡男の信親が討死してしまった。
元親は信親の死を知って自害しようとしたが家臣の諌めで伊予国の日振島に落ち延びた。
 
歴史上では、嫡男の死をきっかけに、長宗我部元親の言動はおかしくなったと言われている。
しかし、俺の推定ではそうではない。
 
溺愛する嫡男の死を受けて、精神的に不安定だった長宗我部元親の魂に憑依したのが、土居宗珊なんだ。
土居宗珊が一条兼定を滅ぼした長宗我部元親を恨んでいるとすれば、この推定につじつまはあう。
 
宗輝の話を受けて、今度は侍が話し始めた。
 
「お前の推定通りじゃ。
儂は暗殺されたあと、無念のあまり成仏できなかった。そして、魂だけの存在となり、主君を滅ぼした敵・長宗我部元親への復讐の機会をうかがっておったのじゃ。
そして、嫡男の死に苦しんでいた元親に憑依し、時折彼の意識を奪って奇行に走った。短気で素行が悪く、評判の悪かった元親の四男・盛親に家督を譲らせたのも、儂が元親の意識を奪ったからじゃ。元親の死後は再度、魂だけの存在となって彷徨っておった」
 
「つまり、あんたが元親に憑依して、長宗我部の権力失墜のための行動をしていたということだな」
 
「ああ。そして、長宗我部家は関ヶ原の戦い、大阪の陣を経て改易となった。
だが、儂はその結末を知っても成仏できかった。長宗我部家への復讐を果たしたのに成仏できない。儂はどうすれば成仏できるのかがわからなくなった。
 
そんなとき、改易されたあとの長宗我部家の旧臣が、`長宗我部家が改易となったのは、土居宗珊の祟りだ`と噂し始めた。
そして旧臣たちは、中村城にあった儂の墓にお札をはり、魂をそこに封印したのじゃ」
 
宗輝が話を続ける。
「やはり、あんたの晩年は悲惨だ。志半ばで不遇の死をとげて、恨み心のまま、長宗我部元親に乗り移った。そして結局、封印されてしまった。暗殺された諸説はあれど、殺されたのはあんたの落ち度だ。最後まで主家を、一条兼定を支え続けることはできなかった。あんたが暗殺されたから、一条兼定は、一条家は滅んだんだ…
 
そして約400年の時を経て、あんたが封印された札を剥がしたのが…当時17歳だった俺だ。
あんたの負の側面を知った俺は、あんたに興味を持った。一族の英雄が、復讐心にとらわれて、敵国の主君に憑依したという話は非常に面白そうだったからだ。
 
そしてある日、中村城の森を訪れて、あんたが封印されていた札を剥がしたんだ。その後、あんたは俺に憑依した。しかし、その頃のあんたは復讐の鬼だった。自分を封印した長宗我部家の者たちに対して恨みを抱いていた」
 
「だがしかし、儂はお主に憑依して、ともに暮らす中で、復讐心を浄化させていった。
お主は儂に、現代の言葉や仕組みを丁寧に教えてくれた。そのことには本当に感謝しておる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。

処理中です...