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3章 京都動乱
20、侍と宗輝
しおりを挟む「両親は、俺が生まれた時から、先祖である土居宗珊を褒め讃えていた。ことあるごとに、'宗輝もご先祖様のようになりなさい'と、言われながら育った。
一族の間でも、`祖先の宗珊様は一条兼定を支え続けた優秀な忠臣、一族の誇りだ`と称賛していた。
だが俺は、それが本当かどうか信じていなかった。歴史なんていうものは、あくまでも後世の者が伝えた伝承に過ぎない。一族が手放しに褒めたたえる土居宗珊が本当に優秀で素晴らしい人物だったのか、それを知りたかった,
それから調査を始めた。古い文献を調べて、一次資料、二次資料を読み込み、土居宗珊ゆかりの地を訪ねて、聞き込みまで行った。
すると、一族が決して語らなかった不都合な伝承が現れてきたんだ。
それは暗殺された後、成仏できなかった土居宗珊が、長宗我部元親に乗り移り、祟りをもたらしたという言い伝えだ。
これを考える際には、長宗我部元親について話さなければならない。
遡ること1586年。長宗我部元親は、嫡男の信親とともに秀吉の九州征伐に従軍した。しかし、仙石秀久の独断により、島津軍の策にはまって敗走し、嫡男の信親が討死してしまった。
元親は信親の死を知って自害しようとしたが家臣の諌めで伊予国の日振島に落ち延びた。
歴史上では、嫡男の死をきっかけに、長宗我部元親の言動はおかしくなったと言われている。
しかし、俺の推定ではそうではない。
溺愛する嫡男の死を受けて、精神的に不安定だった長宗我部元親の魂に憑依したのが、土居宗珊なんだ。
土居宗珊が一条兼定を滅ぼした長宗我部元親を恨んでいるとすれば、この推定につじつまはあう。
宗輝の話を受けて、今度は侍が話し始めた。
「お前の推定通りじゃ。
儂は暗殺されたあと、無念のあまり成仏できなかった。そして、魂だけの存在となり、主君を滅ぼした敵・長宗我部元親への復讐の機会をうかがっておったのじゃ。
そして、嫡男の死に苦しんでいた元親に憑依し、時折彼の意識を奪って奇行に走った。短気で素行が悪く、評判の悪かった元親の四男・盛親に家督を譲らせたのも、儂が元親の意識を奪ったからじゃ。元親の死後は再度、魂だけの存在となって彷徨っておった」
「つまり、あんたが元親に憑依して、長宗我部の権力失墜のための行動をしていたということだな」
「ああ。そして、長宗我部家は関ヶ原の戦い、大阪の陣を経て改易となった。
だが、儂はその結末を知っても成仏できかった。長宗我部家への復讐を果たしたのに成仏できない。儂はどうすれば成仏できるのかがわからなくなった。
そんなとき、改易されたあとの長宗我部家の旧臣が、`長宗我部家が改易となったのは、土居宗珊の祟りだ`と噂し始めた。
そして旧臣たちは、中村城にあった儂の墓にお札をはり、魂をそこに封印したのじゃ」
宗輝が話を続ける。
「やはり、あんたの晩年は悲惨だ。志半ばで不遇の死をとげて、恨み心のまま、長宗我部元親に乗り移った。そして結局、封印されてしまった。暗殺された諸説はあれど、殺されたのはあんたの落ち度だ。最後まで主家を、一条兼定を支え続けることはできなかった。あんたが暗殺されたから、一条兼定は、一条家は滅んだんだ…
そして約400年の時を経て、あんたが封印された札を剥がしたのが…当時17歳だった俺だ。
あんたの負の側面を知った俺は、あんたに興味を持った。一族の英雄が、復讐心にとらわれて、敵国の主君に憑依したという話は非常に面白そうだったからだ。
そしてある日、中村城の森を訪れて、あんたが封印されていた札を剥がしたんだ。その後、あんたは俺に憑依した。しかし、その頃のあんたは復讐の鬼だった。自分を封印した長宗我部家の者たちに対して恨みを抱いていた」
「だがしかし、儂はお主に憑依して、ともに暮らす中で、復讐心を浄化させていった。
お主は儂に、現代の言葉や仕組みを丁寧に教えてくれた。そのことには本当に感謝しておる」
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