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3章 京都動乱
19、侍の幽体離脱
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雪は倒れている勇とトシから目を逸らすように下を向いた。
そして涙を流しながら、込み上げてくる嗚咽を押し殺すように大きく呼吸を繰り返す。彼女は自分を救いに来た2人が、無残にも倒れている状況が信じられなかったのだ。
2人を蹴散らしたことに安堵した父は、再度、雪の実家に電話をかけた。
「もしもし。山内家か?さっきお嬢さんを助けるために2人のガキが助けにきたんだけどな。今は2人とものせちまってるぜ。だからもうあきらめて、身代金を振り込んでくれよ」
そのとき、雪は口を大きく開いて自力でガムテープを外し、そのままの勢いで叫んだ。
「お母さん!聞こえる!?私は大丈夫!だから、絶対にお金を振り込んじゃだめだよ!この人たち何か企んでるの!」
「この娘、何を言ってやがるんだ!」
父はガムテープを手に取り、再び雪の口元を覆った。
そして電話越しに「娘はああ言っているがどうすればいいかわかるよな?命が惜しければ、今日中に振り込め。振り込みが確認されなければ、この娘の命は…」
電話を終えた父に対して、雪は冷たい視線を向けて睨めつけた。
「お嬢ちゃん。なんだその目は?お前、今の状況がわかってんのか?
お前を助けにきた小僧どもはのせちまってる。警察がくるあてもねえ。絶体絶命なんだぞ?まあ、もう少しでパパがお金を振り込んでくれるんだろうけどな」
「…」雪は何も言わなかった。悲しさと怒りをどこに向ければいいのかがわからなかった。
「それと、ひとついいことを教えてやろうか。俺たちがお嬢ちゃんを攫うことができたのは、ある人物がお嬢ちゃんの位置情報を教えてくれたからなんだぜ」
「だれ…?」
「それはお前の執事のジイさんだ。以前、俺たちがお嬢ちゃんの家の周りを調査していたときに、ジイさんと出会ってな。その時にちょっと取引をしたら、すぐに俺たちに情報をくれるスパイになってくれたよ」
雪は涙を浮かべながら首を振った。「そんなはずはない...」と。
「お嬢ちゃんはあのジイさんを信じてるみたいだな。だが残念だ。事実は時に残酷なのさ?あのジイさんは、お嬢ちゃんを心配しているふりをして、結局は裏切ったんだ。人間なんていうのは、所詮そういうもんなんだよ…」
そう言った父の表情は、どこか暗い影があった。
―――――――――――――――――
勇とトシは、気を失って倒れていた。
土居宗珊の魂、つまり侍は、勇の体から離脱した。そして魂だけの存在となり、ある男の元へ向かっていた。
その男の名は土居宗輝。無賃乗車の被害にあった人力車を引いていた者だ。
彼は、侍が勇に憑依する前に、憑依していた人物であるので、侍の姿と声を感じることができる。
宗輝のところにたどりついた侍は、必死の形相で彼に訴えた。
「宗輝。20年前は儂が悪かった…すまんが今一度、力を貸してくれ」
人力車引きの仕事を終え、自宅に帰ろうとしていた宗輝は、侍の姿を見てため息を漏らす。
「昼間出会った小僧に、あんたが憑依していたのを見かけたから嫌な予感はしたんだ。だが、もう来ないでくれ。あんたには力を貸さねえって言っただろう?」
「頼む。そんなことを言わないでくれ。昔のことは水に流そう…」
「昔のことは水に流そうだと?あんた。自分が何をしたのか覚えていないのか?」
宗輝からそう言われた侍は、口を真一文字に結んで押し黙った。
「俺の名前は、土居宗輝だ。土居宗珊。あんたの子孫だ。だが俺は、あんたのことを誇りに思ってねえし、恨んでいる…」
そして宗輝は過去に思いを馳せ、侍との出会いを語り始めた。
そして涙を流しながら、込み上げてくる嗚咽を押し殺すように大きく呼吸を繰り返す。彼女は自分を救いに来た2人が、無残にも倒れている状況が信じられなかったのだ。
2人を蹴散らしたことに安堵した父は、再度、雪の実家に電話をかけた。
「もしもし。山内家か?さっきお嬢さんを助けるために2人のガキが助けにきたんだけどな。今は2人とものせちまってるぜ。だからもうあきらめて、身代金を振り込んでくれよ」
そのとき、雪は口を大きく開いて自力でガムテープを外し、そのままの勢いで叫んだ。
「お母さん!聞こえる!?私は大丈夫!だから、絶対にお金を振り込んじゃだめだよ!この人たち何か企んでるの!」
「この娘、何を言ってやがるんだ!」
父はガムテープを手に取り、再び雪の口元を覆った。
そして電話越しに「娘はああ言っているがどうすればいいかわかるよな?命が惜しければ、今日中に振り込め。振り込みが確認されなければ、この娘の命は…」
電話を終えた父に対して、雪は冷たい視線を向けて睨めつけた。
「お嬢ちゃん。なんだその目は?お前、今の状況がわかってんのか?
お前を助けにきた小僧どもはのせちまってる。警察がくるあてもねえ。絶体絶命なんだぞ?まあ、もう少しでパパがお金を振り込んでくれるんだろうけどな」
「…」雪は何も言わなかった。悲しさと怒りをどこに向ければいいのかがわからなかった。
「それと、ひとついいことを教えてやろうか。俺たちがお嬢ちゃんを攫うことができたのは、ある人物がお嬢ちゃんの位置情報を教えてくれたからなんだぜ」
「だれ…?」
「それはお前の執事のジイさんだ。以前、俺たちがお嬢ちゃんの家の周りを調査していたときに、ジイさんと出会ってな。その時にちょっと取引をしたら、すぐに俺たちに情報をくれるスパイになってくれたよ」
雪は涙を浮かべながら首を振った。「そんなはずはない...」と。
「お嬢ちゃんはあのジイさんを信じてるみたいだな。だが残念だ。事実は時に残酷なのさ?あのジイさんは、お嬢ちゃんを心配しているふりをして、結局は裏切ったんだ。人間なんていうのは、所詮そういうもんなんだよ…」
そう言った父の表情は、どこか暗い影があった。
―――――――――――――――――
勇とトシは、気を失って倒れていた。
土居宗珊の魂、つまり侍は、勇の体から離脱した。そして魂だけの存在となり、ある男の元へ向かっていた。
その男の名は土居宗輝。無賃乗車の被害にあった人力車を引いていた者だ。
彼は、侍が勇に憑依する前に、憑依していた人物であるので、侍の姿と声を感じることができる。
宗輝のところにたどりついた侍は、必死の形相で彼に訴えた。
「宗輝。20年前は儂が悪かった…すまんが今一度、力を貸してくれ」
人力車引きの仕事を終え、自宅に帰ろうとしていた宗輝は、侍の姿を見てため息を漏らす。
「昼間出会った小僧に、あんたが憑依していたのを見かけたから嫌な予感はしたんだ。だが、もう来ないでくれ。あんたには力を貸さねえって言っただろう?」
「頼む。そんなことを言わないでくれ。昔のことは水に流そう…」
「昔のことは水に流そうだと?あんた。自分が何をしたのか覚えていないのか?」
宗輝からそう言われた侍は、口を真一文字に結んで押し黙った。
「俺の名前は、土居宗輝だ。土居宗珊。あんたの子孫だ。だが俺は、あんたのことを誇りに思ってねえし、恨んでいる…」
そして宗輝は過去に思いを馳せ、侍との出会いを語り始めた。
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