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4章 選挙と特訓
1、からっぽ
しおりを挟む修学旅行から1週間が経った。
雪の父の判断で2000万円を振り込んだ山内家は、次回選挙の資金繰りに困っているそうだ。しかし娘が無事に戻ってきてくれたことは、両親を心底喜ばせた。
しかし雪は、自分が攫われてしまったことで両親に2000万円を払わせてしまったことに大きな罪悪感を抱えていた。
そんな彼女にとって、もう一つ胸の痛む出来事があった。
それはあの事件以降、執事のジイが山内家のもとを去っていたことだ。勇の父が言っていたように、ジイが暴力団に内通していたということは本当だったらしい。
それを知った雪は、泣きじゃくった。その事実が信じられなかったのだ。
しかし、いくら泣いても現実は変わらない。
彼女の幼い頃から執事として温かく見守ってくれていたジイ。彼はもういない…
―――――――――――――――――
長元組の事務所は、お祭り騒ぎだった。
勇とトシに敗れた男たちも、致命傷は避けており、すぐに回復していた。
下士の末裔の彼らは、因縁の山内家から奪い取った2000万円の使い道について、思案していた。
その席に、ある一人の紳士の姿があった。それは、ジイだ。
暴力団の頭である勇の父は、ジイの肩を抱き寄せた。
「お嬢さんの位置情報の提供、そして、両親に2000万円を振り込むべきだとあんたが催促してくれた。そのおかげで2000万円が手に入ったぜ。ありがとよ。約束通り、成功報酬だ」
そして、10万円分の小切手を手渡す。
「でもいいのか、ジイさん?たった10万円で?」
「いいのですよ。年金もありますし。ただし、ひとつお願いがあるのです。それはあなたたちがこれからこの2000万円どのように使うのか、これから見させてほしいのです。
山内家の執事を辞めて、時間に余裕がありますし、刺激的な余生を送りたいのでねえ…」
「ああ、別に構わねえよ、なあみんな?」
「おお!ジイさんはこの2000万円を奪い取れた功労者だからな!」
それ以降、誰もジイの存在に疑問を持たなかった。
しかし、ジイの行動には不可解な点が多い。長元組のメンバーは知らないが、勇とトシに雪が捕らわれている場所を伝えたのはジイだ。彼の二重スパイのような行動に、どういう意味があるのか、誰もわからなかった。
―――――――――――――――――
「絶望をいかにして乗り越えるか。それが人生を面白くする」
多くの自己啓発書や、成功者や偉人はそう語る。
しかし、そんなに簡単なことではないのではないだろうか…
日々、そんなことを思いながら、ぼくは部屋に引きこもっていた。
修学旅行以降、ぼくは学校を休むようになり、長い間続けていた剣道のトレーニングも辞めて、道場にも通わなくなった。
京都での一件や、父と遭遇したことをぼくから聞いた母は、その心労を察して、無理に学校にいきなさいとは言わなかった。
雪やトシから、ラインや電話が来たがぼくはそれにも反応しなかった。
なぜだろうか、気力がなくなってしまったのだ。
京都では、いろいろなことがあった。
ぼくのせいで雪は攫われた、そして自分の力では彼女を救うこともできずに、2000万円の身代金を雪の両親に払わせてしまった。さらに、雪を攫ったのは、暴力団の頭であるぼくの父親だ。
何もかもが嫌になった。そして、何もできなかった自分が本当に情けなくなった。
最も悲しいことは、侍さんがいなくなってしまったことだ。
京都で意識を取り戻したとき、侍さんは人力車のお兄さんのそばにいた。しかし、ぼくには声をかけてくれなかった。そして今も、そのまま人力車のお兄さんの元にいるようだ。
しかしぼくはあのとき侍さんに、戻ってきてくれとは言えなかった。きっと侍さんは、ぼくが一条兼定様だけでなく、長宗我部元親の血筋を引いていたことに戸惑っているのだ。彼は、もう戻ってきてくれないのかもしれない。
一条兼定も長宗我部元親も、ぼくの先祖は侍さんに仇をなした人物だ、自分の血筋を恨んでもどうしようもない。
このように、ぼくはとにかく悲観的になっていた。侍さんと過ごしていたこの数か月は、彼のおかげで前向きな気持ちを抱くことができていたが、今はもうできない。
この世に生まれ落ちた時は、誰もが光に包まれていたのだろうが、深い嘆きがその者の心を闇に染める…
心は、またもやからっぽになってしまった。
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