ヒョーイザムライ

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

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5章 決戦と別れ

2、現金輸送車と白バイ

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8時間かけて移動し、東京から中村に帰ってきたとき、ぼくのスマホに身に覚えのない番号から電話がかかってきた。
 
「もしもし」
 
「あ、勇くんですか?あなたは今、どこにいるんですか?」
声の主は、意図的に声色を変えているようだったが、その声はどこかで聞き覚えがある。
 
「勇です。今、中村駅ですが、あなたは誰ですか?」
 
電話口の男は、自分の正体には触れずに、話を続ける。
「では、大切なことを言いますよ。今、この中村の町は大変なことになっています」
 
「…どういうことですか?」ぼくは話の意図がつかめなかった。
 
「まずは、四国銀行四万十川支店に行ってください…」
電話はそこで途切れた。
 
不審に思ったぼくら3人は、すぐにそこに向かった。
 

―――――――――――――――――
 
現金輸送車は、おもに現金輸送を目的とする特別な自動車だ。
 
普通車両よりも丈夫に作られ、防犯のためキャビンとは隔壁で分けられた貴重品金庫室や電子錠を備えている。
 
乗要員が持つリモコンからの信号で車両のエンジンを電子的に破壊して逃走を阻止する非常停止装置や、GPSを用いた現在位置把握装置などが備わっている。
 
各銀行が自身の支店へ現金を運ぶための現金輸送車、つまりルート便は現金輸送の要だった。

時刻は16時前、四国銀行中村支店に向かっているルート便にの後方から1台の白バイが走ってきた。その後、現金輸送車の前を塞ぐようにして停車した。
 
不審に思った現金輸送車の運転手、斎藤は車を停車させる。
このとき、現金輸送車の鉄則、「止めるな」は破られることになる。
 
窓から首を出した斎藤は、白バイの男に、「どうしたんですか」と尋ねた。
本来は助手席の人員も含めた2名体制で、業務を行う必要があるのだが、助手席にいた上司の原田が突如、腹痛を訴えて離脱したため、斎藤しか車に乗っていなかった。
 
白バイに乗った男は、斎藤にこう言った。「貴方の銀行が銀行強盗にあった。犯人がこの輸送車にダイナマイトを仕掛けたという連絡があったので調べさせてくれ」そして、輸送車の車体下周りに潜り込んで捜索を始めた。
 
斎藤もついさっき、無線で銀行強盗のニュースを聞いたところだった。ダイナマイトが仕掛けられているという可能性もゼロではない。斎藤はドアを開け、男の行動を見守った。
 
しかし、彼は迷っていた。車体下周りをこのまま捜索させておいてよいのだろうか、と。この男は本当に白バイ警官だということに確証が持てなかったのだ。
 
彼の迷いは、自信のなさに起因していた。

現金輸送車の警備員は、輸送警備員呼ばれる専門職である。リスクの高い仕事であるため、警備会社に勤めている人の中でも信頼のおける人しかつくことができない。
しかし斎藤は、新米の輸送警備員であり、現金輸送の経験も数えるほどだった。ベテランで教育係の原田が離脱した今、彼自身で判断ができるほどの経験を持ち合わせていなかったのだ。
 
車体下回りに潜り込んでいた男は、ひょっこりと顔をだすと、「輸送車からダイナマイトは取り外せたが、道路に落ちてしまった!爆発するぞ!早く逃げろ!」と叫んだ。

それを聞いた斎藤は慌てた。そして現金輸送車の鉄則、「止めるな、開けるな、離れるな」のうち最も大切な、「離れるな」を破ってしまったのだ。
 
 
一目散に逃げだし、10mほど離れたが、爆発音はなかった。
だが、後ろを振り返ったときにはもう手遅れだった。
 
白バイに乗っていた男は、輸送車に乗り込み、運転席のドアを閉めて走り出していたのだ。
この時、斎藤は思った。なんと勇敢な「警察官」なんだろう。爆発から輸送車を退避させてくれたのか。
 
輸送車を停めてあった場所には、ダイナマイトのようなものが激しく炎を上げていたが、ほどなく自然に鎮火する。不思議に思って引き返した斎藤は、炎を上げていたものが発煙筒であることに気付いた。
 
そう。男はダイナマイトを探すふりをして、発煙筒に火をつけただけだったのだ。まんまと騙された斎藤は、サヨナラ弾を浴びた投手のように肩を落とした。
 
しかし、その場に残された白バイは、間違いなく本物だ。ではあの「警察官」の服を着た男は何者なのか、これは現金強奪事件なのだろうか…
 
斎藤はすぐに警察に連絡し、一部始終を報告した。すると、警察は斎藤にこう伝えた。「つい先ほど、白バイが1台盗まれている。また、1週間前に警察官の制服が盗まれていた。間違いない、これは現金強奪事件だ…」
 
斎藤は警察に電話をする前に、すべきことがあった。それは、乗要員が身に着けているリモコンからの信号で車両のエンジンを電子的に破壊して、非常停止装置を作動させることだ。
しかし、斎藤はそれを失念していた。
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