ヒョーイザムライ

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

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5章 決戦と別れ

10、憑依の刻 終

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<憑依の刻>
 
少年は踏み込んだ勢いのまま、電光のように上段から手首に向かって撃ち落とした。眼にも止まらぬ疾さである。
しかしその太刀筋は、父に見極められていた。父はさっと腕を動かし、致命傷を避ける。
 
少年は撃ち落とした刀を即座にひるがえし、再び上段から存分に撃ちこんだ。しかし父も同時に打ち込んでいる。ほんの少し父の撃ち込みのほうが激しく少年の刀は横に払われた。少年の態勢が崩れたところに面にきた。危うく鍔で受けたとき、ばっと火花が飛ぶ。
 
その後も少年は攻め続けた。父の間合いに斬り込み、そのままに横薙ぎした。しかし父はそれを振り払う。お互いに決定打がなく、膠着状態に落ち着いた。さらに数合打ち合った後、互いの間合いをどう侵すか、中心の取り合いが始まった。
 
少年と父の体を借りてはいるが、それはまさに、長宗我部元親と土居宗珊の因縁の戦いだった。
 
その後も、両者一歩も譲らぬ打ち合いが続いた。大粒の雨音と刀同士がぶつかる音だけが鳴り響いた。
剣と剣の戦いは体が勝手に反応するというが、両者の戦いはまさにその通りだった。
 
互角の戦いが続いた勝負だったが、父はここで仕掛けた。少年の癖でほんの少し空いている左を目掛けて、小手を繰り出した。
 
そこからの少年は、受けの一方だった。相手の刀は容赦なく、肩、腕の付け根、肘、などにピシピシと食い込んだ。少年が刀を持つ手は鉄棒のように重くなっている。
 
戦いの最中も、少年の魂の蝋燭は轟々と燃え上がっていた。
今までで最も長い戦闘時間は、少年の体に与えるダメージが大きいようだ。
 
侍は、これ以上少年に憑依して戦っても、相手に致命傷を与えるイメージができなかった。
「儂では勝てんかもしれん…」そう呟いたあと、侍は憑依から外れた。
 
 
―――――――――――――――――
 
宗輝は身体を反転させて、背後から迫った凶刃を交わした。刀を振り下ろしてきた男の顔面を右肘で打ち付ける。鼻の真ん中にクリーンヒットし、3人目の気絶者となった。
 
最後の四人目の男は、顔が引きつっていた。仲間がいとも簡単に倒されていくことに驚いているのかもしれない。宗輝は男に向かって突進し、気合いとともに左足を踏み込んで斬ったが、相手の刀に太刀筋を防がれた。しかしすぐさま、手首に小手を打ち込み、ひるんだところを脳天に面を命中させた。
 
男はなすすべもなく、前のめりになって倒れた。


―――――――――――――――――
 
ぼくが意識を取り戻したとき、体中がズキズキと痛んだ。ぼくの横では侍さんが、「すまん勇、勝てんかった…」と申し訳なさそうに首をたれている。
 
侍さんが憑依を解いたのと同じ時に、長宗我部元親も父からの憑依を外れているようだ。
 
そして父は、ぼくに語りかける。
「勇、もうあきらめろ。土居が憑依して戦っても俺には勝てなかった。お前に勝ち目はない」
 
「まだ勝負はついちゃいない…」
 
「ボロボロの体で強がりをいいやがって…」
父は呆れるように呟いた。
 
まだ終わってはいない。諦めない限り、活路はある。脳内では'終わらない歌'が流れていた。



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