ヒョーイザムライ

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

文字の大きさ
87 / 94
5章 決戦と別れ

11、死闘の末に

しおりを挟む
ぼくは刀を握り直し、再度、攻撃の構えをとった。

「ちょっと待て、勇。とどめを刺す前に、お前に聞いておきたいことがある。お前は自分が長宗我部家と一条家の血を受け継いでいるということを知ってどう思った?
どちらの先祖を大切に思っている?」

「ぼくは自分の先祖を知って苦しんだこともあった。引きこもりになりそうになったし、病んでしまいそうになった。でも、今は違う。どちらかの先祖に優劣をつけることはしないし、さらにその先祖によって自分が思い悩むこともしない!侍さんも言ってくれたけれど、先祖が誰であろうと、ぼくはぼくなんだ!」

「その通りじゃ、勇…」と侍さんもうなづいている。

しかし父はかぶりを振った。
「関係ないことはない!俺たちは、先祖から命を紡いでもらっているんだ。先祖の活躍があったからこそ、今ここに生きている。最近、先祖を大事にしない奴らがいるが、俺には考えられん…
先祖の敵は、今も敵だ。俺の先祖の長宗我部家にとっては侵略者の山内家であり。下士の出身者で占められた長元組にとっても統治者の山内家だ。まあ、選挙では負けちまったがなあ…」

ぼくは父の話を聞いて、心底悲しくなった。
「父さんはさ。目の前の人と先祖と、どちらが大事なの?」

「なんだと?」

「父さんたちは、恨み事ばかりじゃないか…
一条家は長宗我部家を恨んで、長宗我部家は山内家を恨んで…
どれだけ恨んでも、復讐しようとしても、何も解決しないんだよ?いつまで、拘ってるんだよ!?」

ぼくの言葉は侍さんにも突き刺さっていたようだ。侍さんもかつては、自分を陥れた長宗我部元親を恨んでいたのだから。

「それは先祖の関係だけじゃないよ。国際関係だってそうだよ。韓国と日本はいつまでいがみあっているの?ドイツとフランスだってかつては憎き敵だったけど、今では友好関係を築いているじゃないか。戦いが終われば、ノーサイド。そしてお互いの手を取り合うことはできないの?
そして、自分の隣の人や大切な人に、感謝や優しさを…」

「もういい!」父はぼくの言葉を遮った。「綺麗ごとはもう十分だ…世の中は、そんなに甘くはないんだ!もうおしゃべりは終わりだ。とどめを刺してやる」
そう言って父は、木刀を中段に構える。

「勇、お前の力で父を倒すのじゃ!」侍さんはぼくを激励した。そして中段に構え、父と対峙した。

お互いに向かい合い相手の仕掛けを待つ。ドクドクと、まるで互いの呼吸が聴こえようだった。
こちらが間合いを詰めると、父はすっと身を引いて間合いを開けた。しかし間合いを詰めることができても、こちらに勝機があるとは思えなかった。多少修行を積んだとはいえ、父との実力差を感じていたのだ。得物を握る手が汗ばむ。どうしたら勝てるのだろうか。

ぼくの動揺を感じ取った父の動きは早かった。さっとすばやく踏み込み、腰を落としたままぼくの腹部を横薙ぎした。腹筋が割れるかのように傷み、膝をついてしまう。

「勇、自信を持つのじゃ!儂らと特訓したじゃろう!大丈夫、きっと勝てる!」侍さんは、ぼくを必死に激励した。

しかし、父は攻めを緩めない、真正面から間髪を入れず、次々と斬りたてる。腕や手首を何度も打たれ、手の感覚がなくなってきた。ギリギリのところで致命傷を避けていたが、勢いに押されてジリジリと後ろに退がっていった。
だがそこで踏みとどまり、再度構え直した。父も少し攻めあぐねているようだった。ぼくは防戦一方だったが、守りの意識が強く、致命傷は受けていなかった。

ここで焦りが生じてきた。このままでは負けてしまう。
もちろんぼくが負けて気絶してしまっても、宗輝さんがいるのだけれど、それじゃ京都の時と同じだ。人に頼っていてはだめなんだ。なんとしてもぼくの力で、父の愚かな野望を止めなければならない。そうでないと、父は自らの行動の過ちに気付いてくれないのだ。

「戦いのコツは、如何なる時でも慌てず、冷静にじゃ」侍さんは再度ぼくに激励の言葉をかけた。
そうだ、冷静さだ。どんなときでも冷静に戦況を観察しなければならない。

突破口を求めたぼくは、さっと中段に構え直して中心をとった。そしてつっと間合を詰めた。剣先で圧迫しつつ、「やあ」と手を上げて胴を襲った。しかし、振り下ろした刀は父の体には届かず、あっさりと弾かれてしまう。


「そろそろ勝負を決めようか」父はそう言うと、刀をやや下段に構えた。「下段…」ぼくはその構えをチャンスだと思った。府中市での修行でスナップを鍛えた特訓が活きるはずだ。

そのとき、父の木刀は恐ろしく早い速度で弧を描き、巻き込むようにぼくの刀を捉えようとした。ぼくは手首の力を最大限に使い、父の木刀から逃げるように、自分の木刀に弧を描かせる。そして父が描いた弧をはるかに上回るスピードで円を描き、父の木刀を巻き込むように捉えた。

バチッ、という大きな音がなり、父の持っていた木刀を上空にはじきとばした。その一瞬の隙を見逃さず、ぼくは父の頭上に木刀を振り下ろした。
「これで、終わりだぁ!!!」
ゴンッという鈍い音をたてて、父の頭上に木刀が突き刺さった。父はうなだれるように、コンクリートの上に倒れた。

降りしきる雨、音を立てて転がる木刀…ぼくは、父に勝ったのだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...