歌えなくなったオメガを匿った夜から、ふたりの秘密が始まった

スピカナ

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第3話 見守り

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 翌朝になっても彼は目を覚まさなかった。
でも尿が順調に出ているから、まあいいか。

目が覚めたらおかゆを食べさせよう。
とりあえず八分粥を作った。それと卵焼きでいいかな。
あとは梅干しだ。あとでお腹が空くようなら、また何か作ろう。

今朝も診察したが、どうしようかな……。
いろいろ検査したいけど、していいのかどうか?

テレビをつけてみた。
きっと誰かが探しているはずだよな。
民放のワイドショーにした――あ、やっぱり捜索がかかってる。
舞台が終わった後は行方不明になっている。

どうしよう……?
でもどう考えても、何か問題があって緊急避難したとしか思えない。

ここは様子を見るべきか。
血圧が低いし、まだ熱もある。
今日も点滴は外せない。

枕元にペットボトルの水とバナナ、それに置き手紙を書いて仕事に出た。
置手紙には、
「ちょっと仕事に行って来るけど、点滴が終わるまでには帰る。安心して眠ってていいよ」

仕事先の佐久間総合病院は、うちから徒歩五分だ。
点滴が終わるまでには戻らないといけない。
病院長をしているから、郵便物やいろんなことを処理する。
須田看護部長に「家で事務仕事をするからオンコールにしてほしい」と伝言した。

早く帰ろう。
途中のコンビニでゼリーやリンゴ、パンなどを少し買い込む。
それと彼の着替えの下着や靴下も買ってきた。

昨日の汚れた服はもう洗濯して乾燥まで済んだから、たたんでベッドのそばに置いた。
帰ると、彼はまだ眠ったままだった。
一度も目を覚ましていないのだろうか?

少し診察した。朝と変わりなしだな。
まだ熱が37度8分ある。
よほど身体が疲れているのだろう。

もし検査するならマイナンバーカードが必要だ。
捜索がかかっている人のを使うのはまずい。

彼の居場所がバレるし、下手するとこっちが悪者になる。
正式に彼を守れる準備が整うまでは、秘密にするしかない。

とりあえず、まだうちにまだ医薬品のストックがあるからいいけど。

それでも彼の財布を見せてもらった。
マイナンバーカードも入っていたし、大学の学生証が入っていた。

俺と同じ大学だ。
なんだかちょっとうれしい。
18歳なのか......良かった。ほっとした。

未成年者誘拐なんてことになったら困る。
実はそれを心配していた。

温かいおしぼりを作って、顔や手のひらを拭いてやった。
顔に少しクリームもつけてあげようか。
愛らしい顔立ちだ。まつげが長い。
早く目を覚ましてくれないと、つい甘やかしちゃうよ。

起こして話したい気持ちでいっぱいだが、ここは待つべきだろう。

パソコンをこの部屋に運んで、少し仕事をしよう。
仕事関係のメールはここでもチェックできる。
そうやって夜になった。

点滴はずっと続けているが、今夜寝る時には一旦外そう。
早めに留置カテーテルを入れておいてよかった。

もう少し水を飲ませてやりたいが、余程バテているのだろうか。
今は夜11時だ。
俺も昨夜はあまり眠れなかったから、そろそろ休みたい。

彼の様子をずっと見ているけど、まったく反応がない。珍しいな。
このまま明日も反応がないなら、CTや他の検査を一通りやらないといけない。

彼の柔らかい髪を撫で、頬にそっと触れた。
可愛い顔をしているな。全体に小柄だ。
点滴を外した。
横のベッドで休もう。


夜中にガサゴソ音がした。
え?と目を覚ました。

彼の方を見ると、目を開けている。
小さなライトを点けておいて良かった。

起きて彼のそばに行き、膝をついて目線を合わせた。
「目が覚めたの? 水を飲む?」
小さく頷いた。

枕元のナイトテーブルに置いていた吸い飲みで、頭を少し起こして飲ませてあげた。
少しずつ飲んでいた。

飲み終わると俺をじっと見つめているけど、何も話さない。
なんだか目だけきょろきょろさせて、不安げにしている。

「ここは俺の家だよ。独り住まいだから安心して寝てていいよ。
君のことは誰にも言ってないからね。
あ、俺は佐久間陽一、精神科の医者だよ。
まだ熱があるから、安心して眠っていいよ」

するとすーっと目を閉じて眠ってしまった。
まあ今夜はこれでいいか。

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