診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第3章 新たな人材を求めて

46話 甘えんぼ

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 翌日、掲示板で流して、朝礼でもスタッフに紹介してもらえるようお願いしておいた。

院長室に戻ると、夏が少し不満げな顔をしていた。

夏「お兄さん、俺さ……桐生さんから聞くまで感謝金のことなんて全然知らなかったよ」

「そう? だって練習で忙しかっただろう?」

夏「そこ? もう練習なら済ませたよ」

「じゃあ、もう大丈夫なのか?」

夏「大丈夫。それにもうアポイントも取ったんだ」

「ふ~ん、いつだ?」

夏「今度の土曜、午後3時」

「うん、わかった。パリッとしたスーツで行くんだぞ」

 夏はまだ何か言いたげな表情を浮かべていた。

「まだ言いたいことでもあるのか?」

夏「ないよ……」そうつぶやき、視線を落とした。ふっ。

「アニメプラスの引っ越しは決まったのか?」

夏「決まったよ。今度の金曜だよ」

「どこに?」

夏「駅前のフーズのビルの上、3階のフロアが空いたんだ。そこにカンパニーも一緒に入る」

「ふ~ん」

夏「……まだ用事あるの?」

 「別にないけどな」

 そう言い残し、夏は部屋を出て行った。

 ったく……子供だなあ。

桐生さんを呼んだ。

桐生「はい。御用でしょうか?」

「理事は何かあったのか? なんだか言いたそうにしてたけど」

桐生「ああ……おそらくですが、社長に叱られたみたいです。

人材集めにアイデアはあるのか、と問われたらしいんです。

院長が抜群のアイデアを出されたので、理事も一緒に考えたのだと思われたのですが、ご存じなかったようで、社長はかなりがっかりされたそうです」

「そうか……。練習で忙しいと思ったから、仕事を上乗せしたくなかったんだよ。

あれから何も言ってこなかったから、まだ練習をしてるのかと思ったんだよ」

桐生「いえ、あれからは台本に沿ってしっかり練習されましたよ。

想定問答も何度も繰り返しましたから、もう大丈夫だと思います」

「そうか、本当にありがとう。お世話になりました」

桐生「いえいえ。ただ、理事がなんだか寂しそうで……。

少しかまってあげてくださいませんか? 

見ていてかわいそうになるんです」

「えっ?」

 桐生さんの優しい微笑みに、思わず頬が緩んだ。

「ちょっと厳しすぎたかな?」

桐生「いいんじゃないですか? 試練を与えられるのは院長だけですから。むしろ恵まれてますよ」

「ははっ、そうか。理事は今どこに?」

「理事室にいらっしゃると思います」

「うん、わかった。ありがとう。お疲れさま」

 桐生さんは笑顔のまま戻っていった。

 さて……どうしたものかな。

 インカムで夏に「一緒に帰ろうか」と声をかけると、一分も経たないうちに飛んで来た。……早いな。

「じゃあ、帰ろう」立ち上がってドアに向かうと、後ろから抱きつかれた。

「早く帰るぞ」

「ダメ……今じゃなきゃいやだ」

 くるりと振り返り、夏をぎゅっと抱きしめる。

「……ったく、どうしようもない甘えんぼだな」

 夏は小さく頷き、顔をすり寄せてきた。

「だから、俺のこと見捨てないで。寂しいよ」

「見捨ててないさ。期待してるから鍛えてるだけだ」

「本当?」

「ふっ、決まってるだろ。社長から預かってるんだ。

どこまでも鍛えてやるさ。まったく手間のかかるやつだ」

 夏がくすくす笑い出した。

「だよね? えへへへ」

 つられて俺も笑ってしまう。

この単純さが、憎めないくらい可愛い。

「ほら、帰るぞ。一緒に風呂入るか?」

「うん! 入るっ」

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