診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第9章 内定した方の為に

174話 社長の爆弾

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 夏と桐生さんが院長室にやって来た。

夏「院長、あれからもう三日も経ったけど、世間が静かだよね? どうなったんだろう……」

「いや、そんなことはないと思うよ。多分、大学の病院長は“医療従事者の人権問題”として、医療倫理機構に非公式報告したと思うよ。」

理事は腕を組んで首をかしげた。

理事「だって、それだけでどれだけの効果があるの? あの8人はじっと待ってるみたいだけどさ。」

「あとは社長の動きだね。もう弁護士名を入れて警告を出しているはずだから、3次センターの母体は大慌てだと思うけど」

理事「三枝さんが菜の花タイムズに8人の経過を掲載したから、みんなで情報は共有できたと思うけどね。みんな心配してるよ。」

「まあ、待てよ。8名もいなくなった救命センターなんて、救急の受け入れはできるわけがない。秘密にしても、行政指導が入れば格下げは避けられない。……ただ、まだ財団の方がジタバタしてるのかもしれない」

 その時、桐生さんが声を上げた。

「院長、今、社長の秘書の方から連絡がありました! 10時からニュースが入るそうです。社長が声明を発表されるとか!」

「え??」

理事が慌ててテレビをつけた。

画面には浅田社長の姿が映り、ニュースのテロップが流れていた。

『医療従事者を人として扱うことを忘れた救命体制に警鐘を鳴らす』

――長時間労働・心理的圧力による離職をめぐる声明――

「私たちは、医療の名のもとに人間性を犠牲にするような労務体制を、決して容認しません。
 最近、都内某救命センターにおいて、医師・看護師らが過重労働により心身を壊し、“病気”とされて退職を余儀なくされた事案を把握しました。
 医療の本質は、人を救うことであって、人を壊すことではない。
 関係機関に対し、調査と是正を求めます。

 今後はこの被害者たちへの謝罪と、3次救命センターにおける体制改善を強く要求します。
 なお、これらの被害者に関する証拠は、弁護士によりすべて保全されており、
 いつでも法的手段に訴える準備があることを申し添えます。」

発信:浅田工業株式会社/菜の花病院 代表取締役社長 浅田一郎

 

理事が息を吐いた。「……ふっ、来たねえ。」

「さあ、大変だぞ。社長の爆弾だな。」

桐生さんが続けた。

「追加情報が秘書から入りました。あの経営母体、社長の古い取引先だったそうです。
 今、支援の条件を“見直す”と通告したとのことです。これはもう逃げ場がないですね。」

院長「そうだよね。それくらいしないと反省しないよ。今までのことを考えれば当然だ。」

理事は録画データをコピーして、6階の休憩室で繰り返し見られるようにした。

さらに、院内掲示板でも流したため、職員たちは団子のように集まってニュースを見ていたという。

「三枝さんにも頼んで、菜の花タイムズに載せてもらうよ。もう世間的にオープンにしても大丈夫だろ?」

「うん。それだけじゃなくて、菜の花病院で8名をケアしていることも書いてもらって。

そうしないと“被害者は今どこにいるの?”って心配されちゃうからさ」

「了解」

理事と桐生さんの声が、少し誇らしげに響いた。

 ――静かだった空気が、ようやく“正義の音”を取り戻し始めたように思えた。


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