177 / 431
第9章 内定した方の為に
175話 爆弾の行方
しおりを挟む
8名が揃って院長室にやって来た。
高原救命医が、やや緊張した面持ちで口を開いた。
「昨日のニュースを見ました。社長に本格的に動いていただいて……本当に感謝しています。ありがとうございました。」
その言葉に合わせるように、ほかのメンバーも一緒に深々と頭を下げた。
高原「それで、今後はどうなるのでしょうか? 正直、それが不安で……」
河本救命医も続いた。
「残されたスタッフも、医者が3名にナースが5名しかいないんですよ。救急はもう受け入れできないはずです。やっぱり今まで一緒に働いてきた仲間だから、心配で……」
「うん、わかるよ。その気持ちはね。――多分、今日か明日には結果が出ると思う。心配しなくていい。」
「結果、ですか?」
「そう。三次センターの経営母体の財団は、社長と古い取引先なんだって。 しかも、かなり支援していたらしい。
それを“考え直す”と通告したらしいから、多分2、3日中には経営を手放すと思うよ」
高原が驚いたように顔を上げた。
「えっ? それじゃあ、残った仲間はどうなるんですか?」
俺は少し笑って答えた。
「大丈夫だよ。財団が経営を手放さないと、あの悪評判のままでは人を募集しても誰も来ない。
今の状態じゃ体裁を保つことさえできないはずだ。
行政も黙っていないだろうし、三次救命センターも格下げになるはずだよ」
皆、しんと黙り込んだ。
「たぶん、財団の方から菜の花に打診してくると思う。
つまり“自分たちでは経営できないから、そっちで引き取ってくれ”と。
社長はそれを待っているんだ。」
「それって……菜の花が吸収するってことですか?」
「うん、そうなるね。今の財団には、残ったスタッフを守る力も、良くしてあげる気持ちももう残っていない。
できるくらいなら、君たちがこんなに傷つくこともなかっただろう。
だから、いっそ菜の花の傘下に入った方がいい。
そうすれば、残った人たちも菜の花の職員になる。
福利厚生も整っているし、給料も上がる。
何より、もう無理をさせるようなことは絶対にない。
それに、菜の花として募集すれば応募も来ると思う。
人が増えれば、現場も明るくなる。――その方がずっといい」
高原がほっとしたように息をついた。
「ああ……そうなんですね。じゃあ、僕たちが菜の花に来たのは結果として良かったんですね?」
「ははっ、そうだよ。君たちが勇気を出してくれたから、世の中も気づいたんだ。
みんなの行動が、確実に良い方向へ進んでいる。安心して」
「君たちが去る前は、人間関係も悪くなっていたと聞いたよ。
でも、“同じ菜の花の仲間になる”とわかれば、きっと残った人たちも安心するはずだ。
今頃は後悔していると思うよ。
正式にセンターが菜の花になったら、新しい制服でも持ってみんなで届けに行こう。
そうすれば、きっとわだかまりも溶けるさ」
「はい!」
8人の顔にようやく笑顔が戻った。
その後、連日ニュースはセンターと財団の動きを追っていたが、やがてひとつの結果が出た。
センターの責任者だった外科部長が、体調不良を理由に辞職――という報道だ。
結局、財団から“しっぽ切り”されたということだろう。
でも、これは違う。切れば済む話じゃない。
俺は岩城に電話をかけた。
「おお? ニュースを見たのか?」
「うん。あの外科部長、辞めさせられたんだろう?
その後、どうしてるのかと思ってさ。もう、どこも雇ってくれないだろう?」
岩城が少し笑った。
「ははあ~ん。北原ならそう言うと思ってたさ。大丈夫だよ。裏から手を回しておいた。
今は大学の研究部に引き取ってもらったんだ。
一応“教育・研修し直し”って形でね。再生してもらわないと困るからさ。」
「そうか……さすが岩城だな。ありがとう。
これであの8人も後悔しないと思うよ。外科部長も責任を取ったわけだしさ。
伝えておくよ。本当にありがとう。」
電話の向こうで、岩城は短く笑った。
――正義が一巡して、人の心が少しずつ癒えていく音がした。
高原救命医が、やや緊張した面持ちで口を開いた。
「昨日のニュースを見ました。社長に本格的に動いていただいて……本当に感謝しています。ありがとうございました。」
その言葉に合わせるように、ほかのメンバーも一緒に深々と頭を下げた。
高原「それで、今後はどうなるのでしょうか? 正直、それが不安で……」
河本救命医も続いた。
「残されたスタッフも、医者が3名にナースが5名しかいないんですよ。救急はもう受け入れできないはずです。やっぱり今まで一緒に働いてきた仲間だから、心配で……」
「うん、わかるよ。その気持ちはね。――多分、今日か明日には結果が出ると思う。心配しなくていい。」
「結果、ですか?」
「そう。三次センターの経営母体の財団は、社長と古い取引先なんだって。 しかも、かなり支援していたらしい。
それを“考え直す”と通告したらしいから、多分2、3日中には経営を手放すと思うよ」
高原が驚いたように顔を上げた。
「えっ? それじゃあ、残った仲間はどうなるんですか?」
俺は少し笑って答えた。
「大丈夫だよ。財団が経営を手放さないと、あの悪評判のままでは人を募集しても誰も来ない。
今の状態じゃ体裁を保つことさえできないはずだ。
行政も黙っていないだろうし、三次救命センターも格下げになるはずだよ」
皆、しんと黙り込んだ。
「たぶん、財団の方から菜の花に打診してくると思う。
つまり“自分たちでは経営できないから、そっちで引き取ってくれ”と。
社長はそれを待っているんだ。」
「それって……菜の花が吸収するってことですか?」
「うん、そうなるね。今の財団には、残ったスタッフを守る力も、良くしてあげる気持ちももう残っていない。
できるくらいなら、君たちがこんなに傷つくこともなかっただろう。
だから、いっそ菜の花の傘下に入った方がいい。
そうすれば、残った人たちも菜の花の職員になる。
福利厚生も整っているし、給料も上がる。
何より、もう無理をさせるようなことは絶対にない。
それに、菜の花として募集すれば応募も来ると思う。
人が増えれば、現場も明るくなる。――その方がずっといい」
高原がほっとしたように息をついた。
「ああ……そうなんですね。じゃあ、僕たちが菜の花に来たのは結果として良かったんですね?」
「ははっ、そうだよ。君たちが勇気を出してくれたから、世の中も気づいたんだ。
みんなの行動が、確実に良い方向へ進んでいる。安心して」
「君たちが去る前は、人間関係も悪くなっていたと聞いたよ。
でも、“同じ菜の花の仲間になる”とわかれば、きっと残った人たちも安心するはずだ。
今頃は後悔していると思うよ。
正式にセンターが菜の花になったら、新しい制服でも持ってみんなで届けに行こう。
そうすれば、きっとわだかまりも溶けるさ」
「はい!」
8人の顔にようやく笑顔が戻った。
その後、連日ニュースはセンターと財団の動きを追っていたが、やがてひとつの結果が出た。
センターの責任者だった外科部長が、体調不良を理由に辞職――という報道だ。
結局、財団から“しっぽ切り”されたということだろう。
でも、これは違う。切れば済む話じゃない。
俺は岩城に電話をかけた。
「おお? ニュースを見たのか?」
「うん。あの外科部長、辞めさせられたんだろう?
その後、どうしてるのかと思ってさ。もう、どこも雇ってくれないだろう?」
岩城が少し笑った。
「ははあ~ん。北原ならそう言うと思ってたさ。大丈夫だよ。裏から手を回しておいた。
今は大学の研究部に引き取ってもらったんだ。
一応“教育・研修し直し”って形でね。再生してもらわないと困るからさ。」
「そうか……さすが岩城だな。ありがとう。
これであの8人も後悔しないと思うよ。外科部長も責任を取ったわけだしさ。
伝えておくよ。本当にありがとう。」
電話の向こうで、岩城は短く笑った。
――正義が一巡して、人の心が少しずつ癒えていく音がした。
4
あなたにおすすめの小説
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
月弥総合病院
僕君・御月様
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる