診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第10章 人が集う、嵐の春

183話 莉子の甘いお誘い 

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 仕事を終えて帰宅すると、
玄関で莉子が目をらんらんと輝かせて待っていた。

……あ、これは何かあるな。

「お帰り~」
「お茶淹れようか?」
「もうやった」

莉子が意味ありげに首をかしげ、にこっと笑って俺を見つめる。

もう~こわい。なんだよ、その顔。

「なあに? ……なんかあるの?」

莉子「明日は私の日だよね?」

「うん、午後から空いてるよ」

莉子「お願いがあるの~……」
さらに目をぱちくりさせて俺を見つめてくる。

「なに?」

莉子「明日ね、雑誌のインタビューがあるんだけど、一緒に出てほしいの。きれいな格好して……」

……俺は汚い前提か?

「どんな格好をすればいいの?」

莉子「へへ~ん、もう用意してあるの。エリナさんに頼んだもん」

「どこでやるの?」

莉子「それがね、すっごく素敵なホテルでやるんだよ」

「何時から?」

莉子「4時から。ホテルにエリナさんが来て、スタイリングしてくれるんだよ」

「ふ~ん、本格的だねえ」

少し間をおいて、俺は言った。

「莉子、俺からもお願いがあるんだけど」

莉子「なあに?」

「またシャトルバスを注文するから、車体に絵を描いてほしいんだ。
今度、救命センターを傘下に入れたからさ。”菜の花病院 急性期・桜丘救命センター”って名前なんだ」

莉子「わかった」

即答。早いな。



翌日――その“すっごく素敵なホテル”へ車で向かった。

到着して驚いた。
ええ? 一体、何人スタッフがいるの?
どう見ても40人はいるだろう。

「莉子、いったいこの人達はなに?なんでこんなに多いの?」

莉子「ごめん、今日はね……本当はテレビの取材なの。それに芸能人も来るんだって」

「は?」

――完全に、騙された。

莉子「だって“テレビ”って言ったら出てくれないでしょ?
私、春ちゃんのこと自慢したかったんだもん」

そのタイミングで、エリナさんがアシスタントを連れてやってきた。

「こんにちは。お久しぶりです。今日はお揃いですね。ばっちりスタイリングしますね!」

張り切っている。もう、この時点で逃げ道はない。

莉子に恨めしそうな視線を向けると、
思いきり笑顔でウィンクしてきた。

なんだよ、それ。

しばらくして、俺にはおしゃれなスーツがコーディネートされ、
莉子は俺とリンクカラーのワンピースを着ていた。

柔らかく巻いた髪をゆるくまとめたアップスタイル。
眩しいくらいに可愛い。

――これじゃあ、莉子だって芸能人に全然負けてないな。


控室を出ると、スタッフたちが慌ただしく動いていた。

照明の調整、カメラ位置の確認、リハーサルの声。

まるでお祭りのような賑やかさだ。

「莉子、これさ、本当はテレビの取材じゃなくてテレビ出演だろう?」

「うん、ごめんね。でもきっと楽しいよ」

その笑顔に、もう何も言えなくなった。

こうなると、もう流れに乗るしかない。

この後――まさか驚きの人と会うなんて、俺はまだ知らなかった。

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