192 / 363
第10章 人が集う、嵐の春
190話 長期休暇伺い・川瀬
しおりを挟む
だんだん寒さもやわらぎ、二月も終わりに近づいた頃。
川瀬が「ちょっと話がある」と言ってきた。
「ここさ、シフト希望を二か月前から出すだろ?」
「うん、そうだけど?」
「それでさ、俺、四月と五月は“遊ぶ”って言ってたじゃん?」
「うん、聞いてる」
「で、悪いんだけど――佳代ちゃんも一緒に休めないかな?」
「どのくらい?」
「四月の二週目から五月の真ん中くらいまで。一緒に休みたいんだよね」
「……なにそれ?」
「ふふっ」
にたにた笑って気持ち悪い。なんだ、その含み笑いは。
「早く言えよ。――新婚旅行か?」
「さすがだね! その通り!」
「結婚休暇は一週間だけど、有給休暇が二十日近くあるだろ?
うまく組み合わせれば行けるんじゃないの?」
「ははっ、そうか。じゃあ佳代ちゃんと一緒に休むから、よろしくね」
へらへらしている。なんだ、そのだらしない顔は。
「ちょっと待て。そもそも結婚するって話、聞いてないぞ?」
「だからさぁ、結婚はもう去年してるんだよ」
「はあ? いつした? 主任から結婚届なんて出てないぞ」
「いやぁ……照れるだろ? 佳代ちゃんが“恥ずかしいから言わないで”って言うもんだからさ。
でもさすがに新婚旅行は長いし、もう隠せないでしょ?」
「ふ~ん。じゃあ、結婚届をちゃんと出してくれないと、結婚休暇は出せないよ」
「分かってるって。で、旅行から帰ったらさ、佳代ちゃんの部屋で暮らしてもいいかな?
今、麻酔医が倉庫の部屋に居座ってるだろ? 俺の部屋、あいつら二人で使わせればいいじゃん?」
「おいおい。社長が買ったビジネスホテルのこと、知ってるだろ?
そこにツインルームがあるんだ。そこに一緒に住めば?
技師寮に夫婦で住んだら、両隣の男どもが落ち着かないぞ。精神衛生上、非常にまずい」
「アハハハ! 何を言わせるんだよ! そんなことないって!」
「いいから、素直にホテルに行け。主任もそっちから通えばいいだろう?」
「う~ん、考えておくよ」
「で、一か月も何しに行くんだ?」
「内緒にしてくれる?」
にやにやして、どうせ言いたいくせに……。
「う~ん、それは分からないな」
「なんでだよ!」
吹き出しそうになった。
「船旅に出るんだよ。俺の一世一代の遊びさ。大金をはたいたんだぞ。うんと楽しんでくる!」
「ほぉ、世界一周か?」
「いや、そこまでは無理だけど、どっか回るんだよ」
「そうか。――ところで、毎晩パーティーがあるって知ってるか?
“ホワイトナイト”っていうのもあるんだ。上から下まで真っ白な服で出席するんだよ」
「え? 初耳だよ。白い服なんて持ってないけど?」
「だから言ってるんだよ。うちのスタイリストに頼んでやるから、服装計画はちゃんと立てろ。
そうじゃないと夕食会にも出られないぞ。主任にも洋服を一式そろえてやれ。
あの人、身ひとつで飛び出してきたんだから、多分何も持ってないよ」
「えっ……そうなのか? そこまで考えてなかった……」
「だから言ったろ。あの船旅はセレブばかりだ。
アクセサリーもバッグも靴も、それなりに用意しないとね。着物まで持って行く人もいるんだぜ。
アクセサリーは莉子のを貸してあげようか? 無駄に買わなくていいし、新婚旅行ならきっと喜んで貸すよ」
「そうか。悪いね。じゃあスタイリストさん、お願いしようかな。
何を買えばいいか、まったく分からないよ」
「了解。連絡しておくよ。ただし結構かかるぞ? いいのか?」
「うん、しょうがない。頼むよ」
まったく――。
せっかくの新婚旅行を“手ぶら”で行くつもりだったのか。
莉子にも知らせておかないとな。
たぶん、俺より興奮するだろうな。
川瀬が「ちょっと話がある」と言ってきた。
「ここさ、シフト希望を二か月前から出すだろ?」
「うん、そうだけど?」
「それでさ、俺、四月と五月は“遊ぶ”って言ってたじゃん?」
「うん、聞いてる」
「で、悪いんだけど――佳代ちゃんも一緒に休めないかな?」
「どのくらい?」
「四月の二週目から五月の真ん中くらいまで。一緒に休みたいんだよね」
「……なにそれ?」
「ふふっ」
にたにた笑って気持ち悪い。なんだ、その含み笑いは。
「早く言えよ。――新婚旅行か?」
「さすがだね! その通り!」
「結婚休暇は一週間だけど、有給休暇が二十日近くあるだろ?
うまく組み合わせれば行けるんじゃないの?」
「ははっ、そうか。じゃあ佳代ちゃんと一緒に休むから、よろしくね」
へらへらしている。なんだ、そのだらしない顔は。
「ちょっと待て。そもそも結婚するって話、聞いてないぞ?」
「だからさぁ、結婚はもう去年してるんだよ」
「はあ? いつした? 主任から結婚届なんて出てないぞ」
「いやぁ……照れるだろ? 佳代ちゃんが“恥ずかしいから言わないで”って言うもんだからさ。
でもさすがに新婚旅行は長いし、もう隠せないでしょ?」
「ふ~ん。じゃあ、結婚届をちゃんと出してくれないと、結婚休暇は出せないよ」
「分かってるって。で、旅行から帰ったらさ、佳代ちゃんの部屋で暮らしてもいいかな?
今、麻酔医が倉庫の部屋に居座ってるだろ? 俺の部屋、あいつら二人で使わせればいいじゃん?」
「おいおい。社長が買ったビジネスホテルのこと、知ってるだろ?
そこにツインルームがあるんだ。そこに一緒に住めば?
技師寮に夫婦で住んだら、両隣の男どもが落ち着かないぞ。精神衛生上、非常にまずい」
「アハハハ! 何を言わせるんだよ! そんなことないって!」
「いいから、素直にホテルに行け。主任もそっちから通えばいいだろう?」
「う~ん、考えておくよ」
「で、一か月も何しに行くんだ?」
「内緒にしてくれる?」
にやにやして、どうせ言いたいくせに……。
「う~ん、それは分からないな」
「なんでだよ!」
吹き出しそうになった。
「船旅に出るんだよ。俺の一世一代の遊びさ。大金をはたいたんだぞ。うんと楽しんでくる!」
「ほぉ、世界一周か?」
「いや、そこまでは無理だけど、どっか回るんだよ」
「そうか。――ところで、毎晩パーティーがあるって知ってるか?
“ホワイトナイト”っていうのもあるんだ。上から下まで真っ白な服で出席するんだよ」
「え? 初耳だよ。白い服なんて持ってないけど?」
「だから言ってるんだよ。うちのスタイリストに頼んでやるから、服装計画はちゃんと立てろ。
そうじゃないと夕食会にも出られないぞ。主任にも洋服を一式そろえてやれ。
あの人、身ひとつで飛び出してきたんだから、多分何も持ってないよ」
「えっ……そうなのか? そこまで考えてなかった……」
「だから言ったろ。あの船旅はセレブばかりだ。
アクセサリーもバッグも靴も、それなりに用意しないとね。着物まで持って行く人もいるんだぜ。
アクセサリーは莉子のを貸してあげようか? 無駄に買わなくていいし、新婚旅行ならきっと喜んで貸すよ」
「そうか。悪いね。じゃあスタイリストさん、お願いしようかな。
何を買えばいいか、まったく分からないよ」
「了解。連絡しておくよ。ただし結構かかるぞ? いいのか?」
「うん、しょうがない。頼むよ」
まったく――。
せっかくの新婚旅行を“手ぶら”で行くつもりだったのか。
莉子にも知らせておかないとな。
たぶん、俺より興奮するだろうな。
4
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※初日一気に4話投稿してから恋愛大賞エントリーしたため文字数5万これから(´;ω;`)みんなも参加するときは注意してね!
※忘れてなければ毎週火曜・金曜日の夜に投稿予定。作者ブル
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる