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第10章 人が集う、嵐の春
190話 長期休暇伺い・川瀬
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だんだん寒さもやわらぎ、二月も終わりに近づいた頃。
川瀬が「ちょっと話がある」と言ってきた。
「ここさ、シフト希望を二か月前から出すだろ?」
「うん、そうだけど?」
「それでさ、俺、四月と五月は“遊ぶ”って言ってたじゃん?」
「うん、聞いてる」
「で、悪いんだけど――佳代ちゃんも一緒に休めないかな?」
「どのくらい?」
「四月の二週目から五月の真ん中くらいまで。一緒に休みたいんだよね」
「……なにそれ?」
「ふふっ」
にたにた笑って気持ち悪い。なんだ、その含み笑いは。
「早く言えよ。――新婚旅行か?」
「さすがだね! その通り!」
「結婚休暇は一週間だけど、有給休暇が二十日近くあるだろ?
うまく組み合わせれば行けるんじゃないの?」
「ははっ、そうか。じゃあ佳代ちゃんと一緒に休むから、よろしくね」
へらへらしている。なんだ、そのだらしない顔は。
「ちょっと待て。そもそも結婚するって話、聞いてないぞ?」
「だからさぁ、結婚はもう去年してるんだよ」
「はあ? いつした? 主任から結婚届なんて出てないぞ」
「いやぁ……照れるだろ? 佳代ちゃんが“恥ずかしいから言わないで”って言うもんだからさ。
でもさすがに新婚旅行は長いし、もう隠せないでしょ?」
「ふ~ん。じゃあ、結婚届をちゃんと出してくれないと、結婚休暇は出せないよ」
「分かってるって。で、旅行から帰ったらさ、佳代ちゃんの部屋で暮らしてもいいかな?
今、麻酔医が倉庫の部屋に居座ってるだろ? 俺の部屋、あいつら二人で使わせればいいじゃん?」
「おいおい。社長が買ったビジネスホテルのこと、知ってるだろ?
そこにツインルームがあるんだ。そこに一緒に住めば?
技師寮に夫婦で住んだら、両隣の男どもが落ち着かないぞ。精神衛生上、非常にまずい」
「アハハハ! 何を言わせるんだよ! そんなことないって!」
「いいから、素直にホテルに行け。主任もそっちから通えばいいだろう?」
「う~ん、考えておくよ」
「で、一か月も何しに行くんだ?」
「内緒にしてくれる?」
にやにやして、どうせ言いたいくせに……。
「う~ん、それは分からないな」
「なんでだよ!」
吹き出しそうになった。
「船旅に出るんだよ。俺の一世一代の遊びさ。大金をはたいたんだぞ。うんと楽しんでくる!」
「ほぉ、世界一周か?」
「いや、そこまでは無理だけど、どっか回るんだよ」
「そうか。――ところで、毎晩パーティーがあるって知ってるか?
“ホワイトナイト”っていうのもあるんだ。上から下まで真っ白な服で出席するんだよ」
「え? 初耳だよ。白い服なんて持ってないけど?」
「だから言ってるんだよ。うちのスタイリストに頼んでやるから、服装計画はちゃんと立てろ。
そうじゃないと夕食会にも出られないぞ。主任にも洋服を一式そろえてやれ。
あの人、身ひとつで飛び出してきたんだから、多分何も持ってないよ」
「えっ……そうなのか? そこまで考えてなかった……」
「だから言ったろ。あの船旅はセレブばかりだ。
アクセサリーもバッグも靴も、それなりに用意しないとね。着物まで持って行く人もいるんだぜ。
アクセサリーは莉子のを貸してあげようか? 無駄に買わなくていいし、新婚旅行ならきっと喜んで貸すよ」
「そうか。悪いね。じゃあスタイリストさん、お願いしようかな。
何を買えばいいか、まったく分からないよ」
「了解。連絡しておくよ。ただし結構かかるぞ? いいのか?」
「うん、しょうがない。頼むよ」
まったく――。
せっかくの新婚旅行を“手ぶら”で行くつもりだったのか。
莉子にも知らせておかないとな。
たぶん、俺より興奮するだろうな。
川瀬が「ちょっと話がある」と言ってきた。
「ここさ、シフト希望を二か月前から出すだろ?」
「うん、そうだけど?」
「それでさ、俺、四月と五月は“遊ぶ”って言ってたじゃん?」
「うん、聞いてる」
「で、悪いんだけど――佳代ちゃんも一緒に休めないかな?」
「どのくらい?」
「四月の二週目から五月の真ん中くらいまで。一緒に休みたいんだよね」
「……なにそれ?」
「ふふっ」
にたにた笑って気持ち悪い。なんだ、その含み笑いは。
「早く言えよ。――新婚旅行か?」
「さすがだね! その通り!」
「結婚休暇は一週間だけど、有給休暇が二十日近くあるだろ?
うまく組み合わせれば行けるんじゃないの?」
「ははっ、そうか。じゃあ佳代ちゃんと一緒に休むから、よろしくね」
へらへらしている。なんだ、そのだらしない顔は。
「ちょっと待て。そもそも結婚するって話、聞いてないぞ?」
「だからさぁ、結婚はもう去年してるんだよ」
「はあ? いつした? 主任から結婚届なんて出てないぞ」
「いやぁ……照れるだろ? 佳代ちゃんが“恥ずかしいから言わないで”って言うもんだからさ。
でもさすがに新婚旅行は長いし、もう隠せないでしょ?」
「ふ~ん。じゃあ、結婚届をちゃんと出してくれないと、結婚休暇は出せないよ」
「分かってるって。で、旅行から帰ったらさ、佳代ちゃんの部屋で暮らしてもいいかな?
今、麻酔医が倉庫の部屋に居座ってるだろ? 俺の部屋、あいつら二人で使わせればいいじゃん?」
「おいおい。社長が買ったビジネスホテルのこと、知ってるだろ?
そこにツインルームがあるんだ。そこに一緒に住めば?
技師寮に夫婦で住んだら、両隣の男どもが落ち着かないぞ。精神衛生上、非常にまずい」
「アハハハ! 何を言わせるんだよ! そんなことないって!」
「いいから、素直にホテルに行け。主任もそっちから通えばいいだろう?」
「う~ん、考えておくよ」
「で、一か月も何しに行くんだ?」
「内緒にしてくれる?」
にやにやして、どうせ言いたいくせに……。
「う~ん、それは分からないな」
「なんでだよ!」
吹き出しそうになった。
「船旅に出るんだよ。俺の一世一代の遊びさ。大金をはたいたんだぞ。うんと楽しんでくる!」
「ほぉ、世界一周か?」
「いや、そこまでは無理だけど、どっか回るんだよ」
「そうか。――ところで、毎晩パーティーがあるって知ってるか?
“ホワイトナイト”っていうのもあるんだ。上から下まで真っ白な服で出席するんだよ」
「え? 初耳だよ。白い服なんて持ってないけど?」
「だから言ってるんだよ。うちのスタイリストに頼んでやるから、服装計画はちゃんと立てろ。
そうじゃないと夕食会にも出られないぞ。主任にも洋服を一式そろえてやれ。
あの人、身ひとつで飛び出してきたんだから、多分何も持ってないよ」
「えっ……そうなのか? そこまで考えてなかった……」
「だから言ったろ。あの船旅はセレブばかりだ。
アクセサリーもバッグも靴も、それなりに用意しないとね。着物まで持って行く人もいるんだぜ。
アクセサリーは莉子のを貸してあげようか? 無駄に買わなくていいし、新婚旅行ならきっと喜んで貸すよ」
「そうか。悪いね。じゃあスタイリストさん、お願いしようかな。
何を買えばいいか、まったく分からないよ」
「了解。連絡しておくよ。ただし結構かかるぞ? いいのか?」
「うん、しょうがない。頼むよ」
まったく――。
せっかくの新婚旅行を“手ぶら”で行くつもりだったのか。
莉子にも知らせておかないとな。
たぶん、俺より興奮するだろうな。
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