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第10章 人が集う、嵐の春
189話 三枝広報担当・菜の花の顔に
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この日の午後、長谷川君から国家試験にパスしたという連絡が入っていた。
すぐ掲示板に出してもらったよ。
ああ~肩の荷が下りた。菜の花として責任を果たした気分だ。
今夜はサテ寮の夕食に皆でお祝いをするらしい。
いいな。俺も行きたいけど、遠慮しておこう。
メールでおめでとうと送信した。
でもまだまだ臨床研修がこれから2年あるからね。先が長いよ。
広報の三枝君に来てもらった。
「失礼します。院長、御用でしょうか?」
いつものように、最大限にかしこまっている。
その真面目さに、思わず笑ってしまいそうになる。
「はい、お疲れさま。そこに座って」
緊張したまま、彼はソファに浅く腰を下ろした。
「最近の『菜の花タイムズ』、すごくいいね。
雰囲気がどんどん明るくなってきてるよ」
「そうでしょうか? ありがとうございます」
「これから掲載してほしい予定をざっと話すから、メモしておいてくれる?」
「はい、かしこまりました」
三枝君はスマホの音声メモを起動して、準備万端の顔になった。
1. ドライバー5名の採用が決まりました。
顔と名前の紹介を兼ねて記事にしてください。みんなに覚えてもらいましょう。
2. 社長が買ったホテルの使用内容がほぼ決まったので、桐生さんから詳細を聞いて記事にしてください。
3. ドライバーさんたちはおそらく3交替制になります。
夜間の待機はホテルで宿泊待機。もちろん勤務扱いで宿泊費はかかりません。
4. 救命センターの物流・事務担当として、28歳の奥菜有紀さんが採用されました。
彼女へのインタビューと仕事内容を取材して、写真付きで紹介してください。
センターのドリンクバーや休憩室の写真もあるといいですね。
――あ、特に“チェックの厳しい西村主任の面接を突破した人”というエピソードを入れると、きっと面白くなります。
「そうだ、シャトルバスの時刻表はもうできたっけ?」
三枝「あっ、まだですね。採用されたドライバーと相談してからになると思います」
「了解。じゃあ、」
5. 時刻表が完成したら、それも紙面で詳しく紹介して。
6. そして、まだまだスタッフ不足が続いている。
看護師、看護助手、お掃除スタッフ――この募集状況を伝えて、実際のスタッフの“口コミ”を載せたい。
現場の声って、一番伝わるからね。
「だいたい、今のところはそんな感じかな」
「はい、わかりました」
「……で、ここからが本番です」
「えっ? 本番ですか?」
驚いた三枝君が、ぽかんと口を開けたまま固まった。
その顔に、思わず笑ってしまう。
「これは“内示”です。意味、わかりますか?」
「ええ~っと……分からないです」
「こっそり先に教えます、という意味です。
でも、正式発表までは誰にも内緒ですよ」
「はい、わかりました」
「2号館の1階に三枝さんを異動させて、総合案内の主任に昇格します」
一瞬、沈黙。
理解が追いつかないようで、目が泳いでいる。
「はい? それは……つまり、私は広報ではなくなるんですか?」
「うーん、兼任で続けたい?」
「はい! やりたいです!」
「じゃあ、兼任でいいでしょう。
2号館の1階で、患者さんやご家族にいろんな質問をされたら、
親切に、やさしく答えてあげてください。
つまり――2号館の“顔”になってください」
まだ少しピンときていない様子だ。
「2号館には専用の机を用意して、パソコンや電話も置きます。
あなたは病院のコンシェルジュになります」
「ああ~、なるほど! わかりました!」
ようやく納得したらしい。
ははっ、それで通じたか。
……この調子で大丈夫かな。
「日本語の読み書きは、サポートをつけますから大丈夫。心配しなくていいですよ」
「よかった。どうしようかと思ってました」
「では、この話はまだ内緒です。分かりましたね?」
「はい、承知しました!」
三枝君はうれしそうに立ち上がり、勢いよく部屋を出ていった。
――はあ。
多言語はペラペラなのに、日本語は少し怪しいんだよな。
でも、真面目で一生懸命な彼のことだ。
きっと、すぐ慣れるさ。
すぐ掲示板に出してもらったよ。
ああ~肩の荷が下りた。菜の花として責任を果たした気分だ。
今夜はサテ寮の夕食に皆でお祝いをするらしい。
いいな。俺も行きたいけど、遠慮しておこう。
メールでおめでとうと送信した。
でもまだまだ臨床研修がこれから2年あるからね。先が長いよ。
広報の三枝君に来てもらった。
「失礼します。院長、御用でしょうか?」
いつものように、最大限にかしこまっている。
その真面目さに、思わず笑ってしまいそうになる。
「はい、お疲れさま。そこに座って」
緊張したまま、彼はソファに浅く腰を下ろした。
「最近の『菜の花タイムズ』、すごくいいね。
雰囲気がどんどん明るくなってきてるよ」
「そうでしょうか? ありがとうございます」
「これから掲載してほしい予定をざっと話すから、メモしておいてくれる?」
「はい、かしこまりました」
三枝君はスマホの音声メモを起動して、準備万端の顔になった。
1. ドライバー5名の採用が決まりました。
顔と名前の紹介を兼ねて記事にしてください。みんなに覚えてもらいましょう。
2. 社長が買ったホテルの使用内容がほぼ決まったので、桐生さんから詳細を聞いて記事にしてください。
3. ドライバーさんたちはおそらく3交替制になります。
夜間の待機はホテルで宿泊待機。もちろん勤務扱いで宿泊費はかかりません。
4. 救命センターの物流・事務担当として、28歳の奥菜有紀さんが採用されました。
彼女へのインタビューと仕事内容を取材して、写真付きで紹介してください。
センターのドリンクバーや休憩室の写真もあるといいですね。
――あ、特に“チェックの厳しい西村主任の面接を突破した人”というエピソードを入れると、きっと面白くなります。
「そうだ、シャトルバスの時刻表はもうできたっけ?」
三枝「あっ、まだですね。採用されたドライバーと相談してからになると思います」
「了解。じゃあ、」
5. 時刻表が完成したら、それも紙面で詳しく紹介して。
6. そして、まだまだスタッフ不足が続いている。
看護師、看護助手、お掃除スタッフ――この募集状況を伝えて、実際のスタッフの“口コミ”を載せたい。
現場の声って、一番伝わるからね。
「だいたい、今のところはそんな感じかな」
「はい、わかりました」
「……で、ここからが本番です」
「えっ? 本番ですか?」
驚いた三枝君が、ぽかんと口を開けたまま固まった。
その顔に、思わず笑ってしまう。
「これは“内示”です。意味、わかりますか?」
「ええ~っと……分からないです」
「こっそり先に教えます、という意味です。
でも、正式発表までは誰にも内緒ですよ」
「はい、わかりました」
「2号館の1階に三枝さんを異動させて、総合案内の主任に昇格します」
一瞬、沈黙。
理解が追いつかないようで、目が泳いでいる。
「はい? それは……つまり、私は広報ではなくなるんですか?」
「うーん、兼任で続けたい?」
「はい! やりたいです!」
「じゃあ、兼任でいいでしょう。
2号館の1階で、患者さんやご家族にいろんな質問をされたら、
親切に、やさしく答えてあげてください。
つまり――2号館の“顔”になってください」
まだ少しピンときていない様子だ。
「2号館には専用の机を用意して、パソコンや電話も置きます。
あなたは病院のコンシェルジュになります」
「ああ~、なるほど! わかりました!」
ようやく納得したらしい。
ははっ、それで通じたか。
……この調子で大丈夫かな。
「日本語の読み書きは、サポートをつけますから大丈夫。心配しなくていいですよ」
「よかった。どうしようかと思ってました」
「では、この話はまだ内緒です。分かりましたね?」
「はい、承知しました!」
三枝君はうれしそうに立ち上がり、勢いよく部屋を出ていった。
――はあ。
多言語はペラペラなのに、日本語は少し怪しいんだよな。
でも、真面目で一生懸命な彼のことだ。
きっと、すぐ慣れるさ。
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