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第10章 人が集う、嵐の春
193話 行ってらっしゃいパーティー
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次のシフト表が出ると、案の定――質問の嵐だった。
仕方がないので、主任から正式に結婚届が提出された時点で掲示板に出した。
どうせ噂になるより、きちんと発表した方が早い。
その日の夜、八時。
皆が食堂に集まると、黙ったままスープをもらって、ご飯を各自でよそう。
そして席に着いても誰も喋らなかったらしい。
ダイニングの中は――しーんとしたまま黙々と食べていたそうだ。
__まったく、誰か一人くらい気の利いたやつはいないのか?
やっぱりな。みんな子供だよ。
いきなり“母親のような存在”が別の男と結婚したんだ。
残された寮生たちがどう反応するか、想像はついていた。
主任も困ったらしく、その場から姿を消したという。
「えっ? それでどうなったの?」と聞くと――。
川瀬がみんなの前に立ち、頭を下げたらしい。
「本当は昨年、結婚していました。言い出せなかったのは俺たちの気持ちです。
でも、どうか祝福してください。
俺は主任を幸せにしますから、勘弁してください」
――と、頭を下げたそうだ。
……ふ~ん。
なんか、まるで本当の親子のやりとりみたいだな。
寮生たちも、主任に対する複雑な気持ちがあったのだろう。
親のように慕っていた人を“他人に取られたような気分”になったんだ。
けれど本当は、自分たちが幸せにしてあげられなかった悔しさや歯がゆさも混ざっている。
まあ、放っておくことだ。
そのうち分かるさ。
皆もう大人なんだから。
――大人になってから甘えられる相手がいるって、最高だよね。
いつか彼らにも、そういう相手が現れる。
そのとき、きっと分かるさ。
*
そして四月。
川瀬は正式に長期休暇に入った。
毎日ルンルンだ。
生まれて初めて“何もしなくていい日々”を手に入れた男の顔をしていた。
主任は――というと、何事もなかったように淡々としている。
うん、それでいい。
でも、周囲の子たちは……どうにもモヤモヤが残ってるらしい。
夏に「ちょっと助けてあげた方がいいんじゃない?」と伝えると、
「どうすればいいの?」
「カフェで、みんなでお祝いすれば? “行ってらっしゃいパーティー”だよ」
「いいね、それ。サテの皆に話してみるよ」
すると、皆も「やっぱり何かしてあげたかった」と思っていたらしく、すぐに賛成してくれたそうだ。
なるほど。子どもたちはきっかけが必要だっただけなんだ。
「じゃあさ、白のスーツとワンピースを二人とも持ってるから、それで記念写真を撮りに行こうって誘うよ。
その帰りにカフェに連れていこう」
俺は洋子さんに“花嫁用のブーケ”を注文した。
「白いベールが店にありますけど、髪飾りにつけましょうか? お手伝いしますよ」
――なんて気の利く人だ。ありがたい。
当日、洋子さんは写真館にも来てくれていた。
主任の髪をさっとまとめ、小さな生花の髪飾りに長いベールを添えた。
それは、エレガントで、それでいて柔らかい――これで素敵な花嫁になった。
メイクを整え、口紅を引くと、主任は急に華やいで見えた。
記念写真は本当に見事な仕上がりだった。
そうか――やっぱり花嫁って、“ベール”があると魔法がかかるんだな。
莉子も、桃香も、夏も一緒にカフェへ先回りしている。
さて、会場はどんな様子になっているだろうか。
二人にはもちろん内緒。
「帰りにちょっとお茶しようよ」とだけ伝えてある。
川瀬が「ダメだよ。白いスーツなんて恥ずかしいよ!」と、慌てていたが……全部無視。
すました顔で引っ張っていった。
カフェに入ると――
「わっ……!」
すごい人数。
全員座る場所がないほど、スタッフも寮生も大集合していた。
「結婚おめでとうーっ!!!」
拍手と歓声が一斉に響く。
二人は、もう感極まっていた。
ぽろぽろと涙がこぼれていた。
――しょうがないなぁ。
夏の顔を見ると、にやっとしてピースサイン。
かわいいヤツだ。
こんなにも簡単なことを、どうして誰もしてやれなかったんだろう?
子どもたちが、ようやく一歩“大人”になった瞬間だった。
俺も――涙腺が弱くなったな。
仕方がないので、主任から正式に結婚届が提出された時点で掲示板に出した。
どうせ噂になるより、きちんと発表した方が早い。
その日の夜、八時。
皆が食堂に集まると、黙ったままスープをもらって、ご飯を各自でよそう。
そして席に着いても誰も喋らなかったらしい。
ダイニングの中は――しーんとしたまま黙々と食べていたそうだ。
__まったく、誰か一人くらい気の利いたやつはいないのか?
やっぱりな。みんな子供だよ。
いきなり“母親のような存在”が別の男と結婚したんだ。
残された寮生たちがどう反応するか、想像はついていた。
主任も困ったらしく、その場から姿を消したという。
「えっ? それでどうなったの?」と聞くと――。
川瀬がみんなの前に立ち、頭を下げたらしい。
「本当は昨年、結婚していました。言い出せなかったのは俺たちの気持ちです。
でも、どうか祝福してください。
俺は主任を幸せにしますから、勘弁してください」
――と、頭を下げたそうだ。
……ふ~ん。
なんか、まるで本当の親子のやりとりみたいだな。
寮生たちも、主任に対する複雑な気持ちがあったのだろう。
親のように慕っていた人を“他人に取られたような気分”になったんだ。
けれど本当は、自分たちが幸せにしてあげられなかった悔しさや歯がゆさも混ざっている。
まあ、放っておくことだ。
そのうち分かるさ。
皆もう大人なんだから。
――大人になってから甘えられる相手がいるって、最高だよね。
いつか彼らにも、そういう相手が現れる。
そのとき、きっと分かるさ。
*
そして四月。
川瀬は正式に長期休暇に入った。
毎日ルンルンだ。
生まれて初めて“何もしなくていい日々”を手に入れた男の顔をしていた。
主任は――というと、何事もなかったように淡々としている。
うん、それでいい。
でも、周囲の子たちは……どうにもモヤモヤが残ってるらしい。
夏に「ちょっと助けてあげた方がいいんじゃない?」と伝えると、
「どうすればいいの?」
「カフェで、みんなでお祝いすれば? “行ってらっしゃいパーティー”だよ」
「いいね、それ。サテの皆に話してみるよ」
すると、皆も「やっぱり何かしてあげたかった」と思っていたらしく、すぐに賛成してくれたそうだ。
なるほど。子どもたちはきっかけが必要だっただけなんだ。
「じゃあさ、白のスーツとワンピースを二人とも持ってるから、それで記念写真を撮りに行こうって誘うよ。
その帰りにカフェに連れていこう」
俺は洋子さんに“花嫁用のブーケ”を注文した。
「白いベールが店にありますけど、髪飾りにつけましょうか? お手伝いしますよ」
――なんて気の利く人だ。ありがたい。
当日、洋子さんは写真館にも来てくれていた。
主任の髪をさっとまとめ、小さな生花の髪飾りに長いベールを添えた。
それは、エレガントで、それでいて柔らかい――これで素敵な花嫁になった。
メイクを整え、口紅を引くと、主任は急に華やいで見えた。
記念写真は本当に見事な仕上がりだった。
そうか――やっぱり花嫁って、“ベール”があると魔法がかかるんだな。
莉子も、桃香も、夏も一緒にカフェへ先回りしている。
さて、会場はどんな様子になっているだろうか。
二人にはもちろん内緒。
「帰りにちょっとお茶しようよ」とだけ伝えてある。
川瀬が「ダメだよ。白いスーツなんて恥ずかしいよ!」と、慌てていたが……全部無視。
すました顔で引っ張っていった。
カフェに入ると――
「わっ……!」
すごい人数。
全員座る場所がないほど、スタッフも寮生も大集合していた。
「結婚おめでとうーっ!!!」
拍手と歓声が一斉に響く。
二人は、もう感極まっていた。
ぽろぽろと涙がこぼれていた。
――しょうがないなぁ。
夏の顔を見ると、にやっとしてピースサイン。
かわいいヤツだ。
こんなにも簡単なことを、どうして誰もしてやれなかったんだろう?
子どもたちが、ようやく一歩“大人”になった瞬間だった。
俺も――涙腺が弱くなったな。
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