診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

文字の大きさ
258 / 363
第13章 菜の花の新しい風

256話 見せた?見せてないよ

しおりを挟む
 その日の夜だった。大浴場のいい湯加減で、気分よく帰ってきた。

玄関のドアを開けると、夏が腕組みして俺を待ち伏せしていた。

「ただいま~。いいお湯だったよ。夏も入っておいでよ」

莉子はダイニングテーブルで両ひじをついて、微妙な表情でこっちを見ていた。
でも、夏は睨んだまま。なんだか怒ってるようだ。

「なに? なんか怒ってるの?」

「お兄さん、なんで大浴場なんかに行くの?」

「え? なんでって、気持ちいいからでしょう? いけないの?」

「ダメに決まってるでしょう!」

「はあ? なんでダメなの?」

「だって、お兄さんの……みんなが見たんだよ!」

莉子が声を出さずに、お腹を押さえて笑ってる。
俺もプーっと吹き出してしまって、なんというか……助けてくれえ~。
笑いが止まらない‥‥‥。

「誰も俺のなんか見てないよ」

まだまだお腹が揺れてる。

「見てるに決まってるでしょう! だってお兄さんの‥‥‥なんだよ。みんな絶対、見たよ!」

あははは、笑ってもう喋れない。

「いや、見てないって。だってね、ぎりぎりまでタオルで隠してたもん。だから大丈夫だよ」


「本当?」__笑ってしまってもうダメ。ククク……。


「大丈夫だよ。みんなだって必死で自分のを隠してたよ。夏も行ってみればわかるよ」

「……じゃあ、お兄さんは、俺が他の人に見せてもいいわけ?」

えっ? 墓穴掘った?
クスクス笑いが止まらない。堪えろ、オレ。

「だってさ、減るもんじゃないし。どうってことないよ」

一瞬で夏の形相が変わった。

「もう! お兄さん、嫌い!」

捨て台詞を残して、4階にだーっと駆け上がった。

「あ~あ……春ちゃんも大変だねえ~。夏って、私よりも繊細なんだねえ」

と言いながらも、莉子はまだクスクス笑っていた。

ああ~面倒くさい。ダイニングの椅子にドカッと座った。

「春ちゃん、いいの? 夏を慰めてきたら? こじれても知らないよ」

せっかく、いい気分で帰ってきたんだけどなあ__。
夏は本当にマジでやきもち妬きだよ。

「だってさ、今までだって温泉大浴場に入ってたのにさ。菜の花で入っちゃダメなんだ」

「春ちゃんはモテるから悔しいんじゃないの? 夏はきっと、宝にしたかったんだよ。かわいそうだから、慰めてきたら?」

「はいはい、分かりましたよ」

仕方なく上に行った
4階の俺の寝室にはいなかった。
夏の部屋をノックしたけど、返事がない。

しょうがないからドアを開けたら、ベッドで頭から布団をかぶって泣いていた。

もう~どうしよう。この乙女をねえ‥‥‥。

悲しそうに嗚咽している。
こんなに泣かせたかったわけじゃない。

やっぱりかわいそうになった。

布団をめくってベッドに入った。
うつぶせで泣いていたから、背中から抱きしめた。

「夏、ごめんね。もう行かないからさ。本当に誰にも見せてないって」

「もう、絶対に行かない?」

また笑いたくなったんだけど、堪えるのが苦しい。

「うん、行かないよ。俺は夏だけのものだよ」

そしたら、くるっと仰向けになって、俺の首に両手を回して抱きついてきた。

「絶対だよ」

「うん、わかったから。ねっ、ご飯食べようよ。お腹が空いて死にそうだよ」

「うん」と頷いた。

腕で涙目をこすりながら、トボトボ歩く夏の手を引いて下に降りた。

ああ~‥‥‥。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※初日一気に4話投稿してから恋愛大賞エントリーしたため文字数5万これから(´;ω;`)みんなも参加するときは注意してね! ※忘れてなければ毎週火曜・金曜日の夜に投稿予定。作者ブル

恋が温まるまで

yuzu
恋愛
 失恋を引きずる32歳OLの美亜。 営業課のイケメン田上の別れ話をうっかり立ち聞きしてしまう。 自分とは人種が違うからと、避けようとする美亜に田上は好意を寄せて……。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

処理中です...