診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第16章 光 ― スポットライトの向こうへ

300話 NATSU、夢の幕開け

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 いよいよ本番が始まった。

華やかなMCの女性が舞台の左端に立ち、マイクで呼びかける。

「皆さま、こんばんは。
本日は『NATSU写真集発売記念コンサート』にご来場いただき、誠にありがとうございます。
本日のチケットには、夏さんの写真集が付いております。

舞台裏の表情、医師としての日常のひとコマ、そして夢に向かう眼差し──
この写真集は、今日のステージとひとつの物語を描いています。

夏さんが初めて歌の世界に足を踏み入れたのは、約7か月前。
人気グループ「VOXIVE」の音楽事務所から声をかけられ、
KAIさんとのデュエットで初舞台に立ちました。

その歌声が大評判となり、そこから個人レッスンを重ねてきました。
そして今日──このステージが、夏さんにとって“本格的なデビュー”となります。

本日のステージでは、世界的な画家でもある北原莉子さんの作詞による楽曲が5曲披露されます。
言葉の力が、音楽とともに皆さまの心に届きますように。

演奏を支えるのは弦楽チーム「ナツ・アンサンブル」
バンドチーム「ナツ・サウンド・クルー」
そしてダンスチーム「ステラビート」
総勢でこの舞台を創り上げます。

この空間を、皆さまとともに分かち合えることを心から嬉しく思います。
それでは、いよいよステージの幕開けです。
NATSUさん、ステージへ──!」


さすがだな。夏が中央に出てマイクの前に立つ。
登場した瞬間から拍手喝采が凄い。2000人だもんね。俺は圧倒された。

これから3曲、夏が持ち歌を歌う。切々と愛を歌いあげる。
バックのスクリーンが星空のようになったり、茜色に染まったり──
歌の雰囲気に合わせて幻想的に変化する。
あちこちからライトが差し込み、夏だけを浮かび上がらせる。

透明で美しい高音と、心に響く歌声。
弦楽器と絡み合うように重なり、音の波が会場を包み込む。
しっとりと3曲を歌い終えると、場内は一瞬静寂に包まれ──

次の瞬間、わーっと歓声と拍手が爆発した。
夏が笑顔でお辞儀をして舞台袖に下がると、

MCが再び登場し、ダンスチーム「ステラビート」を紹介した。
メンバー10人がさっと舞台に現れる。

衣装は青く光るラメの上下に、シルバーのラインと袖口のフリンジが揺れる。
バックスクリーンも色とりどりの光が交差し、キラキラと輝く。
ステラビートのメンバーがカッコよく踊り始める。

途中、舞台の奥から着替えた夏が登場し、一緒に踊り始めた。
そうこなくっちゃね。やっぱりダンスがうまいんだから、見たいよね。
お揃いの衣装だけど、夏だけが胸にV字型のラメが光る白い生地。

一人だけ目立つようになっていた──というか、夏には華がある。
だから目が離せないんだよ。

バンドメンバーもパーカッションもキーボードもフル参加でノリノリ。
約5分間のにぎやかなステージが終わると、MCが再び登場した。

「さて、ここで少しだけ舞台の空気を変えて──
本日の写真集『NATSU』の制作に深く関わった方をご紹介します。

作詞家として、今回の楽曲に言葉の命を吹き込んでくれた方。
そして、夏さんの写真集にも登場する、長年の“家族のような存在”です。

実は夏さんは、莉子さんご家族ともう12年のお付き合い。
大学時代からの下宿生で、ご主人が医大の勉強を教えていたご縁で、
今では家族のように仲良く暮らしているんです。

それではご登場いただきましょう──莉子さんです!」

わあ~マジ説明がうますぎる!感心してしまった……。

呼ばれて白いワンピース姿の莉子がMCの横に登場した。
ヘアスタイルも可愛い。白いリボンを編み込んだまとめ髪が清楚で華やかだ。

「こんばんは、莉子です。
今日はこのステージに立てて、とても嬉しいです。
写真集には、夏が料理を作ってくれて、
私や桃香、院長がそれを待っている場面があります。

それから、みんなでカフェに行って撮った写真もあって──
どれも“夏らしさ”が詰まっていて、見ていると笑顔になれるんです。

今日のステージでは、私が作詞した曲が全部で5曲、夏が歌ってくれます。
言葉に思いを込めました。短い時間ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。」

MC:
「ありがとうございました、莉子さん。
それではここからは──莉子さんの言葉と、ピアニストによる美しい旋律が重なる3曲を先にお届けします。
歌とダンスが融合する、特別なステージです。どうぞ、お楽しみください。」


ああ~もう……俺は心臓が縮み上がった。無理だ。

舞台袖で思わず椅子に座り込んでしまった。
足が震えていた。なんだよ……。

莉子が、えへへと笑いながら俺のそばに来た。

ささやくように耳元で「私、良かったでしょ?」と言うから──

もう俺は両手で顔をこすりまくってしまった。


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