診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第16章 光 ― スポットライトの向こうへ

305話 ファンクラブが大変

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 それから3日ほど経って、夏がようやくお粥を食べられるようになった。

俺は朝礼以外はほとんどつきっきり。

4日目には留置カテーテルを抜去した。

はー……今や莉子同様、夏は菜の花の“お宝タレント”になってしまった。

でも、倒れた翌日──月曜日の朝礼では、皆にお礼を言わないといけないから、ちゃんとやったよ。


<朝礼にて>

「おはようございます。コンサートでは皆さんにたくさんの応援をいただき、本当にありがとうございました」
と言った途端──

「理事はどうしたんですか?」と聞かれた。鋭いな。

「えー、お察しかと思いますが、昨日から高熱を出して寝込んでおります。
それで皆さんにお礼を申し上げるところなんですが、代わりまして私から御礼を申し上げます」

「それで理事は大丈夫なんですか?」

ふふっと笑ってしまった。

「まあ、知恵熱だと思ってください」
どっと笑いが起きた。

「ご存じの方も多いと思いますが、理事は昔プロのテニス選手で、強靭な体力の持ち主でした。
しかし、専攻医時代に徹底して身体を壊してから、身体が弱くなってしまいました。

瞬発力はあるのですが、持久力がちょっと弱いんです。

今回は初めてのコンサートということで、本人もすごく頑張りました。
でも、終わったらちょっと力が尽きたようです。

でも治りますから、ご安心ください。
もうすぐケロッとして出てくると思いますので、よろしくお願いします」

言い終わったら、なぜか拍手が起きた。
あれは夏の健闘を称えてくれたのかな? 
聞かせたかったよ。

とりあえず、救命センターや2号館のスタッフは、こういう事態が初めてだったと思うから、驚いたと思う。
でも今後のためにも、知っておいてもらった方がいい。

桐生さんや看護部長が「そばにいてあげてください」と言ってくれたので、オンコールにして帰宅することにした。

──もうねえ、みんなのお宝だよ。

俺は……執事だな。


でもコンサートの翌日から、音楽事務所では大変なことが続いていたらしい。

まず、ファンからの問い合わせ。
メール対応だけにしているのに、応じきれないほど来ているらしい。

メグちゃんが一人で奮闘しているそうだ。

机の前に大きなコルクの掲示板を立てて、ペタペタとメモ書きを貼っているらしい。
桐生さんが笑っていた。どうもアナログ派らしいんだよね。

でも、アイデアがすごいんだって。

写真集のネット販売に特典をつけたもんだから、やっぱり特典だけがほしいって殺到したらしい。

公式HPにも「特典付き」と書いてあるんだけど、
コンサートで写真集を手にした人たちが「それも欲しい」と言って、問い合わせが殺到しているらしい。

そこでメグちゃんが、別バージョンで作ったA5ファイルが出番なんだね。
「そっちを買ってください」と案内しているそうだ。

──商売がうまいねえ。どこにそんな才能が眠ってたんだ?

さらに、特典用にスタンプを2種類作って、それをカードにして、
一言メッセージ付きで500枚ずつ用意したらしい。

へえ~、夏のスタンプを作ったんだね。
それを“秘密兵器”にするんだって。なんの? ぷっ。

まあ、桐生さんもお手上げで、
「メグちゃんにはかなわないから、全部好きなようにしてもらってます」って笑ってた。

それとね、大手の書店が「夏の写真集を置かせてほしい」と言ってきたらしい。
でも、全国の書店に置くとなると、とんでもない数が必要になるし、
売れなかった分は返品されるんだって。

汚くなった写真集を返されてもねえ……。

それで、東京の池袋・新宿・渋谷の3店舗だけに置くことにしたそうだ。
──強気だねえ。

あとは、書店でもリピートは予約販売にするらしい。

ネットで買うと特典のファイルが付くけど、書店で買うと付かない。

だから、こっちはネットで買ってほしいんだよ。

返品のリスクは痛いからね。

──はあ……いちいち大変。

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