渋谷ですれ違っただけなのに

スピカナ

文字の大きさ
5 / 8

第5話 強制引っ越し計画

しおりを挟む
 で、ここからだよ。
さっきのマネージャーをつかまえた。

「あのう、申し訳ないのですが……これからしばらく仕事を休止したいんです。お願いできないでしょうか?」

「はあ? なんで?」

「母の具合が悪くて、しばらく行ったり来たりしないといけないんです。
モデルの仕事をする時間がなくて……本当に申し訳ありません」

「ええ? それ、誰かに代わってもらえないの?」
「いや、ムリですよ。息子は俺一人なんです」

「う~んと……どれくらい休むの?」

「いや、それは具合次第で……見通しは全然立ってないんです。
どうか、この通りです。お願いします」

深く頭を下げた。

「あら、そう。じゃあしょうがないわね。
またできるようになったら連絡してよ」

「はい。分かりました。真っ先にご連絡しますので。
では、よろしくお願いします。失礼します」

エレベーターに乗った瞬間、二人で座り込んだ。

「俺、足がガクガク。立てねえ」

「俺も全身汗びっしょりだよ。
とにかくこのままお前んち行こう」

俺の汚いアパートに来るのか......。

「それにしても、マジ演技うまいな~才能あるぜ」

「うれしくない」

そうやって俺のアパートに向かった。

うちは渋谷から電車で30分、駅から徒歩15分。

遠いから家賃がやや安い。

ボロいワンルームだ。

「ここだよ」

部屋に入ると、西向きだから暑い。

「暑いな~。でもまあまあ分かったわ。
ちょっと住所をメールで送ってよ」

住所をLINEで送ると、海斗はさらさらとスマホをいじり始めた。

「はい、明日の朝イチでトラックが来るからさ。
このアパートの不動産屋に行こうよ」

「えっ? もう?」

駅前にあるから、また15分歩く。

「ちょっと待て、ドリンクあるから飲むか?」

「飲む」

アイスコーヒーの缶を出した。

安いけどうまいやつ。

「俺たち、どうすれば戻れるんだろうなあ?」

「わかんないよ。でも聞ける人を一人知ってる」

「え? 誰?」

「俺の前世のおばさんだよ。
時々出てくるから喋るんだ。
でもお前が一人なら出るかもしれないけど……それは分からない」

その時、急に腕の違和感で両腕をさすりまくっていた。

海斗「どうした?」

「寒気がする。なんでだろ……
あ、いたずらしてんのかな?
おばさん、いたずらやめてよ。
渋谷ですれ違っただけで、こいつの中身が入れ替わっちゃったんだよ。
何とかしてほしいんだけど、頼むよ。
おかげで明日は引っ越ししないといけないんだからさ。
助けてよ」

室内をキョロキョロして、おばさんが出てくるのを待った。

「あれ、出てこないなあ。
とにかく不動産屋に行かないとやばいだろ」

「よし、行こう」

その足でまた駅へ向かった。

「今度はお前が演技してくれよな」

「わかったよ。契約書は持ってきたか? 印鑑も」

「持ってきたよ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

朔望大学医学部付属病院/ White Dictator

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
White Dictator______通称:『白衣の独裁者』 <ホワイト・ディクテイター> ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ 圧倒的な「実力」と「技術」で捩じ伏せ・現場を支配する凄腕たち。 ___ ごく僅かな一瞬の隙も逃さない神手の集まり。 ※ごめんなさい!悩みすぎて遅れてます!

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...