医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘～い愛の物語

720話 大きな誤算

　カフェから帰った夜、みんなで夕食を囲んだ。

だが、俺と莉子の間に漂う微妙な空気が、夏と桃香にも伝わってしまったようだ。

気まずさを感じた夏が、雰囲気を変えようと桃香に話しかける。

「スクールはどう？楽しんでる？」

「うん、楽しいよ。友達もできたよ」

その言葉に驚いた俺たちは、思わず声を揃えてしまう。

「ええー？友達ができたの？」

「いいね！今度の土曜日に連れてきたらどう？」俺も嬉しくなって提案する。

桃香はぱっと笑顔を見せ、「うん、そうする！」と答えた。

夏がしみじみと口を開く。

「うちに友達を連れてくるの、初めてだよね？　インターに転校して本当に良かったよ」

莉子は少し心配そうに尋ねる。

「お友達、ちゃんと家の場所わかるの？」

桃香は自信ありげに頷く。

「うん、クリニックだから、みんな知ってるって言ってた」

夏が安心したように笑う。

「そうなんだ、それならよかったね。クリニックならわかりやすいし、お友達の親御さんも安心だね」

莉子「何人来るの？」

桃香「ええっと…５人かな」

莉子「えっ？５人も！？すごいじゃない、良かったね！」

桃香は「えへへへ」と嬉しそうに笑う。

春樹「やっぱりインターってフレンドリーなのかな？日本の学校とそんなに違うの？」

夏「いや、そこまで違うわけじゃないけどね。はっきり物を言う文化はあるかな」

春樹「じゃあ、おやつを用意しておいた方がいいな。莉子、何か準備するんだろう？」

莉子「うん、でも何にしよう？わかんない、初めてだから」

夏「何でもいいんだよ。コーラとか、クッキー、ポテトチップス、アイス、ケーキ、フルーツ、チョコとかね」

莉子「わかったよ、何か買っておくね」

俺たちは少し興奮していた。桃香が初めて家に友達を連れてくる。

どんな子たちなのか、楽しみで仕方がなかった。


そして、いよいよ土曜日の午後２時がやってきた。

桃香は可愛らしいワンピースを着ていた。

莉子が選んだのだろう。思わず笑みがこぼれる。

ベルが鳴る。桃香がドアを開けると……？

「Hi, Momoka! We came to play!」「Hi!」「Hello!」「Hi!」「Hi!」

みんな、それぞれ赤いバラを一本ずつ手に持っていた。

「Thank you! Very beautiful!」

桃香は嬉しそうにバラを受け取る。

莉子がにこやかに「Welcome! Come in.」と言い、みんなを招き入れた。

俺と夏は絶句したまま何も言えず……。

小学生にしてはみんな大きい。

桃香が俺たちを紹介し、続けて友達の名前も伝えてくれる。

だが、正直、頭に入らない。

それでも、ぎこちなく引きつりながらも、笑顔だけはなんとか作った。

みんなキョロキョロと部屋を眺めていたが、桃香が自分の部屋へ案内する。

莉子はいそいそとトレーにコーラ、クッキー、ポテトチップス、フルーツをのせて持っていった。


事前に小さなテーブルを桃香の部屋に運んでいたようだ。

運び終えると、莉子も「はぁーっ……」と深いため息をつく。

「莉子、俺もコーラが欲しい」

やたらに喉が渇く。コーラの刺激が欲しい。

夏「莉子、俺にもコーラ頂戴」

「私も飲むわ」

俺と夏の声に、莉子は苦笑いしながらトレーを持ち直した。

ダイニングのテーブルで、俺たち３人はコーラを飲みながら、大きく息をついた。

莉子「そうだ、バラを花瓶に挿さないとね」

クリスタルの花瓶に美しい赤いバラが５本……しばらく見たくない気がする。

俺は思わずつぶやく。

「５人もボーイフレンドか？まだ小学生なのに？」

莉子「インターに入って、まだ２週間だもんね」

夏「俺、ショックで何も言えない……」

夏は目をつぶっていた。俺も夏に同意する。

「本当になあ。友達って言ったら、普通女の子のことだと思うだろう？」

夏「まさか男だとは夢にも思わなかったですよ……」

夏は泣きそうな顔をしている。

莉子「いきなり５人から赤いバラだもんね。それにしても、うちの娘はモテるねえ～」

俺はため息まじりに言う。

「もう、虫が５匹か……先が思いやられるな」

夏「こんなことになるなら、インターに行かせたくなかったですよ」

俺たちは、大きな誤算を嘆き合った。