医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ

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753話 莉子・サイド

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 夏の具合が悪くなって、春ちゃんが気もそぞろになってきた。

夏に気になることがあると、上の空になるから仕方がない。

私が春ちゃんに、夏の愛を受け入れて良いよって言ったから、それは全然かまわない。

春ちゃんは夏に極甘か激辛かのどっちかだもんね。

でも私の具合が悪い時も、同じように極甘にしてくれるからそれは良いの。

ただ私には激辛がない。春ちゃんはいつもやさしくしてくれるから。

それにしても、夏はどうしてあんなにお腹が弱いんだろう? 

スポーツ選手だったから、身体はすごく元気だったのに不思議だ。

私だってイレウスになったことはあるから、お腹の痛みは分かる。

毎日が朝から晩まで死にそうなくらい、毎日痛くて辛かった。

だから春ちゃんがいっぱい看病してくれた。

その間はきっと夏が寂しかったと思う。

私の方がずっと身体は弱かったから、その度に春ちゃんを独り占めした。

ごめんねといつも思っていたけど、身体がどうにもならなかった。

だから夏の気持ちは分かる。


夏がいないと、なぜかゲームやアニメに手が伸びなくなる。

ずっと中断したままだ。

あんなに夢中だったのに、今は開く気にもなれない。なんでかなあ?

今まで、私のやる気のスイッチって、きっと夏が押してくれてたんだな――そう気づいた。

桃香も寂しそうで、「おにいは? 病気はなおったの?」と毎日聞いてくる。

でも春ちゃんは「今は、あまり会わせないほうがいい」と言った。

「痛みに苦しむ姿を見せると、心にトラウマができるから」なんだって。

それで、桃香をなだめて「もう少しだけ待とうね」と話した。

春ちゃんが、「一週間もすれば大分治ると思うから、それまで何とか面会を引き延ばして」と頼んできた。

私のときも、きっとそうしてくれてたんだろう。

看護部長の山科さんに、桃香をずっと預けてくれてたもんね。

夏の様子は、時々こっそり見に行く。

痛そうにしている姿を見ると、胸がぎゅっとなる。

あんなふうに苦しむ夏を、はじめて見た。

私もあんな感じだったのかな。

長い入院生活、生理のたびに寝込んで、

たぶん私は、春ちゃんや夏を何度も心配させた。

でも、今は私にできることがある。

「夏が何も飲めないから、口をさっぱりさせてあげて」と頼まれた。

だから、うがいを手伝って、氷を一個、そっと口に含ませる。

その瞬間、夏の顔が少し緩んだ。喉が渇いていたんだね。

まるで、ほっと力が抜けたように……。

それが、嬉しかった。


あとは、身体を縮めていたから、肩や背中をそっとさすってあげた。

マッサージなんてできないけど、少しは楽になるかな……と思って。

5階の部屋に入院すると聞いて、最初はびっくりしたけれど、

でも本当に助かった。

だって、あそこにはお医者さんもナースの方たちもたくさんいる。

私よりずっと、ちゃんと夏を診てくれる人たちばかり。

夏も独りきりじゃないと思えるだけで、安心できる。

ほんとによかった。

春ちゃん、やっぱりすごいよ。

ああいう時、すぐに良いアイデアが湧くんだもん。

頭がいいって、こういうことなんだなあ……。

私のときも、また同じようにお願いしようっと。

早く、一週間が過ぎないかな。

桃香を会わせてあげたい。

夏だって、絶対に会いたいはずだもん。

……ただ、今は春ちゃんのこともちょっと心配。

少し痩せたみたい。

お弁当を食べる時間も、ほんの少ししかないみたいで。

食欲もあんまりないみたいだし……

だからこそ、早く夏に元気になってほしい。

春ちゃんも、ちゃんと笑えるようになってほしいもん。


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