医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ

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864話 社長の気迫

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 夏と桐生さんが帰ってきた。

――さあ、どうかなあ? 場合によってはまた、数億円もかかる話だからな。

いくら社長でも……そこまで病院事業につぎ込んでくれるかどうか――。


***


院長室にて

夏「えっと、話が長かったので、桐生さんに録音メモを取ってもらいました。それを要約してもらいますね」

桐生「では、ご説明します。院長のお話は、すべて受け入れるとのことです。

地域の皆さんに喜んでもらえるのは本望だと。『いくらでもつぎ込む』とおっしゃっていました。

すでに不動産関係が動き出しており、建築の設計士さんたちにも依頼済みです。

皆で、菜の花の近くに良い物件を探すそうです」

……もう、そのあたりで胸がいっぱいになってしまった。

俺はふらりと立ち上がり、背を向けた。

感動で、涙が止まらなくなった。

嗚咽がこぼれて、自制できなかった。

……もう、言葉にならない。

社長の、商売を超えた熱い志と、人としての温かさが、堪らなかった。

夏がそっと、背中に身体を寄せてきた。

「こら、桐生君の前だぞ」

そう言ってみたものの、離れてはくれなかった。

「あっ、僕、ちょっと後ろを向いてますね」と桐生君。

――ちょっとおかしくなって、ふふふ、と笑った。

気を取り直して、ソファに戻る。

「ごめんね。ものすごく感動してしまって……。そこまでお父さんが地域貢献を考えてくれるなんて、本当に驚いたよ。何億も、何十億もかかる話なのに。

お父さんには、初期投資ばかりで回収なんて全然できていないはずなのに……本当に申し訳ない」

夏「お兄さん、父も本当に喜んでいましたよ。感激していたのは、父も母も同じでした。
二人とも、すごく喜んでくれました。

だから――実現しましょう。もう動き出したんですから、止められませんよ。

あとは運営やスタッフを考えましょう。それと、建物が決まったら、内装や外装で必要なことがあれば、事前に注文を出しておきましょう。メモしておきますね」

「うん、そうだな……そうしよう。菜の花でできないことを、そこでやろう。不自由をしている人たちのために」

* * *


翌日――朝礼でも発表した。

噂はすぐに広まる。だったら、早めに知らせておいた方がいい。

「おはようございます。今日は、皆さんに大事なお知らせがあります。

先日、内視鏡内科の医師を募集していることをお伝えしましたが、仁科先生のご紹介で、なんと3名の方が応募されました。
それで、人材がもったいないので、3名とも活かせるような場所を用意したいと考えています。

でもそれだけが理由ではありません。

近隣の病院に、うちの検査機器をぜひご利用ください、と手紙を出したところ、すべての病院から承諾のご返事をいただきました。ただ、うちは今、すでに手一杯の状況です。

それで――将来を見越して、菜の花の近くに新たな物件を社長が探してくださっています。

そこは仮称で<菜の花サテライトセンター>と呼ぶ予定です。

ここは、朝8時から12時までと、午後15時から21時までにしようかと考えています。交代制のシフト体制にして、上階には専用の寮や宿直室も設ける方針です。まだ全貌は決まっていません。

これから必要な人材を募集しますし、この中で希望される方がいらっしゃれば、ぜひ応じてください。

また、進展があればご報告します。――以上です。では今日も頑張りましょう。解散」

「院長!」と、花井部長、看護部長、主任が驚いて近づいてきた。

花井部長には、サテライト化の話はしていたけれど、

<センター>として物件を用意する話まではまだ伝えていなかったのだ。

「ふふふ、急なことで、こんなことになってしまって。申し訳ない。
でもね、いずれ花井先生ご夫妻も開業されるわけだし、人材は多ければ多いほどいい。

育てていかないといけないしね。これからまた忙しくなると思うけれど――協力してもらえますか?」

「……はい、わかりました」と答えてくれたけれど、どこか納得しきれていない表情だった。

――でも、それもしょうがない。

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