医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ

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930話 王様のバナナジュース

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 桐島さんの釈明会見の翌日、夏はクリニックのホームページに理事としてコラムを掲載した。

〈桐島芽衣さんに感謝します〉

私は菜の花クリニックの理事を務めている浅田です。

いつも皆様には大変お世話になっております。

昨日、桐島芽衣さんの素晴らしい会見を拝見しました。

菜の花クリニックに対して全面的なご擁護をいただき、また事実関係を丁寧にご説明くださったことで、マスコミ関

係者の方々にも患者様にもご理解いただけたことと思います。

私たちは、監視カメラ映像をいつでも提供できるよう準備をしておりました。

しかし、桐島さんの勇気ある発言により、私たちも大きく救われました。

医師には、いかなる時も患者さんのプライバシーを守るべき守秘義務があります。

院長はその責任を身をもって示してくれました。

私たちスタッフ一同は、北原春樹院長の志のもと、改めて“患者さんを守ること”を心に刻み、日々の診療に向き合っていきたいと思います。

以上

菜の花クリニック 理事・医師 浅田夏輝


なんだかなあ……胸が熱くなった。

夏よ。書けるじゃん。お前、いつもこれぐらい書けよ。



そのくせ、俺のベッドには来ないんだよな。疲れて寝ちゃうみたいだ。

まあ、俺も呼びには行かないし……最近では莉子とふたりで夕飯に帰ってこないんだよね。

アニメプラスが楽しいんだろうってことくらいは、わかってる。

邪魔したくない気持ちもある。

でも、俺は毎日が寂しい。

どうしたらいいんだろう。

こういうとき、患者さんには「虚勢を張るな」って言ってるのに──

肝心の俺が張っちゃってんだよな……笑えるよ、ほんと。



今日の午後は、想君がネタ探しにやってきた。

「院長、また来ちゃいました。ごめんなさい」

そう言いながら、顔いっぱいに笑顔を浮かべるものだから、つられてこっちも笑顔になる。

「いいよ。いつでも来ていいよ。どっか行こうか?」

そう言って、想君を連れてクリニックの下に降りていった。

特別な収穫はなかったけれど──

1階へ降りて──そうだ。そういえば、カフェに立ち寄ったことがなかった!

院長「今日はカフェに立ち寄ってみようか?」と想君に提案した。

想「良いですね!」

中に入ると、奥の窓際の席が空いていた。二人で並んで椅子に座る。

菜の花フーズから派遣されている清水理恵子さんが、お水を持ってきてくれた。

ここは患者さんのために、一般のカフェよりもずっと安く提供しているのだ。

清水「わぁ、院長先生! ご来店は初めてですよね?うれしいです。ご注文は何にいたしましょうか?」

こんなに喜んでもらえるなんて、正直驚いた。

「想君、何飲みたい? おごってあげるよ」

想「ええ?いいんですかぁ?」

「うん、いいよ。好きなの、なんでも言って」

清水「もしよろしければ、今〈王様のバナナフェア〉を開催しているんです」

想「えっ?王様のバナナ?へぇ~初耳です。普通のバナナとどう違うんですか?」

清水「すっごく美味しいんですよ。フィリピン産で収穫量が少なくて、普通のお店にはほとんど流通していないんです。よろしければ、まずはバナナジュースで試してみませんか?」

「へぇ~いいねぇ」二人で声を揃えた。

そして運ばれてきたバナナジュース。

一口飲むと──うわ~っと、口中にバナナの甘みが広がった。

驚くほど味が濃い。「うま~い!」と、思わず声がそろった。

院長「こんなに美味しいバナナジュースってあるんだねぇ?」

清水「ねっ?美味しいでしょう?」

二人で飲みながら、こくこくとうなずいた。

院長「あっ、写真は?」

「あーーっ、忘れてた!どうしよう……」

想君が本当に悔しそうな顔で嘆いた。

ふふふ、久しぶりに楽しいなあ。

「じゃあ、清水さん。もうひとつ、持ち帰り用に作ってもらえますか?」

「はい、かしこまりました!」

少し待つと、持ち帰り用のジュースを持ってきてくれた。

「お待たせしました。どうぞ!」

「ほら、持っていっていいよ。先に写真を撮ったら?」

「ええ?すみません。僕のために……」と恐縮しながら、しっかり撮っていた。

「ついでにカフェのメニューや店内の様子も撮っておけば?」

「はい、そうします! ありがとうございまーす!」

これで、今日のネタはバッチリかな?

次にネタに困ったら、別のメニューを注文すればいい。

まだまだ、たくさんあるぞ。

ネタ帳でも用意してあげようかな──。

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