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930話 王様のバナナジュース
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桐島さんの釈明会見の翌日、夏はクリニックのホームページに理事としてコラムを掲載した。
〈桐島芽衣さんに感謝します〉
私は菜の花クリニックの理事を務めている浅田です。
いつも皆様には大変お世話になっております。
昨日、桐島芽衣さんの素晴らしい会見を拝見しました。
菜の花クリニックに対して全面的なご擁護をいただき、また事実関係を丁寧にご説明くださったことで、マスコミ関
係者の方々にも患者様にもご理解いただけたことと思います。
私たちは、監視カメラ映像をいつでも提供できるよう準備をしておりました。
しかし、桐島さんの勇気ある発言により、私たちも大きく救われました。
医師には、いかなる時も患者さんのプライバシーを守るべき守秘義務があります。
院長はその責任を身をもって示してくれました。
私たちスタッフ一同は、北原春樹院長の志のもと、改めて“患者さんを守ること”を心に刻み、日々の診療に向き合っていきたいと思います。
以上
菜の花クリニック 理事・医師 浅田夏輝
なんだかなあ……胸が熱くなった。
夏よ。書けるじゃん。お前、いつもこれぐらい書けよ。
*
そのくせ、俺のベッドには来ないんだよな。疲れて寝ちゃうみたいだ。
まあ、俺も呼びには行かないし……最近では莉子とふたりで夕飯に帰ってこないんだよね。
アニメプラスが楽しいんだろうってことくらいは、わかってる。
邪魔したくない気持ちもある。
でも、俺は毎日が寂しい。
どうしたらいいんだろう。
こういうとき、患者さんには「虚勢を張るな」って言ってるのに──
肝心の俺が張っちゃってんだよな……笑えるよ、ほんと。
*
今日の午後は、想君がネタ探しにやってきた。
「院長、また来ちゃいました。ごめんなさい」
そう言いながら、顔いっぱいに笑顔を浮かべるものだから、つられてこっちも笑顔になる。
「いいよ。いつでも来ていいよ。どっか行こうか?」
そう言って、想君を連れてクリニックの下に降りていった。
特別な収穫はなかったけれど──
1階へ降りて──そうだ。そういえば、カフェに立ち寄ったことがなかった!
院長「今日はカフェに立ち寄ってみようか?」と想君に提案した。
想「良いですね!」
中に入ると、奥の窓際の席が空いていた。二人で並んで椅子に座る。
菜の花フーズから派遣されている清水理恵子さんが、お水を持ってきてくれた。
ここは患者さんのために、一般のカフェよりもずっと安く提供しているのだ。
清水「わぁ、院長先生! ご来店は初めてですよね?うれしいです。ご注文は何にいたしましょうか?」
こんなに喜んでもらえるなんて、正直驚いた。
「想君、何飲みたい? おごってあげるよ」
想「ええ?いいんですかぁ?」
「うん、いいよ。好きなの、なんでも言って」
清水「もしよろしければ、今〈王様のバナナフェア〉を開催しているんです」
想「えっ?王様のバナナ?へぇ~初耳です。普通のバナナとどう違うんですか?」
清水「すっごく美味しいんですよ。フィリピン産で収穫量が少なくて、普通のお店にはほとんど流通していないんです。よろしければ、まずはバナナジュースで試してみませんか?」
「へぇ~いいねぇ」二人で声を揃えた。
そして運ばれてきたバナナジュース。
一口飲むと──うわ~っと、口中にバナナの甘みが広がった。
驚くほど味が濃い。「うま~い!」と、思わず声がそろった。
院長「こんなに美味しいバナナジュースってあるんだねぇ?」
清水「ねっ?美味しいでしょう?」
二人で飲みながら、こくこくとうなずいた。
院長「あっ、写真は?」
「あーーっ、忘れてた!どうしよう……」
想君が本当に悔しそうな顔で嘆いた。
ふふふ、久しぶりに楽しいなあ。
「じゃあ、清水さん。もうひとつ、持ち帰り用に作ってもらえますか?」
「はい、かしこまりました!」
少し待つと、持ち帰り用のジュースを持ってきてくれた。
「お待たせしました。どうぞ!」
「ほら、持っていっていいよ。先に写真を撮ったら?」
「ええ?すみません。僕のために……」と恐縮しながら、しっかり撮っていた。
「ついでにカフェのメニューや店内の様子も撮っておけば?」
「はい、そうします! ありがとうございまーす!」
これで、今日のネタはバッチリかな?
次にネタに困ったら、別のメニューを注文すればいい。
まだまだ、たくさんあるぞ。
ネタ帳でも用意してあげようかな──。
〈桐島芽衣さんに感謝します〉
私は菜の花クリニックの理事を務めている浅田です。
いつも皆様には大変お世話になっております。
昨日、桐島芽衣さんの素晴らしい会見を拝見しました。
菜の花クリニックに対して全面的なご擁護をいただき、また事実関係を丁寧にご説明くださったことで、マスコミ関
係者の方々にも患者様にもご理解いただけたことと思います。
私たちは、監視カメラ映像をいつでも提供できるよう準備をしておりました。
しかし、桐島さんの勇気ある発言により、私たちも大きく救われました。
医師には、いかなる時も患者さんのプライバシーを守るべき守秘義務があります。
院長はその責任を身をもって示してくれました。
私たちスタッフ一同は、北原春樹院長の志のもと、改めて“患者さんを守ること”を心に刻み、日々の診療に向き合っていきたいと思います。
以上
菜の花クリニック 理事・医師 浅田夏輝
なんだかなあ……胸が熱くなった。
夏よ。書けるじゃん。お前、いつもこれぐらい書けよ。
*
そのくせ、俺のベッドには来ないんだよな。疲れて寝ちゃうみたいだ。
まあ、俺も呼びには行かないし……最近では莉子とふたりで夕飯に帰ってこないんだよね。
アニメプラスが楽しいんだろうってことくらいは、わかってる。
邪魔したくない気持ちもある。
でも、俺は毎日が寂しい。
どうしたらいいんだろう。
こういうとき、患者さんには「虚勢を張るな」って言ってるのに──
肝心の俺が張っちゃってんだよな……笑えるよ、ほんと。
*
今日の午後は、想君がネタ探しにやってきた。
「院長、また来ちゃいました。ごめんなさい」
そう言いながら、顔いっぱいに笑顔を浮かべるものだから、つられてこっちも笑顔になる。
「いいよ。いつでも来ていいよ。どっか行こうか?」
そう言って、想君を連れてクリニックの下に降りていった。
特別な収穫はなかったけれど──
1階へ降りて──そうだ。そういえば、カフェに立ち寄ったことがなかった!
院長「今日はカフェに立ち寄ってみようか?」と想君に提案した。
想「良いですね!」
中に入ると、奥の窓際の席が空いていた。二人で並んで椅子に座る。
菜の花フーズから派遣されている清水理恵子さんが、お水を持ってきてくれた。
ここは患者さんのために、一般のカフェよりもずっと安く提供しているのだ。
清水「わぁ、院長先生! ご来店は初めてですよね?うれしいです。ご注文は何にいたしましょうか?」
こんなに喜んでもらえるなんて、正直驚いた。
「想君、何飲みたい? おごってあげるよ」
想「ええ?いいんですかぁ?」
「うん、いいよ。好きなの、なんでも言って」
清水「もしよろしければ、今〈王様のバナナフェア〉を開催しているんです」
想「えっ?王様のバナナ?へぇ~初耳です。普通のバナナとどう違うんですか?」
清水「すっごく美味しいんですよ。フィリピン産で収穫量が少なくて、普通のお店にはほとんど流通していないんです。よろしければ、まずはバナナジュースで試してみませんか?」
「へぇ~いいねぇ」二人で声を揃えた。
そして運ばれてきたバナナジュース。
一口飲むと──うわ~っと、口中にバナナの甘みが広がった。
驚くほど味が濃い。「うま~い!」と、思わず声がそろった。
院長「こんなに美味しいバナナジュースってあるんだねぇ?」
清水「ねっ?美味しいでしょう?」
二人で飲みながら、こくこくとうなずいた。
院長「あっ、写真は?」
「あーーっ、忘れてた!どうしよう……」
想君が本当に悔しそうな顔で嘆いた。
ふふふ、久しぶりに楽しいなあ。
「じゃあ、清水さん。もうひとつ、持ち帰り用に作ってもらえますか?」
「はい、かしこまりました!」
少し待つと、持ち帰り用のジュースを持ってきてくれた。
「お待たせしました。どうぞ!」
「ほら、持っていっていいよ。先に写真を撮ったら?」
「ええ?すみません。僕のために……」と恐縮しながら、しっかり撮っていた。
「ついでにカフェのメニューや店内の様子も撮っておけば?」
「はい、そうします! ありがとうございまーす!」
これで、今日のネタはバッチリかな?
次にネタに困ったら、別のメニューを注文すればいい。
まだまだ、たくさんあるぞ。
ネタ帳でも用意してあげようかな──。
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