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2章 コルマトン編
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いろいろと相談した結果、アルヴィンとエルヴィスは鍛冶屋の手帳で武器を購入した。骨や筋肉を見るためとは言え、女性に足腰に触れられてアルヴィンは妙に気疲れした。
17800ウィーガルで購入した剣は既製品を基に、柄をアルヴィンの手に合わせて調節した。エルヴィスが選んだのはドニが勧めた岩斧山羊の弓で、こちらは18900ウィーガルだ。2人揃って予算を大幅に超えた。購入はしていないものの、カサネに勧められて防具も見積もってもらった。
「あー、買ってしまった……」
「けど良い買い物だったと思うよ」
「それはそうだろうけど、この金額のものを買うってなかなかないだろ。なんか不安になってきた」
カウンターで完了報告をするカサネを待ちながら、アルヴィンは忙しなく指で剣をなぞった。最初に買った剣が早くも用済みになってしまった。アルヴィンが適当に選んでしまっただけで悪い品というわけではない、勿体ないことをしたと溜息をついた。
「お待たせー、はいこれ」
カサネが上機嫌で鼻歌を歌いながら戻ってきた。そのまま紙幣をアルヴィンに握らせようとしたので、アルヴィンは慌てて断った。
「いやいやいや、なんですかこれ」
「今日の報酬だけど。2割くらいでおけ?」
「本当にいりませんって、俺いてもいなくても変わらなかったじゃないですか」
「えー? んー、でもなあ……」
アルヴィンと手の中の紙幣を交互に見遣って、カサネは困ったように口を尖らせた。しかし直後にぱっと笑って、アルヴィンとエルヴィスの腕を取った。
「んじゃご飯行こっか! そろそろ夕飯時だしお腹空いたっしょ」
「ご飯?」
「今日のは群れだったから報酬も良かったし、ぱーっといこっか! お姉さんがご馳走してしんぜよう!」
「うん行く!」
仕事をしていないはずのエルヴィスが勢い良く頷いた。カサネとアルヴィンも昼食を抜いたので空腹だ。カサネに半ば引っ張られるようにして、食事をとりにキャラバンを出た。
カサネが2人を連れて到着した店は、夕飯時だと言うのに然程混み合ってはいない。アルヴィンは品書きを見た瞬間にその理由を悟った。
「白蛇と貝の酒蒸し、マツカ豆と豚肉のトマト煮込み、海老と小鳥豆のフライ、あとパンもバスケットでください。2人は飲み物は?」
「あ、水で」
「おけ、ベリージュース2つ。あとオリツィアエールでお願いします!」
「いや、あの」
「んっふふ、今日はお酒ー」
アルヴィンは顔を引きつらせた。酒蒸し200ウィーガル、煮込み260ウィーガル、フライ180ウィーガル。ジュースは30ウィーガルでエールは40ウィーガル。
カサネは平然と注文しているが、アルヴィンとエルヴィスにしてみればかなりの贅沢だ。他の店と比べても明らかに高いが、しかし内装や接客が秀でているわけでもない。
「はい、飲み物とフライ! パンと煮込みも今持ってくるからね」
「おけ! はいっ、それじゃ今日もおつでしたー!」
テーブルに置かれたカップは然程大きくはない。女性の手でしっかりと掴めるほどの大きさだ。リンガラムであればカサネが持つ1杯と同じ値段で瓶の麦酒が買える。
本当に口をつけていいのかと、アルヴィンは乾杯の直後にエールを一気に呷るカサネを一瞥して戸惑った。一方エルヴィスは遠慮なく口をつけた。
「ほらほら、フライ食べてみ? めっちゃ美味だから」
「はあ……それじゃあいただきます」
カサネがあんまり勧めてくるので、アルヴィンは海老をひとつ頬張った。
「うまっ」
香ばしく揚げられた海老の食感は軽やかで、表面に振ってあるスパイスが鼻を擽る。揚げ物だが衣は薄く重さを感じない。ナッツのような香りの衣ともっちりとした小鳥豆の甘さの相性が良く、アルヴィンはついもうひとつ頬張った。
「でしょ? ここの料理は素材が良くていつ食べても美味だかんね。はー、良き」
フライだけでなく煮込みも酒蒸しもパンも全て絶品だ。蛇肉や貝もまったく臭みがないうえに身がよく肥えている。ジュースは自家製のシロップを割ったもので、ベリーの他に数種類のハーブが使われていて爽やかだ。料理を飽きずに最後まで楽しめるように作られたとのことだ。
「すっごい美味しいね、これ」
「ああ、俺たちが今まで食べてきたパンは使い古しの鍋敷きだったのかもしれない……」
「え、どうしたの急に、大丈夫?」
「すいませーん、ミートパイとチーズ盛り合わせも追加で、あとオリツィアエールおかわり!」
カサネが沢山注文して、テーブルには遠慮していては片付かない量の料理が並んだ。アルヴィンも結局満腹になるまで腹に詰め込んで、エルヴィスが残った全ての料理を片付けた。
「エルヴィスめっちゃ食べんね、いいなー、太んないんだ」
「食べ盛りで成長期だからかな」
「うわ羨ま。デザートいっちゃう?」
アルヴィンはもう満腹だったので遠慮したが、エルヴィスとカサネは楽しそうにデザートを選んで、テーブルに届いたそれらを半分ずつ交換した。会計は一体いくらになるのか、アルヴィンは考えないことにした。
「今日はありがとうございました。仕事に同行させてもらって、武具屋にも連れて行ってもらって、食事にも連れてきてもらって」
「んーん、いいってことよ」
会計を終えて店の外に出ると、アルヴィンは再び頭を下げた。エルヴィスにも下げさせているのが意味もなく面白く感じて、ほろ酔いのカサネは笑った。
2人と別れてすぐ、酔いが醒めると同時にカサネの耳に音が戻ってきた。こうこう、かっかっかっ、どっどっどっ、こっこっ。
ああ、まただ。結局また聞こえなくなった。まあ仕方ないか、今日はなんだか人の声が聞きやすい日だった。
美味しい食事で満腹だ、カサネはまためちゃくちゃな鼻歌を歌いながら帰路についた。
17800ウィーガルで購入した剣は既製品を基に、柄をアルヴィンの手に合わせて調節した。エルヴィスが選んだのはドニが勧めた岩斧山羊の弓で、こちらは18900ウィーガルだ。2人揃って予算を大幅に超えた。購入はしていないものの、カサネに勧められて防具も見積もってもらった。
「あー、買ってしまった……」
「けど良い買い物だったと思うよ」
「それはそうだろうけど、この金額のものを買うってなかなかないだろ。なんか不安になってきた」
カウンターで完了報告をするカサネを待ちながら、アルヴィンは忙しなく指で剣をなぞった。最初に買った剣が早くも用済みになってしまった。アルヴィンが適当に選んでしまっただけで悪い品というわけではない、勿体ないことをしたと溜息をついた。
「お待たせー、はいこれ」
カサネが上機嫌で鼻歌を歌いながら戻ってきた。そのまま紙幣をアルヴィンに握らせようとしたので、アルヴィンは慌てて断った。
「いやいやいや、なんですかこれ」
「今日の報酬だけど。2割くらいでおけ?」
「本当にいりませんって、俺いてもいなくても変わらなかったじゃないですか」
「えー? んー、でもなあ……」
アルヴィンと手の中の紙幣を交互に見遣って、カサネは困ったように口を尖らせた。しかし直後にぱっと笑って、アルヴィンとエルヴィスの腕を取った。
「んじゃご飯行こっか! そろそろ夕飯時だしお腹空いたっしょ」
「ご飯?」
「今日のは群れだったから報酬も良かったし、ぱーっといこっか! お姉さんがご馳走してしんぜよう!」
「うん行く!」
仕事をしていないはずのエルヴィスが勢い良く頷いた。カサネとアルヴィンも昼食を抜いたので空腹だ。カサネに半ば引っ張られるようにして、食事をとりにキャラバンを出た。
カサネが2人を連れて到着した店は、夕飯時だと言うのに然程混み合ってはいない。アルヴィンは品書きを見た瞬間にその理由を悟った。
「白蛇と貝の酒蒸し、マツカ豆と豚肉のトマト煮込み、海老と小鳥豆のフライ、あとパンもバスケットでください。2人は飲み物は?」
「あ、水で」
「おけ、ベリージュース2つ。あとオリツィアエールでお願いします!」
「いや、あの」
「んっふふ、今日はお酒ー」
アルヴィンは顔を引きつらせた。酒蒸し200ウィーガル、煮込み260ウィーガル、フライ180ウィーガル。ジュースは30ウィーガルでエールは40ウィーガル。
カサネは平然と注文しているが、アルヴィンとエルヴィスにしてみればかなりの贅沢だ。他の店と比べても明らかに高いが、しかし内装や接客が秀でているわけでもない。
「はい、飲み物とフライ! パンと煮込みも今持ってくるからね」
「おけ! はいっ、それじゃ今日もおつでしたー!」
テーブルに置かれたカップは然程大きくはない。女性の手でしっかりと掴めるほどの大きさだ。リンガラムであればカサネが持つ1杯と同じ値段で瓶の麦酒が買える。
本当に口をつけていいのかと、アルヴィンは乾杯の直後にエールを一気に呷るカサネを一瞥して戸惑った。一方エルヴィスは遠慮なく口をつけた。
「ほらほら、フライ食べてみ? めっちゃ美味だから」
「はあ……それじゃあいただきます」
カサネがあんまり勧めてくるので、アルヴィンは海老をひとつ頬張った。
「うまっ」
香ばしく揚げられた海老の食感は軽やかで、表面に振ってあるスパイスが鼻を擽る。揚げ物だが衣は薄く重さを感じない。ナッツのような香りの衣ともっちりとした小鳥豆の甘さの相性が良く、アルヴィンはついもうひとつ頬張った。
「でしょ? ここの料理は素材が良くていつ食べても美味だかんね。はー、良き」
フライだけでなく煮込みも酒蒸しもパンも全て絶品だ。蛇肉や貝もまったく臭みがないうえに身がよく肥えている。ジュースは自家製のシロップを割ったもので、ベリーの他に数種類のハーブが使われていて爽やかだ。料理を飽きずに最後まで楽しめるように作られたとのことだ。
「すっごい美味しいね、これ」
「ああ、俺たちが今まで食べてきたパンは使い古しの鍋敷きだったのかもしれない……」
「え、どうしたの急に、大丈夫?」
「すいませーん、ミートパイとチーズ盛り合わせも追加で、あとオリツィアエールおかわり!」
カサネが沢山注文して、テーブルには遠慮していては片付かない量の料理が並んだ。アルヴィンも結局満腹になるまで腹に詰め込んで、エルヴィスが残った全ての料理を片付けた。
「エルヴィスめっちゃ食べんね、いいなー、太んないんだ」
「食べ盛りで成長期だからかな」
「うわ羨ま。デザートいっちゃう?」
アルヴィンはもう満腹だったので遠慮したが、エルヴィスとカサネは楽しそうにデザートを選んで、テーブルに届いたそれらを半分ずつ交換した。会計は一体いくらになるのか、アルヴィンは考えないことにした。
「今日はありがとうございました。仕事に同行させてもらって、武具屋にも連れて行ってもらって、食事にも連れてきてもらって」
「んーん、いいってことよ」
会計を終えて店の外に出ると、アルヴィンは再び頭を下げた。エルヴィスにも下げさせているのが意味もなく面白く感じて、ほろ酔いのカサネは笑った。
2人と別れてすぐ、酔いが醒めると同時にカサネの耳に音が戻ってきた。こうこう、かっかっかっ、どっどっどっ、こっこっ。
ああ、まただ。結局また聞こえなくなった。まあ仕方ないか、今日はなんだか人の声が聞きやすい日だった。
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