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プロローグ 止まった時計
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夜の途中で、ふと目が覚めた。
枕の下でスマホが震えた気がしたが、
着信音は鳴っていない。
カーテンの隙間から月の欠片が差し込み、
寝室を青白く染めている。.
壁の時計は止まったままだ。
秒針が、二時十四分の上で凍っている。
⸻
布団の中で体を少し動かそうとした。
だが、思ったよりも重い。
全身が夜に縫い付けられているようだ。
外の音もない。
車のエンジン音も、冷蔵庫の唸りも消えている。
世界そのものが、眠ってしまったみたいだった。
⸻
枕元のスマホがかすかに光る。
画面には、見たことのない数字が浮かんでいる。
白い数字が、黒の中でゆっくりと減っていく。
タイマーでも、通知でもない。
指で触れても、光は逃げなかった。
息を吐くと、白いものが浮かんで見えた。
暖房もない部屋なのに、息は冷たい。
その白さが、布団の中の闇をかすかに照らす。
⸻
隣には妻が眠っている。
薄い布団の山の向こうに、背中の丸みだけが見える。
寝息は静かすぎて、聞こえるか聞こえないかの境を揺らいでいる。
いつもなら寝返りを打つのに、今夜はまったく動かない。
「……寝てるのか」
囁いても反応はない。
⸻
ためらいながら、布団の下で手を伸ばす。
指先が、彼女の腕に触れる。
思ったよりも冷たく、
けれど石のような硬さではない。
そこに“温度の記憶”だけが残っている感じだった。
もう一度、呼んでみた。
「おい、起きてるか」
声は布団の中で吸い込まれて、
自分の耳の中に戻ってきた。
⸻
そのとき、妻の肩が――
ほんのわずかに動いた。
息を呑む。
だが次の瞬間、彼女は再び静止した。
まるで動いたのは影だけだったように。
スマホの数字がまた減る。
光がカーテンを透かして、
天井に細い筋を描く。
部屋の空気が波打つように感じられた。
⸻
胸の奥で心臓が一度だけ跳ねる。
呼吸を整えようとするが、喉が乾いて音を出せない。
——もう一度、確かめたい。
妻が本当に、そこにいるのか。
けれど布団の外に出る勇気が出ない。
今、動いたら何かが壊れる気がした。
自分の周囲だけが、
世界の残りかすのように残っている。
⸻
妻の方から、小さな音がした。
何かが空気を擦るような、かすかな動き。
寝返りだと思い、安堵しかけた瞬間――
彼女の頭がこちらを向いた。
閉じた瞼の下で、目が動いている。
その動きが、まるで“探している”ように見えた。
⸻
スマホの光が、彼女の頬をかすめた。
——42という数字が、頭に浮かんだ。
なぜかわからない。
ただ、その数だけが鮮明に焼きつく。
息を吸う。
吐くたびに、夜が少しずつ近づいてくる。
そして最後に、光が完全に消えた。
世界が、再び眠り始めた。
⸻
枕の下でスマホが震えた気がしたが、
着信音は鳴っていない。
カーテンの隙間から月の欠片が差し込み、
寝室を青白く染めている。.
壁の時計は止まったままだ。
秒針が、二時十四分の上で凍っている。
⸻
布団の中で体を少し動かそうとした。
だが、思ったよりも重い。
全身が夜に縫い付けられているようだ。
外の音もない。
車のエンジン音も、冷蔵庫の唸りも消えている。
世界そのものが、眠ってしまったみたいだった。
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枕元のスマホがかすかに光る。
画面には、見たことのない数字が浮かんでいる。
白い数字が、黒の中でゆっくりと減っていく。
タイマーでも、通知でもない。
指で触れても、光は逃げなかった。
息を吐くと、白いものが浮かんで見えた。
暖房もない部屋なのに、息は冷たい。
その白さが、布団の中の闇をかすかに照らす。
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隣には妻が眠っている。
薄い布団の山の向こうに、背中の丸みだけが見える。
寝息は静かすぎて、聞こえるか聞こえないかの境を揺らいでいる。
いつもなら寝返りを打つのに、今夜はまったく動かない。
「……寝てるのか」
囁いても反応はない。
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ためらいながら、布団の下で手を伸ばす。
指先が、彼女の腕に触れる。
思ったよりも冷たく、
けれど石のような硬さではない。
そこに“温度の記憶”だけが残っている感じだった。
もう一度、呼んでみた。
「おい、起きてるか」
声は布団の中で吸い込まれて、
自分の耳の中に戻ってきた。
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そのとき、妻の肩が――
ほんのわずかに動いた。
息を呑む。
だが次の瞬間、彼女は再び静止した。
まるで動いたのは影だけだったように。
スマホの数字がまた減る。
光がカーテンを透かして、
天井に細い筋を描く。
部屋の空気が波打つように感じられた。
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胸の奥で心臓が一度だけ跳ねる。
呼吸を整えようとするが、喉が乾いて音を出せない。
——もう一度、確かめたい。
妻が本当に、そこにいるのか。
けれど布団の外に出る勇気が出ない。
今、動いたら何かが壊れる気がした。
自分の周囲だけが、
世界の残りかすのように残っている。
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妻の方から、小さな音がした。
何かが空気を擦るような、かすかな動き。
寝返りだと思い、安堵しかけた瞬間――
彼女の頭がこちらを向いた。
閉じた瞼の下で、目が動いている。
その動きが、まるで“探している”ように見えた。
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スマホの光が、彼女の頬をかすめた。
——42という数字が、頭に浮かんだ。
なぜかわからない。
ただ、その数だけが鮮明に焼きつく。
息を吸う。
吐くたびに、夜が少しずつ近づいてくる。
そして最後に、光が完全に消えた。
世界が、再び眠り始めた。
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