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どうして?
しおりを挟む「ただいま」
お帰りなさい、あなた。今日はおつかれみたいね。大丈夫? 私、あなたの仕事のことはよく分からないけど、あなたが無理をしてしまわないか心配なのよ。今日もこんなに遅くって……。
ねぇ、どうしたの? 何も言わないで。
あぁ、夕飯の事ね。ごめんなさい、あなた。私、今日はなんだか体がだるくって……。それで作れなかったの。最近毎日そうなの。なんだか体の節々が痛むの。ごめんなさい。
あなたにインスタントの物ばかり食べさせたいわけではないのよ。私はあなたに私の作った物を食べて貰いたい。それができないのが、どんなに心苦しいことか。
ごめんなさい、こんな愚痴ばかり言ってしまって。あなたを困らせたいわけではないの。だから、許して。
あら、テレビを観る邪魔をしてしまったかしら。今日はサッカーの試合がやっているのね。一日中眠ってしまって、最近のニュースとかが分からなくなっちゃったわ。
これは聞こえてないかもしれないわね。あなたは一つのことに夢中になってしまうと人の話が耳に入らなくなってしまうものね。
でも、ソファに座ってテレビを観ながらインスタントのカップ麺を食べるのはあまり良くないと思うわ。スープを零してしまったら、布製のソファなのだからシミになって取れなくなっちゃうじゃない。
「おおっ! いけ!」
……聞いてないのね。あなたの応援しているチーム、今勝っているの?
聞いていないふり、なのかしら。
あら、お食事終わったの? 最近はこのメーカーのシリーズにハマっているのね。私も今度一緒に食べようかしら。ああ、今の体が回復したらの話よ。
あ、カップ麺の容器、スープを捨ててお湯に浸けておいて頂戴ね。洗ってくれとは言わないから。
ねぇ、聞いてる? どうして答えてくれないの?
そう、知らんふりするのね?
ああ、シャワーに行くの、そうなの。私なんかより自分優先なのね。
あなた、そんなにじっと見ないで。ごめんなさい、疲れているあなたにひどいことを言ったわ。ゆっくり休んでね。
タオル? すぐそこにあるじゃない。あら、本当に聞こえてないのかしら? 私ちょっと心配になってきちゃうわ。私よりあなたの方が体調が悪いの? 早く休んで。まだ明日もあるんでしょう? でも今日は木曜日だから、あと一日でゆっくり休めるようになるわ。今日も一日お疲れ様。
お風呂、どうだった? そう、その満足そうな顔を見ていれば分かるわ。とっても良かったのね。疲れが癒されていればいいけど。
……まだ、私のことを知らんふりするの? 無視するの?
私は何か貴方にしてしまった? 心当たりがないの。あるのなら言葉で伝えて?
どうして私に何も言ってくれないの? ねぇ?
逃げるの? そうやって部屋に逃げ込んで!
私が悪いの? そうなの……?
返事してよ……。
昨日はごめんなさい、あなた。お仕事頑張ってね。また、今日も朝ごはんを作れなかったわ。ごめんなさい。何かあったら話して欲しいわ。いってらっしゃい、あなた。
「行ってきます」
挨拶だけは、してくれるのね。そういう所が大好きよ……。
本当に、頑張ってきて。私はもう一眠りする事にするわ……。おやすみなさい。
「ただいま」
ふぁぁぁ、お帰りなさい。朝からずっと寝てしまっていたわ。今日は早いのね。金曜日だから? 会社の皆さんが、いつも忙しそうの働いているあなたの事を気遣ってくれたのね。
私は最近、寝てばかりだわ。本当にどうしちゃったのかしら。
ああ、晩ご飯! ……また、今日も。ごめんなさい……。あら、あなた手に何持ってるの? スーパーの袋? あら、色々出てくるわね……。
今日はカレーの気分なの? 甘口? あなた、辛いのが苦手なのね。初めて知ったわ。
「美味しくできるかな……」
きっと出来るわよ。自信を持って!
あなたの作ったカレー、私も食べて見たいわ。
食べられないかしら。本当はそうだったとしても、食べた気にはなりたいわね。
美味しそうね。
口いっぱいに頬張って、リスみたい。
あら、もう食べ終わったの? はやいわねぇ。
また、無視? もういいわ、諦めるから。あなたが話しかけてくれるの、待っているわね。
もう寝るのでしょう? それとも部屋に行くだけ? 分からないけれど、おやすみなさい。
…………挨拶もしてくれないのね。
明日はゆっくり休んで頂戴ね。
あなたは働きすぎているから……。
ガチャン、と音がした。
おはよう、あなた。
あれ、外に行っていたの? そんなおしゃれして……。
え、? 隣にいる女の人は、誰?
また無視するの……? あの女は、あなたのなんなの? どうしてあなたは笑っているの? 私が見えないの?
「愛してるよ……」
どうして私にはそんなこと言わないのに、この子には言うの?
2人には私が見えていないの? 私を見てよ、ねぇ、どうして、どうして?
「私も」
どうして2人の世界を作り上げるの?
私はあなたと一緒に住んでいる。どうして、その2人の空間にこの女を連れ込むの? ねぇ、なんで? 説明して、やめて?
この女はなんなのよ。私が一番でしょう。私と喧嘩してたんじゃないの? 私はここにいるわ! ほら、見てよ! こんな女のどこがいいの? どうしてあなたは私の目の前で見せつけるような事するの? 私がいないみたいじゃない!!!
こんな女なんて、何がいいのよ!!!
え、?
「これ、いい?」
「あー、それ? 古くなってない?」
「ん、まだ大丈夫そう」
……なんの話、してるの?
どうしてこの女は、包丁を持っているの? そして、どうして私に包丁を向けているのか説明して下さる?
どうして、? 私は殺されるの? 返事して、返事してよ。
包丁が近づいてくる。私は逃げることさえもできずに、ギラリと光る包丁を見つめた。
サク、と自分の体に包丁が入っていくのを感じる。
痛い痛い痛い痛い痛い。
やめて、私が何をしたって言うの?
どうして……? …ど、…………うして……………。
俺の彼女が、古いリンゴを剥いている。
包丁を持つ手つきは手慣れているもので、その姿をじっと見てしまう。
「あ、そうだ、最近変な目線を感じるんだよね。」
俺の彼女に声をかける。
「なんか変な目線でさ、気持ち悪いんだ。」
「それって、大丈夫なの? 今度お祓いにでもいく?」
「いや、そう言うのじゃなくて、なんていうか……。じっとり見てくる母親みたいな目線。伝わる?」
「なんとなくは。」
「なんとなくでも伝わってよかった。あんな感じでさ。なんか帰ってきても誰かが出迎えてくれるような感覚で。薄気味悪かったよ。」
「それ、本当に大丈夫なの? ここそういう物件だったりするの? 私嫌なんだけど。」
「いや、そんなこと言わないで。そういう物件じゃないから。そうだったら俺騙てるじゃんか。でもさ、なんかそれが、今軽くなったんだよね。なんでだろ。俺の彼女さんが一緒いてくれるからかも。」
「やだぁ。そんなこと言うために作り話したの? 変な冗談言わないでよ。」
綺麗に8当分されたリンゴが皿に並べられて、テーブルに置かれる。
「しなびてなかった? なんかそれ、不味そうだったから、買ったはいいけど食べてなかったんだよね。カレーに入れようと思ってたのに。」
「いや?みずみずしくって、いい香りしてたけど? 大丈夫? 嗅覚までおかしくなっちゃった?」
揶揄うように、ニヤニヤ笑いながら彼女が効いてくる。
「そうかもしれないね。」
いやー、もしそうだったら嫌だなぁ、と続ける。
彼女がリンゴにフォークを突き刺した。
それを真っ赤な口紅を塗ってある口元に運んで、ゆっくりとかじった。
「え、。」
彼女が思いっきり顔を顰めた。
「どうしたの? 腐ってた?」
「いや、なんか違う。腐った味じゃないんだけど、すんごく酸っぱいの、このリンゴ。こんなの初めて食べた……。変な話かもしれないけど、食べられるのを嫌がってるみたいな。そんな感じの味がする。さっきはすっごくいい香りしてたのに。」
俺も一口食べることにした。
口に含んだ瞬間、芳しい香りが口の中に広がる。美味しいんじゃないかな、と思った。
「あれ? そうか? めちゃくちゃ甘いんだけど。」
「あー、部分によって亜時に偏りあるのかもしれない。」
「なんか、気持ち悪いね。捨てようか。」
いつも俺を止める彼女が、今日はそう言わないで、「そうしよう」と同意した。
変なリンゴだ。気持ち悪い。なんだかゾッとした。
ただのリンゴのはずなのに。
なんで捨てようと思ったのか分からなかったけれど、俺はリンゴをキッチンに運んだ。
生ゴミのゴミ箱に入れると、それはドサッと音がしてゴミ箱の底に落ちていった
俺はゴミ箱の蓋を閉めた。
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