100万ℓの血涙

唐草太知

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こうして、俺とエナトリアの2人きりの旅が始まったのだった。魔王退治に行こうと張り切って出かけた矢先の話だ。魔王の元に向かおうと考えた俺たちは歩いて移動するよりも海で行った方が早いのではと話し合いで決まった。その結果、船に乗ることになったのだが、不運にも魔族に襲われることとなった。そのせいで俺はエナトリアと別れることになって、1人海の上で漂流していた。
「あー・・・」
どうしようもない。
小さなイカダの上で俺はただ揺られていた。
魔王を退治する前にまさか海に遭難するとは俺は思ってなかった。このまま魔王を退治することなく海の藻屑となって消えるのだろうなと、そんなことを考えていた。元来、俺はいい加減な人間だ。だから、本気になった瞬間なんて人生のうちに数回しかない。そんな人間なんだ、目的を果たせなくてもしょうがないよなって思う。こんなことなら飛べる魔法を習得しておけばよかった何て思う。
「・・・」
声が近づいてくる。
この海の上で、いったい誰が。
助けに来てくれた?
いや、そんな甘い考えは止めよう。
恐らくは魔族。
俺に止めを刺しに来たのだ。
どうせもう、死ぬのだ。
ならば最後に仕事を果たそう。
俺が殺した魔族は精々一体だけだ。
それでもそれが魔王の側近なのだとしたら。
戦力を少しでも削れるはずだ。
そう信じて戦おう。
それが、残り僅かな命の男の最後の輝きだと思い込むしかない。
音がだんだん近づいてくる。
「来い、くそ野郎が。
お前のハツを食いちぎってやる」
俺は剣を構える。
「おーい、無事ぃ?」
羽を生やしたエナトリアが颯爽と現れるのだった。
「エナトリアぁ?」
俺は剣を構えるのが馬鹿馬鹿しくなり、収めた。
「いやぁ、私たちを沈めた魔族を倒すのに手間取ってメンゴ、メンゴ。安心して、八つ裂きにしたからもう復活はしないでしょ」
エナトリアはさっと俺のイカダに降り立った。
「バカ、お前も乗ったら」
小さいイカダだ、そこにいきなり二人分の体重が加わるとなると、当然と言うべきか。ひっくり返る。
「おわああっ」
ばっしゃーーんと2人で海に落ちた。
「溺れる!」
俺はあっぷあっぷと海でもがく。
「あわわわわ、大変」
エナトリアは羽を羽ばたかせて、俺の事を拾い上げる。そして、空に浮かぶのだった。
「どうなることかと」
俺はエナトリアに抱きかかえられて移動する。
「あのさぁ」
「なんだよ、俺だって大変だったんだぞ。
魔族が来るんじゃないかと思って身構えてたんだ。
どうせ、小さなイカダじゃ死ぬだろうと思って、刺し違える覚悟だったんだ。お前の元に戻るなんてのは無理だったんだぞ」
「スキ」
「え・・・」
突然の事で驚く。
スキ・・・あの好きだよな。
これって告白って思っていいのか?
「ほらみて、あれ」
「ん?」
海にはサメが泳いでいた。
そういえば地方ではサメの事をスキって言う所があるらしいな。紛らわしい。
「あはは~、サメだ、サメ」
「そうだよな、そっちのスキだよな」
告白のタイミングにしては微妙だもんな。
もっとこう、夜のレストランとか。
何考えてるんだ、俺。
アホくさ、ピンク色の妄想に俺は俺自身に呆れるのだった。
「可愛いねぇ」
エナトリアは暢気にそんなことを言う。
「どうかな、俺のことを狙ってたんじゃないの?」
エナトリアに抱きかかえられて空を飛んでるお陰で海に居るサメを冷静に見ることが出来た。
きっとイカダに乗ったままならば警戒心で一杯だったろうに。
「君のことを狙っていたのは私だけどね」
彼女はさらりと言ってのける。
「え?」
「さぁ、戻ろう。こんな磯臭い所ではなく豪華な宿にでも泊まろう、そうすれば遭難していたストレスは忘れるだろうさ」
「エナトリア!?」
ぴゅうと風に乗って、エナトリアは島へと上陸するために加速するのだった。
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