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第一章バカヤロウやらかし編

やらかし1:バカヤロウ、天使から貸し与えられた鑑定により視界が文字だらけになり死亡

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「うあー!うあー!うあー!」
「ゴブー!ゴブー!ゴブー!」

 一人の冒険者が口からヨダレを垂らしながら、必死でゴブリンから逃げていた。

 彼の名はテスター。とある貴族令嬢に恋をし、彼女に相応しい男になる為に冒険者として頑張る十八歳。その頑張りの結果がこれである。採取依頼で欲張り過ぎて、ゴブリンに見つかってしまったのだ。

「死にたくねー!誰か、だっだれかー!助けてー!」

 走り続けながら、テスターは数十秒毎に周囲に助けを求める。だが、助けに来てくれる冒険者はいない。賢い冒険者達は皆、ゴブリンが活動する時間帯になる前に町に帰ってしまっていた。今、この採取地にいるのは愚かな冒険者一名のみ。

「んげっ!」

 遂に足に限界が来て、その場に転ぶテスター。その背中にゴブリンが棍棒を振り下ろす。こうして、また一人愚かな冒険者が魔物の餌食になり、テスターの冒険は幕を閉じた。

 そのはずだったのだが、

「アー、アー、テステス。そこの馬鹿金髪、アタシの声が聞こえるかーい?」

 テスターの耳元で失礼な女の声が聞こえる。そして、ゴブリンの棍棒は一向に背中に届かない。恐る恐る振り返ると、ゴブリンが棍棒を振り上げたまま、ピタリと静止していた。

「こ、これは?そ、そうか!ゴブリンが俺の事を許してくれたのか!しかし、ゴブリンが何故人間の言葉を?」
「違うわ馬鹿金髪ー!」
「うっわ!何も無い所さんから失礼な女の声が!これは一体…よし、レッツらシンキングターイム」

 声の主がゴブリンではないと理解したテスターは現状を整理する。金縛りの様に固まったゴブリン、姿の見えない女、ゴブリンと違い動ける自分、それらの情報からテスターは答えを導き出す。この間三十五秒。もし、ゴブリンが動けたなら五回ぐらい死んでいたが、幸いにもゴブリンは固まりっぱなしだった。

「うわあああ!金縛り能力を持ったゴーストがゴブリンと俺の命を狙っているー!?」
「ちゃうわ。話聞けアタシはなあ…」
 「じゃあ先輩冒険者だな!やったぜ、俺の祈りが神に通じたんだ!」
「それもちゃう、いや、部分的には合っとるか。ええか、助かりたいならアタシの言うとおりにするんや」
「かしこまりぃ!」

 声の主は未だ正体不明だが、ゴブリンの敵で自分の味方なのが濃厚なので、テスターは大人しく従う事にした。

「よっしゃ、ほな今からお前に鑑定のスキルを貸すから、それでそこのゴブリン倒してみい」
「かんてー?すきる?そんな知らない名前の武器いきなり渡されても…」
「ええからやれ!実際スキル渡せば分かる!ハイ、鑑定レンタル完了!」

 謎の声がテスターには理解できない単語を羅列した後、突如としてテスターの視界内に無数の文字が出現した。

「おおっ、こ、これは!」

モンスター名:ゴブリン
現在体力:20
最大体力:20
現在魔力:0
最大魔力:0
攻撃力:7
守備力:3
素早さ:4 
解説:人間の子供ぐらいの力と知能を持ち、人間を襲い生活の糧を得ている。生まれながらの狩猟者であり、子供並と侮ると死に繋がる。夜行性なので、夕方以降は出没地域を出歩かないのを勧める。

「うん、文字に視界の半分近くが塞がれ凄く邪魔だ!」
「ゴブー!」
「あっ」

 空中に浮かび上がった文字に気を取られていたテスターは、金縛りが解け動き出したゴブリンの攻撃をマトモに脳天で受けてしまう。

「この鑑定とかいうの…クソ使えねえ…」

 その言葉を最期に、テスターは意識を手放した。頭蓋骨が陥没し、脳が破壊され、生命活動が不可能となった。そう、死んだのだ。
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