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第三章キモヤロウ暴走編

暴走4:キモヤロウ、ああキモヤロウ、キモヤロウ

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 ニクちゃんは驚き固まっている!
 テスターは驚き固まっている!
 なんかあった未来のニクちゃんは驚き固まっている!

 全員が一ターン硬直した後、最初に動いたのはなんかあった未来のニクちゃんだった。

「タイムパラドックス的なアレコレで消えるかも知れませんか、ニクちゃんは元々召喚された身なので長くこの場に留まれません!ならば、せっかくなので勝負です!」

 それを受けて、現世のニクちゃんも動く。

「了解してラジャーです!ニクちゃんの未来に何があったのかは、その身体に聞くとします!」

 シュバババと高速で上下左右に動く肉団子の甘酢がけと化したニクちゃん二名が衝突を繰り返す。数多のツワモノをビタンビタンしてもキズ一つ付かない頑丈な道場もこれには流石に悲鳴を上げ始める。

「何かあった未来のニクちゃんストップ!このままですと、ニクちゃんより先にお家が壊れます!」
「それはニクちゃんも困るかもです!ならば、お布団で勝負しましょう!」
「ですね!さあ、お布団バトルです!カモン!」

 ニクちゃんはマッハで布団を取り出し、中へ飛び込む。

「いざキャバクラ!」
 
 なんかあった未来のニクちゃんも反対側から布団に飛び込む。

「お前ら、何でこっち来るんだよおおおお!!」

 布団の中央にはテスターが居た。ニクちゃん頂上決戦から逃れる為に、ここに避難していたのが裏目に出た。

「ムッフー?」
「ゲッブー?」

 ニクちゃんは急には止まれない。二人のぶちかましをモロに受けたテスターは一瞬でミンチになり、召喚主が死んだ事でなんかあった未来のニクちゃんも消え始める。

「あー、こんな形で勝負が終わるなんて消化不良です。過去のニクちゃん、これでサヨナラです」
「待って下さい!ニクちゃんは未来では結婚出来たのですか?それだけは教えて下さい!」
「その質問には直接は答えられませんが、一つアドバイスしましょう。いいですか?この先、ニクちゃんは魔王と戦うか否かで運命が大きく変わります。結婚したいのなら魔王と戦」

 最後まで言い切らずに、なんかあった未来のニクちゃんは完全に消え去った。

「どっち何ですか~!?テスターさん!もう一回召喚して下さい!」

 何としても結婚したいニクちゃんはテスターの胸ぐらを掴み再召喚を要求するが、死体は返事をしない。やがて、テスターの死体も光に包まれ消えていった。

「な、何か死体が消えました!テスターさんは人型のアンデッド、エルダーリッチとかだったのでしょうか!?」

 ニクちゃんは、テスターが自分と同じ試用者とは知らない。ニクちゃんは、試用者が死んだら死体がこんな風に消える事も知らない。結果、ニクちゃんはテスターを高位のアンデッドだと結論付けた。

「困りました。こんなお預けを受けてしまっては、修行に集中出来ません。あ、そうだ!ニクちゃんの今日のスキルはスキルコピーでした!」

 ニクちゃんは自分のスキルをあまり信用していないし、テスターの英雄召喚がスキルだとも考えて無かったが、今は他に頼る物も無いのでダメ元でチャレンジする事にした。

「えいゆー、しょーかん!」

 気合と共に右手を上げると、奇跡が起きた。なんと、床が輝きだし、白髪でシュッとした老婆が出現した。

「私の名はアイリス…なんだい、スキル貰った頃の私じゃないのさ」
「わぁい、未来のニクちゃん召喚成功です!でもなんか様子が変ですねえ?」

 ニクちゃんの召喚したニクちゃんは確かに未来のニクちゃんだったが、痩せてるし一人称とかも色々さっきのニクちゃんとは違った。そして、その身体は今にも消えそうな程に不安定な状態だった。

「チッ、やっぱり長くは居られない様さね」
「あわわっ、未来のニクちゃんが早くも消えそうです!後、お腹すきました!」
「英雄召喚は燃費が悪い。アンタの魔力じゃこれが限界なのさ。時間が無いから簡単に話すよ。私は、あのデブとは逆の選択をしたアンタさ。アンタ、結婚したいんだろ?」
「はい!」
「なら、魔王と戦」

 別のなんかあった未来のニクちゃんは消えた。

「結局、どつすればいいんですかー!」

 肝心な所さんだけ分からず、ニクちゃんは頭を抱えた。恐らく、この先魔王に挑むか挑まないかで未来か決まり、ニクちゃんの未来の姿も変わるのだろう。

「多分、細い方のニクちゃんが魔王と戦う選択をしたニクちゃんなんでしょう。顔つきがツワモノしてましたし、ニクちゃんでは無くアイリスを名乗ってました」

 ホーガン流を継承する者は魔王と直接戦うのを禁じられている。細いニクちゃんは本名を名乗っていた。つまり、魔王と戦う為にホーガン流を捨て二十九代目ホーガンでは無くなったと推理出来る。

「魔王と戦うと細いニクちゃん、魔王と戦わないと太いニクちゃんになる。ここまでは分かります。で、あのニクちゃん達は結婚出来たのでしよーか!?分かりません!ニクちゃんにはこれ以上分かりません!」

 テスターの正体よりも、魔王の存在よりも、未来の体型よりも結婚こそがニクちゃんには重要事項だった。
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