スキルテスター!本来大当たりなはずの数々のスキルがハズレ扱いされるのは大体コイツのせいである

騎士ランチ

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第四章カマヤロウ考察編

考察7:カマヤロウ、カスヤロウ、キモヤロウ、バカヤロウ

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「縮地縮地縮地縮地」

 残像を出しながらびょんびょん飛び跳ねるクレイムに先導され、アレックスとリブはインゲンにむかって街道を歩いている。

「パパ、馬車は使わないゴブ?」
「例の堕天使に見つかる可能性が上がるのは避けたいでしょ?仮に見つかった場合も、徒歩の方が逃げやすいのよ」
「今は特に会いたくないゴブね。しのぶさんもいないし」

 しのぶは現在天界に帰っている。神やレーゼに状況を報告し、今後の指示を受ける為だ。

「もしかしたら、魔王や堕天使を倒す戦力を神様が出してくれるかも知れないゴブ」
「そうね。神様は実在し、私達人間をあの手この手で守ってきたわ。今回も、しのぶさんと一緒にたくさんの天使が来て魔王を倒してくれたりするわよ」

 その可能性は限りなく低い。聖女召喚に自信ニキなアレックスは神の行動についても研究を重ねてきた。その結果分かったのは、神は人間界の異常への対応に遅れがあり、しかも、そんなに人間を守ろうとはしていないという事実だ。

 聖女システム崩壊後にスキルシステムに転換したものの、四人の試用者の観測に留めたのが正にそれを証明している。残念ながら、神が増援を寄越す可能性は低い。それでもアレックスは、リブの不安を少しでも取り除く為に、楽観的に未来を語る。

「縮地縮地縮地縮地しゅ?」

 先頭を歩いていたクレイムの足がピタリと止まる。

「会長、どうしました?貴方を投げ飛ばした女が居た場所はまだずっと先ですが」
「ま、まさか堕天使に見つかったゴブ?」
「いや、二人とも坂の上を見たまえ。道が塞がれている」

 アレックスが坂を見上げると、道の真ん中に大岩が存在していた。

「あっちゃー、崖崩れかしら?街道を外れて森を進むしかなさそうね」
「ゴブっ?あの岩、こっちに転がって来てないゴブか?」

 リブの言う通り、大岩はゆっくりとこちらに転がって、いや、坂を下ってどんどん加速している!

「や、ヤバっ!風の力を司りし精霊よ!」

 アレックスは岩と自分達との距離から時間の猶予を計算し、最適な魔術の詠唱を始める。

「我らに一度の飛翔の力を貸したまえ!アッパーストリーム!」

 アレックスはリブを抱えて、大きく跳躍する。

「先生、私は!?」
「会長は自前のスキルでどうにか出来るでしょ!」
「そうだったな。縮地!」

 クレイムもギリギリのタイミングでジャンプし、縮地により大岩をやり過ごす。

 しかし、三人が地面に着地した瞬間、大岩は意思を持っているかの様に逆回転し戻ってきた!

「堕天使関係なく、死ぬのー!?」
「リブとおっさんは試用者の力で助かるけど、パパはガチ死ゴブー!」
「というか、例え復活出来るとしても死ぬのはゴメンだ!私はスキルなんて信用してないからな!実際に死んだら何が起こるやら分かったものではない!そこのゴブリン、私の盾になれ!それが理論上正しい選択なのだ!」

 今度は魔術もスキルも使う暇もない。万事休すと思ったその時、大岩は三人の目の前でピタリと止まった。

「た、助かったゴブ?この岩、勝手に動いたり止まったりどうなってるゴブ?」
「待って、これ岩じゃないわ」

 アレックスは岩と思われていた存在の正体に気付く。近くで見ると、それは手足を折りたたんで丸まった人間だと分かる。その人間は手足を伸ばし、立ち上がると、大きく叫んだ。

「ゲップー!!!」

 大岩の正体は巨大化したニクちゃんだった。レーゼの遺言を受けマカダミアに向かう事にした彼女は、出発前に自宅に貯蔵してあった約一トンのホーガンステーキ肉を全部食べてしまったのだった。愛した天使との別れ、暴食、そしてつい先日三十歳の誕生日を迎えた事でニクちゃんは変わってしまった。もはや、ニクちゃんならぬ肉ちゃんである。

「ゲッブー!脂肪のせいで前が見えづらくて小石につまづいて転んでしまいました!危うく死亡事故に繋がる所さん。これが本当の脂肪事故ですね!」
「む、その知性の足りぬ顔は私を投げた女か。ちょうどお前を探していたのだ」
「あー!あの時のラッコ!何で人間に化けてるんですか?ここ最近、肉ちゃんが出会う奴は人なのかどうか疑わしいのばかりです!」

 肉ちゃんとクレイムがやいのやいのしているのを見ながら、少し離れた位置でアレックスはリブを抱き続けながら、恐る恐る大事な事を確認する。

「こ、この人が会長の言っていたスキル試用者?あの、すみません。変な質問ですけど、貴方は天使と契約し、スキルを使い戦う人ですか?」
「私は天狗様と契約しました!そして、スキルは役に立たないから使ってないです!」
「この豚試用者だわ!しかもテスター級のアホだわ!」

 肉ちゃんは笑顔で親指を立てながら見当違いに答えたのを見て、アレックスは頭を抱えた。

「なんなのよ!スキル試用者ってアホしかいないの?」
「パパ、言っていい事と悪い事があるゴブ」
「私はクレイム。この国で一番頭の良い男だ」
「俺が頭悪いのは最初から知ってるだろ」
「まー、まー、皆さんそこの原っぱでお弁当食べながら自己紹介でもしましょうよ」

 肉ちゃんの提案で、試用者軍団+アレックスは街道そばで昼食を取る事となった。

「それじゃあ、お互い知らない顔も居ますし、自己紹介ターイムといきましょう!私はアイリス・オーヤマ。異世界人クロウ・ホーガンの作った武術ホーガン流の二十九代目なのでニクちゃんと呼ばれてました!今ではすっかり肉ちゃんです!天狗のレーゼ様の遺言でマカダミアのスキル試用者に会いに来たら、まさか全員揃ってるなんておどろ木ももの木さんしょの木です!」
「私はクレイム・ナード。アーモンド国で男爵をやっている。契約天使はマーガレットという巨漢の男型天使だ。だが、現在天使と我が娘マリアが魔族の手先に攫われてな。取り戻すために他の試用者と合流を目指していた」
「俺はテスター。カシューで冒険者をしていて、ゴブリンに殺されかけていた時にヒースと契約をして試用者になった」
「リブート・カーマンだゴブ。出身はマカダミアになるゴブか?ちょっと分からないゴブ。天使のしのぶさんと契約して、堕天使に見つかる前に仲間を揃える為にここまで来たのゴブ」

 試用者四人が遂に揃った。皆で仲良くお弁当を食べ終わり、片付けをした時、ようやく彼らはおかしな点に気付く。

「あんた誰ゴブ?いつから混ざってたゴブ?」
「あっちゃー、もうバレたか。天使が使ってた偽装魔術の応用で溶け込んでみたんだけど」

 当たり前の様にそこに居たテスターの存在に最初に気付いたのはリブ。それを皮切りに他の者も次々と乱入者の存在を自覚し身構える。

「エルダーリッチ!」
「殿下!」
「馬鹿王子!」
「いや、本当に誰なのゴブ?」

 肉ちゃんの発言が凄いノイズになって、リブはテスターの正体をつかめない。ならばどうする?そうだね、鑑定だね。

モンスター名:天魔人
現在体力:960
最大体力:960
現在魔力:不明
最大魔力:1900
攻撃力:583
守備力:326
素早さ:345
解説:アーモンド王家が生み出した人型魔導具が意思を持ち、神と魔王の代理者と契約を交えた禁忌の存在。その肉体は常に限界を超えた魔力に満たされており、知識さえあればどんな大魔術も使用可能である。


モンスター名:踊る肉団子の甘酢がけ
現在体力:2929
最大体力:2929
現在魔力:29
最大魔力:29
攻撃力:29831
守備力:2943
素早さ:1129
解説:初代に匹敵する実力を持つ、ホーガン流現代表。激太りで素早さが低下しているが、攻撃力は爆増している。神様が困るから、大人しくしてて下さい。


モンスター名:中の人
現在体力:19
最大体力:19
現在魔力:6
最大魔力:6
攻撃力:27
守備力:8
素早さ:21
解説:ラッコマンがラッコスーツを着ていない状態。一見弱いが実際弱い。しかし、こいつをほっといたら絶対にロクな事にならない。

「さて、ジェニファーさんが来る前に、お前たちに聞きたい事がある。答えによっちゃあ見逃して」
「壇ノ浦落とし!」

 肉ちゃんのジャーマンが決まり、テスターは死んだ。
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