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プロローグ③
しおりを挟む流暢に日本語を話す神父様に、原稿が書き上がったら『ゆるしの秘跡』をしたいとわたくしは伝えてありました。
ゆるしの秘跡――。
懺悔、告解と言った方がわかりやすいかもしれません。わたくしが洗礼を受けたのはごく最近のこと。信徒としてはまだ日が浅いわたくしの元を神父様は度々、訪れます。
親族の仏事にだけ仏教徒だったのだと気づく程度の信仰心だったわたくしが、カトリックに信仰を変えたのには理由があります。そして、わたくしにここまで神父様が熱心なのは若かりし頃の宗太郎を――、わたくしの夫である彼女を救ってあげられなかったからかもしれません。
「先に支度をさせて頂きますね」
わたくしは今日の『ゆるしの秘跡』は長くなりそうと思いながら、神父様がスーダンの上から真っ白な白衣のようなアルバを身にまとい、同色のストラを首へと掛ける様子を見ていました。
ベッドに腰掛け、感覚のないわたくしの手をそっと握る神父様は父のように微笑み、頭を撫でました。
「回心を呼びかけておられる神の声に心を開いてください」
――アーメン。
「神のいつくしみを信頼して、あなたの罪を告白してください」
神父様は原稿を手に取りました。
内容は、彼女が持って出たUSBと同じ。部屋へ持ち込んだプリンターで、ついさっきプリントアウトしたものでした。
それはおおよそ五センチほどの厚みがあります。それを告白の代わりに、神父様が読んでくださる約束です。
神様が創り間違えた性の話――。
わたくしは神父様の向こうに見える黒い影を見ていました。今朝、目覚めた時からそれは部屋に居ました。
オカルトや都市伝説のようなもで小耳に挟んだ事がありませんか。
死にぎわに黒い影が見えると。
どうやら、それは事実のようです。わたくしに残された時間はもうーー。
待っていられなかったら、ごめんね。
彼女との約束が守れたらいいのにと思いながら、ページをめくる音だけが響く静かな部屋でわたくしはそっと目を閉じました。
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