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遭逢①
しおりを挟む彼女と出会ったのは、大学三年のゼミでした。
『金融・証券投資の理論と応用』という十人ほどのゼミだったのですが、おそらくイケてない教授とレポート提出が多いという噂で、女子には人気のないゼミでした。かというわたくしも第三希望で、何の因果かまさかの紅一点、女子は一人だったのです。
(信じられへん……)
昨夜遅くまで、わたくしはレポート作成に追われてました。プリントアウトしたものをチェックしていたら数字がずれ、グラフがおかしな事になっていたからです。
起きたのは十一時半。
提出の十二時まで、あと三十分でした。洗濯機から漁った昨日の服を着て、急いでアパートを出て大学へ向かいました。
構内を走り、研究棟の入り口に自転車を乗り捨てたのは締め切り五分前。教授の研究室がある四階まではエレベーターに乗れば、あっという間のはずでした。しかし、ボタンを押しても五階で止まったままエレベーターは動きません。カチカチカチとボタンを何度も押しているのに反応がなく、痺れを切らしたわたくしは非常階段へ向かいました。提出時間に厳しい教授の事です。一分でも過ぎたら受け取ってもらえないでしょう。
「キツ……」
全力で駆け上がる階段は永遠に続いていそうで、目眩がしました。生理二日目という事もあるかもしれません。三階あたりで気持ち悪くなりながら四階へたどり着き、非常ドアを開けました。と、男子学生が一人、涼しい顔でかなり先にあるエレベーターから降り、教授の研究室へ走って行きます。
(エレベーター動いたんだ……、くそッ)
小さく舌打ちして、まっすぐな廊下を走ります。男子学生は研究室のドア横の提出用のポストへレポートを入れ、フーッと息を吐いているところでした。
午前の終礼のチャイムが鳴り、わたくしは走りながらリュックの中のレポートを手にしました。
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