清楚ビッチなシンデレラ

ハル

文字の大きさ
3 / 8

#3

しおりを挟む
 一柳がマスターに注文を入れて流れるようにグラスを磨き始めるのを確認しながら、ちなりは彼の横顔をそっと盗み見る。
 ――本当に綺麗な顔だなぁ。
 女性的というわけではなく、男らしいのにとても整った顔立ちをしている。少しだけタレ目な目尻の隅に小さなホクロがどこか色っぽさを醸し出している。
「一柳さんは、どうして毎日ここにいないの?」
 ふと、つい思ったことを口にしてしまう。一柳はグラスを磨く手を止めて、ふっと笑った。
「バイトなんですよ。本業は別にあるんです」
 それは何? と続けようとして、その時に入口の扉が開いた。
「確かここだよ」
 数人の若い男の声に思わずびくりと肩をすくまして、ちなりは体を縮こめた。そんなちなりの様子に一柳はそっと彼女を隠すように今入ってきた一団にいらっしゃいませと声をかけた。場違いな若い男が3人ほど。男たちは、ちなりが死角になる入口付近の座席に案内される。あきらかに住人ではないからである。
「ここ、成功した投資家とか、起業家がこぞってやってくるんだって」
「人脈作りに最高ってこと?」
「おれらの企画にすぐ金出してくれちゃったりして!」
 そんなことを能天気に話をしている男たちに見覚えがあって、少し身を震わせる。
「どうされました?」
「あの、ごめんなさい。私、今日は帰る……」
「ちなりさん、顔色が……」
 そっと住民用の出入り口側に向かうちなりを、一柳が追いかけてくる。大丈夫と言おうとするが、体がこわばって言葉が発せられない。扉を出るとコンシェルジュも心配そうに受付から出てくるが、それより先に一柳がちなりの足を掬うようにして抱え込んだ。がんがんと脂汗が滲み出てくる。自分で歩けると言おうとするが、ぐるぐるとめまいがひどくなって言えるわけもなかった。
 一柳がコンシェルジュに指示を出しているのが遠くから聞こえるが、ちなりは細身だとおもっていたのに熱くて硬い男の胸に抱え込まれ、その熱にどこか安堵をして、意識を手放した。

「気がつかれましたか?」
「あ……。なんで。――ああ……。私どれくらい?」
 見慣れた天井なのに、そこに一柳がいることに違和感を感じたが、すぐに記憶が蘇ってきて、ちなりは枕に頭を深く押し付けた。一柳が手配してくれたのか、首元にはアイスノンが置かれていて冷たさが心地よかった。
「10分ほどです。急に気を失ったからびっくりしました」
 そう言って一柳は心配そうに、額に手を当ててきた。
「ひんやりしてて気持ちいい……」
「熱はなさそうですけど、気分は?」
 ちなりは首を横に振った。
「ちゃんと食べないから、貧血起こしたのかもしれませんね」
「あの……迷惑かけちゃってごめんなさい」
 素直にちなりは詫びる。
「あんなの迷惑にもなりません。――しかし、すごい部屋ですね」
「――!」
 一柳に言われて、自分の部屋の状況を思い出してがばりと身を起こす。
「や、あの、これは、私のではなくて……」
「わかります。これとかまだ作業中って感じですよね」
 笑い混じりに一柳が指さしたものは、ミシンの横に置いた白いレースがふんだんに使われた、ブラジャーであった。
「えーーーーと、その……」
「ちなりさんのお仕事なんですか?」
 彼が見回すのも非常にわかる。ちなりの部屋でランジェリーが所狭しと置かれており、しかも真ん中には大きな作業台と業務用のミシンが置かれている。正直足の踏み場もないと言っていい。
 ――よくこの部屋入って平気だな、この人。やはりこういう女の下着とかに慣れてるのかしら?
 ちらりと感心して周りを見ている男を眺めてそんなことを考えた。男のフラットな様子に少しだけ勇気が湧いてちなりは心に澱のように溜まっていることを聞いてみる気になった。
「変態だとは思わなかった?」
「え?」
「こんなに下着がいっぱいあって、しかもなんていうか……」
 そう言いつつも、恥ずかしくて体の上にかかっているシーツをかき寄せながらうつむいてしまう。なのにそっと近づいてくる気配がしてちなりを下から優しくのぞき込んでくる。
「そんなこと――。誰かに言われたんですか?」
「一柳さん、それほどちゃんとあれ見てないんでしょ?」
「――」
 さすがに一柳とはいえ、恥ずかしかったらしい。全てを超越して、なんでも達観してそうに見えるのに、さすがに女の下着が所狭しと置いてあるのは、彼なりに予想外のものであったらしい。
 そっとちなりは自分のブラウスのボタンを外していく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...