清楚ビッチなシンデレラ

ハル

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#4

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「ちなりさん?」
 この男に少しだけ心惹かれてたから、どうせ忌避されるなら、最初に全てのカードを出してしまえと瞬間的に思った。今までそうやってやってきたのだ。ちなりの戦い方はこの方法しかなかった。この部屋を見られたからこそ、やけくそのようになってしまったとも言うが。アルコールは飲んでいないはずなのに、なんとなく大胆な気分になっていた。そっとブラウスの前をはだけさせると、一柳は息を飲んだ。白いレースのブラジャーが覗いているが、よく見るとカップの真ん中が割れており、それを細いリボンがちょうど胸の頂きを隠すように結ばれている。白いカップの隙間から漏れ見える白い肌がとても艶かしい。
 少し顔を赤める一柳の態度に奇妙な満足感を覚えながら、ちなりはブラウスをそのまま滑り落として脱ぐ。
「これが私の仕事。女の子が、一見清楚っていうか、赤とか黒とか扇情的っていうのかな? そういうわかりやすいんじゃなくて、白いんだけどエロいみたいな下着を作ってるの」
 そういって、プチンとスカートのホックも外し、立ち上がった。体の半分を覆っていたシーツとともにスカートもゆっくりと落ちていく。均等の取れたちなりの美しい体に一柳は息を飲んだ。白いシミひとつない体に、美しいくびれ。盛り上がった胸にハリのある腰。若く恵まれた娘らしい曲線の上に、白いレースの上下の下着。ただし、ブラジャーもショーツもどこか挑発的なデザインである。
 ショーツは片方の腰側は薄い紐が二本交差し、腰の美しいラインをダイレクトに視覚に伝えてくる。
「好きな男の人を誘惑するための下着。私がこのマンションを買えたのはこの下着たちのおかげ――。ね、一柳さん、どう思う?」
「は?」
 いつも冷静な男が呆然としている様が少しおかしくなる。
「この下着、どう思う?」
「どう――でございますか?」
 言葉が崩れないのはさすが職業病だろう。おかしくて、そして勇気がまたわいた。
「さっき入ってきた人たちの中にね、私の元彼がいたの」
「え?」
 ちなりは大学で起業を目指すサークルに入った。チャラっと浮ついた人間もいたが、半数くらいはまじめに人脈を開拓し、起業をするために何が必要かを研究するような大学ではよくあるタイプのサークルであった。成績的にはもっと上の大学も狙えたが、ちなりはもともと就職するつもりはなかった。最初から起業を目指していたため、都心でそれほど授業などもつらくない、だが保険として就職するという選択肢も考えていたため、就職率はそれなりにいい大学に入った。
 一人で何かするのはあまりにも情報からかけ離れてしまう。そのためにサークルにも入った。
 そこで元カレに出会ったのだ。
 付き合い始めるきっかけは、ちなり本人もあまり思い出せないようなささやかなものであった。一緒に同じ方向を目指している男女が、コミュニケーションをとるうちにお互いが気になった。それだけである。
「彼が言う起業に必要なことは何でも信じたんだよね」
 だから、その通りに起業してみたと、ちなりはうっそりと笑った。そしたら大成功してしまった。
 たまたまコンセプトが良かったのかもしれない。清純のためのエロというコンセプト。大学に入る前にブログの作り方や、アフィリエイトについて勉強していたのも功を奏したのかもしれない。
 また、下着については一過言というか、好きだからのめり込み、縫製やラインなどについて徹底的にこだわって再現してくれる、そういうことを面白がってくれる工場を開拓できたのは決定打だった。
「靴やバック、下着にお金をかける女の人って本当にいるんだよね。私がそうでもあったんだけど」
 ちなりはベッドからシーツを引き剥がして自分の身を包んでから笑った。
 その寂しい笑みに、一柳は眉を少し寄せて眺めることしかできなかった。
「私が成功しだすと、まず彼は私を馬鹿にしたわ。下着で起業だなんて志が低いって。――なのに、彼の知り合いの工場を縫製に使えってねじ込んできたりして……」
 馬鹿馬鹿しいと思ってしまった。
 自分が何社も渡り歩いて、こだわった縫製を再現できる場所なんてそんなに簡単にない。それに馬鹿にしている人間に、知り合いの工場を使えとかマージン渡せといってくる神経もわからなかった。
「そうしたら何が起こったと思う?」
 思い出すと悔しさがこみ上げてきたが、ちなりは一柳から目を離さずに続けた。サークルではいつの間にか居場所がなくなってしまったこと。そして、男に身を許して事業の費用をつくっただの、どこかの重役の愛人だという噂がどこからか流れてしまい、友人が離れて行ってしまったこと。
「それくらいなら、私もまだ平気だったんだけど……」
 一度暗い校内を歩いていたら、よくわからない男に教室にひきづりこまれて、いやらしい下着つけてるのであれば男好きなんだろうと組み敷かれたことがあった。その時は運よく逃げ出すことができたが……。
「もう、怖くて、怖くて」
 あれ以来、大学は最低限の授業しか受けていないし、暗い時間のものは受けないようにした。人間不信になりそうで、だからこそ、仕事に打ち込んだ。
「そしたら、さらにうまく回って、このマンション買えるちゃうくらいになっちゃった」
 少し明るく言ったが、一柳は黙ってちなりに手を伸ばして抱き寄せる。シーツ越しなのに熱い男の体が脈打っていることがわかって、どこかひやりとした。
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