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しおりを挟む家に着いたら、チロは少し汗をかいていた。コートを脱がせて、タオルで顔の汗をぬぐってやる。長いまつ毛の下には、金色の瞳にグリーンの虹彩が薄く伸び、吸い込まれそうにきれいだった。
「チロ、荷物持ってくれてありがとう」
「いいんにゃ、力仕事はぼくに任せるにゃ」
オレは冷蔵庫に食材をしまいながら、昼ごはんの準備をした。炊きたてのごはんに、だし巻き卵を焼いて、メインは新鮮なお刺身。チロは鯵が好きなんだそうだ。
お茶碗にごはんをよそうと、ちゃぶ台にチロが運んだ。
全部のおかずが並ぶと、オレたちは食事を始めた。
「「いただきます」」
チロは、口いっぱいに食べ物を詰め込んで、もきゅもきゅと食べる。とてもかわいい。
「ともちゃん、卵焼き美味しいにゃ。噛むとじゅわってするにゃー」
「おう、じーちゃんが好きだったから、作れるように覚えたんだ」
ひとりで暮らすようになってから、だし巻き卵を作ったことはなかったが、久しぶりにしてはなかなか美味しくできた。じーちゃんの思い出と、ここにチロがいてくれて、いっしょに食事をしてくれるうれしさに、涙がぽろりとこぼれた。
「ともちゃん、泣いてるにゃ。悲しいにゃ?」
「ううん、うれしいんだ。うれしいときにも涙が出るんだよ。チロがいてくれて、うれしいなーって。ほらごはん食べなよ。鯵が待ってるよ」
チロは、ぱくぱくと食事を終え、ゆっくり食べるオレの後ろから、背中を包むようにそっとハグをした。
オレは余計に涙が止まらなくなってしまい、食事が終わったことには目が真っ赤だった。
「ともちゃん、まだ泣いてるにゃ」
「うん。あのな、じーちゃんが亡くなったとき、オレ葬式やいろんな準備に終われて、結局泣かずに終わってしまったんだ。頼れる人もいなくて、ずっと気が張ったまま、ここまで来ちゃった。チロが卵焼き美味しいって言ってくれて、なんか張り詰めてたのが、ほどけちゃって」
「悪いことにゃ?」
「ううん、いいことだと思うよ」
「ともちゃんが、ずっと頑張ってたの知ってるにゃ。なでなでしてあげる」
チロは、オレを横抱きにして、寝室に連れ込むとそのままベッドにおろした。
いっしょに横たわると、オレの身体を自分の上に乗せて、やさしく撫で始めた。頭も肩も背中も、しっぽは足のうえをふわふわと踊る。
オレはもう一泣きして、チロの服をぐしょぐしょにした。
「ともちゃん大好き。ぼくがこの家にもらわれてきたとき、ともちゃんがなでなでしてくれた。小さなぼくが寒くないように、おふとんであたためてくれた。ぼくが鳴くたびに様子を見に来てくれた。あのときからずっと大好きにゃ」
「オレもチロのこと好きだよ。小学校でいじめにあったときから、人は苦手だけど、チロとじーちゃんは好きだった。チロは猫だったから恋愛としての好きじゃなかったけど、こんなに大きくなって、話もできるようになって、やさしくて。もうチロしかいらないくらい好きになっちゃって……恋してるんだ。初恋かな……」
「ともちゃん、もっとぼくに夢中になって」
チロがオレを強く抱き締めて、深いキスをした。チロのざらっとした舌が思わぬの口の中に入ってきて、上顎を刺激されると思わぬ快感に身体が跳ねた。
チロの両手は、オレの背中やおしりの上をさわさわとはいまわり、溺れそうなキスに夢中になる間に、オレの服は脱がされていた。
チロは、くるりと位置を入れ替え、オレに覆い被さると、目元の涙をなめた。
「ともちゃん、エッチしたいにゃ」
「うん、オレもしたい」
チロは、オレの首筋をなめたり噛んだりしながら、少しずつ下へと降りていった。
なぜだろう。今までにないくらいに気持ちがい。もう声がとまらない。
「はぁっ、チロ、チロ、気持ちいいっ……あん、あァ、なんか来ちゃう……」
チロが、乳首にカリリと歯を当てたとき、オレはたまらず射精した。恥ずかしいのに、気持ちよくて、チロにされるがままにくたくたになっていった。触れられる全ての場所が快感と喜びにはじけそうで、今、世界にはオレとチロしかかいなかった。
解された後孔に、チロのちんぽがあたる。
「ともちゃん、入れていいにゃ?」
「チロ、気持ちよすぎて頭がおかしくなりそうだ。おまえのちんぽをちょうだい」
「うん、ともちゃん、もっとおかしくなっちゃえ」
チロは、オレの中にずんと押し入り、がつがつと腰を降って、いきなりオレを高みに上らせた。
「ああああああぁ、ひぃ……、んぅ、はぁん、あんあんあんあんあんあん、チロ、チロ、死んじゃう!はぅっ!」
高みに上ったまま、降りてこられないオレの腰をつかみながら、チロのちんぽがゆっくりと中をかき回す。
「はン、それ目が回るの、オレがどこにいるかわかんなくなるの。やだぁ、チロ、ぐるぐる気持ちよすぎるぅぅぅ、やん、やぁん、ふぇぇん、やぁぁぁぁぁん!」
「ともちゃん、気持ちいいね。……ともちゃん、すごくやらしい顔してる。ぼくにしか見せないで。ぼくだけの、大事なともちゃん……」
チロが、またうなじを噛んだ。そのとき、オレの身体中がびりびりして、なにかとほんとうに繋がったのがわかった。あ、オレ、チロの番になったんだ。
チロ、大好き。愛してる。
「ともちゃん、愛してる」
――その言葉と同時にチロがオレの中に放ったのがわかった。へんなの、オレはそれがすごくうれしくなって心の中で大笑いしたんだ。
心に空があるとしたら、雲が全部すっ飛ばされて、オールブルーだ。一面の青。
そのまま寝ちゃったんだけど。
目覚めたら、翌朝で、どんだけ激しいセックスしたんだと、我ながらびっくりした。チロも横で寝ていて、猫だけど寝すぎだろと思った。
スパダリにありがちな、起きたら身体が拭き清められてるということもなく、オレたちたちはぼさぼさのカピカピだった。
「んあー、風呂だ!風呂!チロ、起きろー!」
「ともちゃん、ぼくまだ寝てたいにゃ」
「じゃあ、ずっとチロは臭いまんまな。やだぁ」
「……お風呂入るにゃ」
オレたちはいっしょに狭い湯船にぎゅうぎゅうに詰まって、またセックスしたりしなかったりしながら、頭を洗って、背中を洗いっこした。
お風呂から出て、髪を乾かしたら、チロのしっぽにもふんわりとドライヤーをあてていく。
「ふわぁ、ともちゃん、ドライヤーの音は怖いけど、ほかほかは好きにゃ」
「それはよかった。ふわふわにしてやんよ」
畳の上で、チロはうとうとと眠り始めた。
猫はやっぱり寝るのが好きなんだな。
さっきはひんひん啼かされたけど、どんな姿になってもかわいいまんまだ。番とか、猫の国とか、わかんないことだらけなんだけど、まだ始まったばかりだし。
チロさえいれば、どうでもいいんだよ。
オレは眠るチロのまぶたにキスをした。
もうどこにも行くなよ。
ずっとチロはオレの猫。
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