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しおりを挟むチロといっしょに堤防を歩く。
オレは、綿シャツにカーディガンのラフスタイル。
チロには、しっぽが隠れるようにロングコートを着せた。後ろから見ると少しもっこりしてるけど、まあ気にしない気にしない。
川の水が光を反射して、きらきらとまぶしい。この川の中には、一抱えもありそうな大きな鯉が何匹も生息していて、子どものころから、いつも橋の上で眺めたものだった。パンくずを撒くと、大きな口でずろろろっと吸い込むのだ。面白いけど怖かった。
「今のチロなら、あの鯉も捕まえられるな。どう?」
「ぼくは無益な殺生はしないんにゃ」
しらっと答えるチロに、蝉の死骸を枕元に置かれた記憶がよみがえる。
「おまえ、そんなこと言うけど、蝉採ってたじゃん!」
「あのときは、まだ猫だったにゃ。十五才くらいから、ちょっとずつ猫又になる準備があるんにゃ。ぼくが自分の存在に気づいたのも、だいたいそれくらいにゃ」
チロが珍しく真顔でそんなこと言うもんだから、オレは猫の世界は深そうでよくわからんなと思った。
オレがチロくらい身体が大きくなったら何をするだろう。――きっと何もしないな。ずっとこのまんまだわ。うん。
そんなことを考えながら、ぼーっと歩いていると、堤防を走る子どもたちが、勢いよくぶつかってきた。どんっ。
チロは、転びかけるオレを抱えながら、しっぽで子どもが転ぶのも阻止した。
「あぶないにゃ。きちんと前を見るにゃよ」
「ごめんなさいっ!あっ!おにーさん、しっぽがあるの?耳も!」
小学生の目が、チロのしっぽに集中した。ガン見してる。無理もない、大きなふさふさの二本のしっぽは、今の反動でコートからはみ出てぶわわとふくれていた。
オレをはすかさずフォローした。
「こればコスプレってやつだよ。ぼくたちにはまだわからないかな?」
「あー!このまえ学校で絵を描いてくれた漫画の先生だー!楽しかったよー!コスプレなら知ってるー」
「そうかい、このしっぽには秘密があるんだ。みんなには内緒だよ!」
「「はーい!」」
小学生の口約束など、信用できたものではないが、幸い家の場所を知られているわけでもないし、うまく切り抜けられたとしよう。
「ともちゃんがケガしなくてよかったにゃ。ぼく怒ったら猫パンチしちゃうからね。ばしってすごいのしちゃうにゃ」
オレの脳内には、猫缶を選ぶときのチロのたしたしって手つきしか思い浮かばないのだが、覚えておこう。猫パンチはすごいらしいと。
スーパーに着いたころには、チロのしっぽは細くなり、コートの中におとなしく収まった。
にぎやかな音楽が流れる店内を、ガラガラとカートを引きながら移動する
チロと買い物に来るなんて初めてだ。今は食事もオレと同じものを食べているけど、好物とかあるのだろうか。
「チロ、食べたいものがあったら何でも言ってよ。この買い物かごの中に入れるんだよ。わかる?」
「テレビで見たから、スーパーのマナーは知ってるにゃ。おさわり厳禁にゃ」
「そうだね。お肉やトマトを押しちゃダメだね」
野菜売り場で、玉ねぎやニンジンを買って、きのこも買って。
「チロ、そういえば玉ねぎは食べちゃいけないんだよね?」
「もう食べられるんにゃ。でも、ぼくはツーンとしたのや、ピリピリしたのは苦手」
オレは、今晩の予定をカレーからシチューに変更した。チロがカレーを「ピリピリ辛いにゃ」と涙目で食べるのを想像してめちゃ萌えたが、良心が痛んだので、カレーはひとりのときにしよう。あれ?ひとりのとき?ぜんぜん無いかも。
鮮魚売り場でお刺身を選び、精肉売り場で鶏の骨付きもも肉を見る。オレは、チロが喜びそうな食材をどんどんかごに追加していった。もう猫缶はいらないってわかってるけど、さばの水煮缶もかごに入れた。
会計はまさかの一万円越えだった。お米も買ったにしろ、オレのスーパーでの買い物最高金額だ。
いつもはひとりで買い物するけど、今日はふたりだから、荷物もはんぶんこ。楽チンで助かるなあ。買い物袋2つに満杯の食料品を詰め、オレは袋、チロにはお米をお願いするつもりだった。
しかし、チロは、お米の袋をひょいと肩に担ぐと、残りの袋も全部持ってしまった。手伝ってくれたらうれしいとは期待していたけど、全部持ってなんて思っちゃいない。
「チロ、オレも持つよぉー。袋一つちょうだい」
「嫌にゃ。ぼく、こういうのも憧れて大きい身体にしたんにゃ。スパダリってのにゃ」
チロの口から、そんな言葉が出るなんて!オレは、ちょっと胸がきゅんとした。なんだこの甘酸っぱいようなせつなさは!恋なの?
帰り道を歩きながら、まじまじとチロを眺める。どこから見てもオレ好みのイケメンだった。おまけに中身はチロで、オレたちは両思いで。
顔がゆるむのがとめられない。恋に溺れるってこんな感じかな。オレがヤバいんですけど。
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