チロはオレの猫

まめ

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 洗濯を干したら、やっと頭がすっきりしていた。
 青い空、白い雲、春の陽気はうららかで、空気が美味しいぞ。
 オレは庭で深呼吸をして、なんちゃってラジオ体操をした。はぁー、背筋が伸びるって気持ちいいー。
 冷蔵庫の食材も少なくなってきたし、散歩のついでにスーパーに行くかな。

「チロ、散歩行こうよ!」

「にゃっ?ぼくはこんな姿だから、いっしょに歩けないにゃ」

「そういえば、どうやってこの家まで来たんだ?」

 チロの目がきらんと光った。

「猫の裏道を通ったんにゃ。人間には秘密にゃ。この世界には猫ネットワークがあるから、人間に見つからないように生きることもできるし、ぼくも耳としっぽがしまえたら、ともちゃんのご近所さんのふりをして落とす予定だったんにゃ」

「ほおほお、そんな計画がぁ……。オレはそれよりチロとして帰ってきてくれてうれしいけどね」

「にゃ」

 謎の多い猫たちの世界には、触れてはいけないような気がした。猫の国(どこにあるんだよ!)や、猫の裏道、ざっくり聞いただけで、なんだかオーバーテクノロジーだ。そのうち、この世界は、猫が支配しているって言い出されても、オレ信じちゃいそう。

「オレ、漫画家じゃん。チロはコスプレした友だちって言えば通ると思うんだ」

「友だち?」

「うん」

「友だちにゃ?」

 チロが、ずずずとオレに迫る。頭ひとつ高い身長で、ひょろっとしたオレより立派な体躯で、今にものし掛かりそうに凄む。

「友だちにゃの?あ゙?」

「あ、いえ、恋人かな?もしかして伴侶とか?」

「恋人にゃ。ともちゃん、お散歩いくにゃ」

 チロがにこっと笑って、オレの手をつかむ。
 ぼさぼさのオレの頭をすくように、やさしく撫でる。
 ――じいちゃんが亡くなったとき、さみしかったな。オレは成人していたし、漫画家デビューしていたから生きていくための金はあった。
 でも、誰ももうオレを守ってはくれないのだ。ほめても、叱ってもくれない。
 ひとりぼっちになったさみしさと、世間に放り出されたような不安で、そういえばあの頃からチロがいっしょに寝るようになったんだっけ。
 もしかしたら、チロなりに慰めてくれていたのかな。
 オレは、少し潤んだ目元を、チロに見られないようにうつむいた。
 しかし、チロはそれすらも気づいて、両手でオレの頬を包み、ぺろりと涙をなめとった。

「大丈夫、ともちゃん。ぼく長生きになったんだから。もうどこにも行かないにゃ」

 ああ、絆される。胸の奥のやわらかいところに、チロがじわじわとしみてくる。
 だって、オレたち二十年もいっしょにいたんだもん。
 オレは顔を上げて、チロの唇にちゅっとキスをした。

「うん、ありがと。じゃ、散歩いこっか」
 
 


 
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