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26 番外編・精霊樹のこども 02
しおりを挟む精霊樹と人間に分かれたフロル、その人間のほうのフロルは、現在薬師をしている。
昔のように植物の声を聞くことはできないが、元から植物に触れるのが好きなのだ。
ダレンに作った魅了を解く薬、あんなレアな材料を集めることはもうできないだろうが、いわゆる普通の薬を作る知識は持っていた。
昨日は、腹痛の薬を作った。つんとした香りが不評だが効果は抜群。前世にもそんな薬があったのを、フロルはうっすらと記憶していた。
セルフィーユ子爵家は、元はただの農民から始まった家系で、たまたま精霊と縁があり、たまたま子爵になったにすぎない。農村を治める村長の感覚で暮らし、家族全員が毎日汗水たらして農作業を勤しむのだ。
そんな家族の一員、フロルの仕事は鶏の卵集めだった――風守に生まれたせいで、小柄で線の細い体つきは、今も変わらなかった。非力ゆえの卵係である。
「コッコちゃんたち、おはよー」
「コッコー!」「クルルゥ」「コココケッ」
鶏舎の扉を開けると、鶏たちが一目散にフロルの元に飛んでくる。ふわふわの羽毛が舞って、鼻がこそばゆい。
精霊樹と分かれたあと、髪や目が黒くなったフロルにも鶏たちは以前と変わらない愛情を向けてくれた。フロルは、それがうれしかった。
今日は、精霊樹の丘付近まで薬草採取に行くので、フロルは集めた新鮮な卵を持って厨房に行った。料理長に頼んで黄金プリンを作ってもらうのだ。
もちろん、精霊樹にお供えするためだ。
久しぶりに会いに行くと、精霊樹は見上げんばかりに成長していた。ここに種を植えてから一年余りになるが、驚異的な成長の早さだ。
初日に、種を埋めるなり芽吹き、しゅるっと伸びてフロルの背丈と同じ高さになったのは、記憶に新しい。
領民たちを引き連れて、お祭り気分で植樹をしたため、みんながその瞬間を目にすることとなった。
「いきなり大きくなった!精霊樹ってすごっ!」
「普通の木とは違うんだな」
「この丘からみんなを見守ってくれるんだねえ。ありがたやありがたや……」
そのおかげか、精霊樹は領民たちには大人気。
根元に作られたお供え物用の台には、所狭しと数々な野菜が置かれていた。
フロルの胸にあたたかいものが宿る。
自分の片割れ――精霊樹は、これから永遠のような長い時間、人間にすると幾代にもなる時を、ここに立ちこの地を見守っていくのだ。――領民に愛されてよかった。ぼくなら耐えられないだろう。
たくさんの供物は、定期的に入る掃除当番が持ち帰り、処分することになっている。だいたいは料理されておなかの中に入るのだが。
領民たちもそれを知っているので、日持ちのする野菜がほとんどだった。
フロルは、プリンを台に置き、精霊樹にお祈りをした。
「セルフィーユ領が豊かになりますように。……いつもありがとな。プリン持ってきたぞ」
プリンは日持ちしないので、その場で食べてしまいたい衝動にかられたフロルだが、お供え時間が五分では味気ないので置いて帰ることにした。
◇◇◇
その夜、フロルは夢を見た。
にこにこ顔の精霊フロルが、木の上から嬉々として、花びらを撒いているのだ。
「枯れ木に花を咲かせましょー!」
「君はいつから昔話が好きになったの? 花咲か爺さんが撒くのは灰だよ。で、それが花に変わるのがファンタジーなんだよ。最初から花びらは撒かないね」
「んもぅ! ぼくだって、花を咲かせたいっ!」
「咲かせればいいじゃん。ついでに実もつければ? ナディクさんが喜んで飛んでくるぞ」
「うんっ! 今、それに耐えられる様に成長中なんだ!」
夢を見ながら、フロルは自身に甘くせつない感覚を受け、ふっと現実に引き戻された――
ダレンがフロルの身体中に、甘いキスを降らせている最中だった。
「んあ……」
フロルがうっすらと目を開けるのに気づくと、ダレンはうれしそうにキラキラと目を輝かせ、唇にちゅっとキスをした。
その仕草が愛しくて、フロルの胸がとくんと音をたてた。――ダレン、来て……
ダレンの背中に両腕を伸ばし、押し付けるような力のこもったキスを返した。呼吸がおざなりになり、喉がくくぅと鳴った。
次第にふたりの唇は深く重なり、お互いを情熱的に貪り始める。
夢から覚めたばかりの気だるい感覚が、ゆっくりと身体の奥に火を灯していった――
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