ぼくが風になるまえに――

まめ

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24 最終話

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 陽が傾き始めるころ、精霊樹を囲むささやかなお祭りは解散となった。
「そういえば、我が領には特に祭りがなかったな。これから毎年精霊樹の誕生祭をするのもよいかもしれない……」
「今日は、みんなの楽しそうな顔が見られて、精霊樹も喜んでいるでしょうね」
「普通の樹のふりしてるけど、なんか中にいるよね」
「いるとしたら、フロルの半身じゃないか。おまえ黒くなってから、なんだか性格図太くなってない?」

 みんなが口々にぶつぶつ言いながら、フロルとダレン、家族はのんびり居間でくつろいでいた。
 ナディクは、屋敷に着くなり、今日の記録を付けるからと部屋にこもった。
 フロルは、前世のカメラやビデオがあったら便利だろうなあと思った。でも、記録できないからこそ、この世界の人は一瞬一瞬を大事に胸の中にしまう。その心は、とても尊いと思った。ナディクの記録には、きっと今日の今この時でしか書けないものがいっぱい詰まっているのだろう。

 軽い夕食をとって、もう寝るだけの時間。
 フロルはベッドに横たわるダレンの腕の中に潜り込む。もう胸の中の穴はなくなって、さみしくも心細くもなくなったけど、やっぱりダレンの腕の中は居心地がよかった。
 首に歯を立ててみたり、耳に息を吹きかけてみたり、鼻の頭を舐めてみたりと、思うがままに動いても、彼はフロルのされるがままに、うれしそうにほほえむのだった。

「ねえ、ダレン。なんか我慢してる? ダレンも、ぼくにいたずらとかしたいことあったら、構っていいよ?」

「うー、俺のしたいことはひとつしかない……」

「じゃあ、それしよっか」

「フロルとえっちがしたい。それしか考えられない。もう!どんだけ煽ってくれるんだよ!この鈍感!」

 ダレンは、そう言うと、フロルにがぶりと噛みつくようなキスをした。
 フロルは、ダレンを抱きしめて、その茶色い髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
 ナディクの話してくれた伝承によれば、精霊の化身だった者は、心を通わせた相手が寿命をまっとうするまで共に生きるという。
 フロルは、それはとてもいいと思った――ぼくは風になるまえに――この身が消えるまで、ダレンと共にいたいと。ずっと願っていたのだから。
 
「おう、ぼくも望むところだよ!」

「おまえはムードもへったくれもないな。ははっ!フロル、そういうとこも大好きだ」

「ん、ぼくも……ずっと愛してる……」


◇◇◇


 編纂者ナディクが後世に残した記録によると、セルフィーユ領の精霊樹は、人と精霊の化身とが心を通わせることで生まれたと記されている。
 その記録は、王都の魔術文書館に大切に保管されており、今でも若き魔術師たちの間で読み継がれているという。
 魔術師として魔術研究所に勤めながら、私的に古文書の解読に情熱を注いだ彼の功績は、この記録にとどまらず、多くの知見を後世にもたらした。その静かな献身は、陽の当たらぬ道を歩む研究者たちの灯火となっている。
 
 時を経た現在、セルフィーユ領の精霊樹は、領民に深く愛されながら、丘の上よりその地を見守り続けている。
 四季を問わず緑が生い茂る姿は、この地の豊穣を約束するかのようであり――今もなお、変わらぬ祝福の証として静かに語り継がれている。



 

『ぼくが風になるまえに――』おわり





お読みくださり、ありがとうございました!
こんなにたくさんの方に読んでいただくのは、初めてでしたので、とてもうれしかったです。

もしよかったら、感想を聞かせてください。
どんなお叱りでも、承認いたしますし、お返事させていただきます。

 
本日から『最後の魔法使い』という本編5話+番外編3話(R18含む)の短編を始めました。
自分ではとても好きな話なので、よかったらそちらもお読みいただけると、うれしいです。


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感想 6

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