丸山とオレの話

まめ

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09 丸山

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 半年の間、俺はいつものようにただ絵を描いていた。
  
 田中に拒絶された時、わざわざ俺に苦言を呈してくれたやつ――黒川とは、たまに話す関係になり、やつに言われた。
 
「丸山ってコミュニケーション能力が赤ちゃんレベルっすね。下々の者を見下してるから、口をきかないわけじゃないんだあ」

「いてもいなくてもかまわないが、見下すというほど興味がない」

「あっ!そこ!そこが嫌だなあ」

「……なんでだ」

「おれは、ただ好きなものを描くだけじゃない。この絵や思いを人に伝えて、感情を共有してもらうために、感覚を研ぎ澄まして技術を磨いてんの。他人ありきなの。
丸山の理論でいくなら、山奥にこもって一人絵を描いてればよくね?」

 黒川は面白そうな顔をして笑った。

「例えば、田中。あいつに見せたいとか思わない?好きなんでしょ?
言葉で表せないなら、絵に込めて見せればいいじゃん。おれ、手伝うよ」

 俺が田中入りの絵を描くようになってから、商業ベースの制作依頼が増えつつあった。
 俺の描く荒々しい絵の中には、いつも点や線に姿を変えたちいさな田中がいた。
 会わなくても、会話をしなくても、それでもまだ田中が好きだった。
 その思いを、俺は世界に発信した。たくさんの人に俺の思いを見てほしかった。
 ちいさな田中が、俺と人をつなぐのだろうか、俺の絵を好きだと言ってくれる人が増えていった。

 夏が終わり、大学祭の実行委員になったという黒川が、ニヤニヤしながら、俺に話を持ってきた。

「学祭の最終日にある、ライブペインティング。丸山やらない?
最近の絵、かなりエモいよね。
そろそろ田中に告白しようよお」

「おまえ、面白がってるだろ」

「当然でしょお。今注目のアーティスト丸山夜が、ライブペインティングで告白!しかも男!
めっちゃ面白れー!いや、応援してるってば」

 黒川はおちゃらけてはいるが、芯は優しいやつだった。やつの描く日本画の、虫や草木は雨上がりのようなしっとりした潤いに満ちていた。
 俺がそう感想を述べると、やつは「ぎゃはっ!」と笑った。


「黒川、ライブペインティングの話を受けたいと思う。俺、田中に告白してもいいのだろうか」

「めずらしく弱気じゃん。とりあえず気持ちだけでも伝えたほうがいいと思うけど。あいつ知らないんでしょ?」

 大学祭の準備が始まり、校内はにぎやかになった。
 屋外では、屋台やイベントステージの設営で、運搬トラックの出入りもあり、人や機材が入り乱れている。
 校内では、専攻科目の棟で作品展が開かれる。俺は彫刻科の様子を見に行った。
 もう田中がどこの教室なのか知っている。
 小柄な体に、似つかわしくないチェーンソーで、ぎゃりぎゃりと丸太を刻むのも、こっそり見て知っている。
 形を取り出したあとは、ノミや彫刻刀で丁寧に彫っているのも、つるつるになるまで磨きあげるのも、今の俺は知っている。
 今さらだけど、田中の作品もとても好きだと思った。

 無人の教室には、前に田中が抱えていた鳥が設置されており、タイトルに『宇宙を見つめるタシギ』と書いてあった。
 そんなタイトルすら、田中らしくて、俺は久しぶりに声を出して笑った。


 学祭の日は、あっという間にやってきた。
 俺は、そのまえに田中を探し出して、ライブペインティングを見に来てくれるように、声をかけていた。
 田中の表情はにこやかに見えたが、他人行儀なものだった。

 学祭最終日、ライブペインティングの準備をしながら、そばにいる黒川に弱音を吐く。
 
「田中が来なかったらどうしよう」

「ぷはっ!そんなしょぼくれた丸山初めて見るわ。おもしろー!来なかったら、来るまで呼び出すわ。それもまた一興!」

 田中はほんとに来なかった。
 俺は取り乱して、マイクを持って叫んだ。あいつが見てくれなきゃ意味が無いんだ。

 黒川がすごい笑顔で言った。
 
「丸山、人間らしくなったなあ!今、呼び出してもらおうな」

 しばらくすると、発見された田中が鳥の彫刻を抱えたまま、ステージの上に引っ張り出された。
 俺はステージの真ん中に置いたパイプ椅子――特等席に田中を座らせて、絵の具を手に取った。

「よし、田中。見てろ……」

 大きなキャンバスに、手を使って景色を描いていく。
 それは、人を好きになる気持ちを教えてくれた田中への、感謝の花束だ。いろんな気持ちをこめて、キャンバスいっぱいに極彩色の花を咲かせる。
 その真ん中には、静かに眠る田中。
 俺が初めて見た、素の顔。

 絵が出来上がるにつれ、田中の顔が真っ赤になっていく。見てくれ。伝われ。俺の気持ち。

「完成しました……」

「絵のタイトルをお聞きしても」

「……初恋」

 田中が横であわあわしている。観客もざわざわしている。黒川は、ステージ脇で、腹を抱えて笑っていた。
 司会者が田中にマイクをふった。
 みんなの視線が、田中に集中した。
  
「ま、丸山ぁ、おまえさぁ……。わけわかんねえよっ!バッカじゃねーのっ!」

 会場がしんと静まりかえったあと、どっと笑いがわいた。
 真っ赤な顔で、恥ずかしさに震える田中からは、もう堅苦しさはとれていた。
 万感の思いを込めて、俺は答えた。

「……ああ、そうだな」

◇◇◇

 それから俺は、また田中の部屋に通うようになった。
 おまえ別人なんじゃないの?って言われるくらい、田中としゃべった。田中もきちんと言葉にしてほしいと言ったので、全てを吐き出した。
 俺の知覚過敏の話も、田中に性欲を感じている話も、そして、一番ナイーブな作品の話も。
 田中は全部笑って許して、「オレの鳥たちサイコーだろ」と言った。うん、俺もそう思う。
 
 俺は、いつものように田中の背中に貼り付いて、やつの肩をかぷかぷと甘噛みしながら尋ねた。

「なあ、田中、俺のことどう思ってる……?」

「うーん、好きなんじゃないかな」

「俺はおまえのまるごと好きなんだが」

 田中は俺の髪をワシャワシャとかきまわした。

「オレ、人とくっつくの苦手なんだよね。初めて丸山がふとんに入ってた日、心地よくて二度寝しちゃったんだけど、それって感覚的に好きってことだろ。今でもさ。
きっと俺、最初から丸山のこと好きだよ」

 俺は、今まで自分を感覚的な人間だと思っていたが、もっと感覚的でつかみどころのないやつがここにいた。まいった。

「……キスしたいんだが」

「すればー」

「……セックスしたいんだが」

「それはまだやだー」

 いつの間にか立場が逆転している。恋は落ちたほうが負けという言葉が、頭に浮かんだ。
 とりあえず許可をいただいたものは、もらっておこう。

 俺は、田中の顎に手を添えると、その柔らかい唇に押し付けるようなキスをした。

「……舌入れたいんだが」

「いいよー」

 田中はくるりと向きを変え、俺と向かい合わせになった。

「どうぞー」

 田中の顔がアップで近づいてくる。
 
 俺の目に写る世界の全てが、田中で埋め尽くされた――
 
 
 

おわり

お読みくださり、ありがとうございました!
いつか番外編で初えっちを書くつもりです。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

飴
2025.08.25

この作品めちゃくちゃ好きです!!!!!!!
アルファポリスで読み始め、続きが気になりすぎて他サイトで完結まで読み、再びこちらで再読しております。

謎行動の多いマイペース男だと思っていたら、
丸山くんたらこんなにも暴れまわる恋心を秘めていたなんて…
くぅぅ、萌えるぅぅ♡

まめさんの表現力も本当に素敵で、創作に真面目に向き合う美大生BLを堪能させていただきました。
何卒彼らの「これから」も覗かせてくださいませ。
続編、切実に希望しております!

2025.08.25 まめ

飴さま、お読みくださり、ありがとうございます!
このお話は、最初に田中編だけが存在しておりまして、よく意味が伝わらなかったのです。
追加で丸山編をいれたら、彼の設定が複雑なため、今度はかなり重くなってしまいました。
田中だけだと、なぜ専攻科を知らないだけであそこまで怒るのかわからない。丸山編で、おわかりいただけるとうれしいです。
美大生と友達になったら、何を作っているか聞いてあげてください。大事です。

番外編にいちおうR18を書くつもりではあります。
こちらでは、誰も読まないからやめようかと思ったんですが、飴さんがいるからアップしますね。
のんびりお待ちくださいまし。

感想ありがとうございました!


解除

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