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しおりを挟むその朝、目が覚めたら、ぼくの体は背中から暖かいものに包まれていた。ディーだ。首筋に触れる髪が少しこそばゆい。
冬の訪れは、ディーの訪れ。
この寒い季節の間だけ、彼はぼくと同じベッドで眠るのだ。
◇
ぼくの体は自分で動かすことはできないが、たまに筋肉の反射等で動いてしまうときがある。びくんと足が大きく振れたり、手が上がったり。
とある冬の夜、ぼくの足は反射で布団を蹴飛ばした。運が悪いことに、その夜のディーは仕事が立て込んでいて、深夜にぼくの様子を見に来ることができなかった。
明け方、寝室を訪れたディーは、がちがちと歯を鳴らして震えるぼくを見つけ、真っ青になって涙を流した。
「っ……、ごめん!ごめんノア。ああっ、体がこんなに冷えてしまっている。でも、いきなり風呂に入ると体がびっくりしてしまうし……私でごめん。君の体を温めさせて……」
ディーはぼくのまぶたに軽く指をあて、目を閉じるよう促した。
そして、ぼくの胸側からぴたりと体をくっつけて、自分の体温を分けてくれた。
後ろに回された腕は、ぼくの背中や腰をさするように撫でる。首筋からは、ディーの体温だけでなく、彼の脈打つ血潮が。重なった心臓からは、とくんとくんと彼の力強い鼓動が。
ぼくの体にディーが入り込むような感覚と、次第に暖まる全身に、筋肉の緊張が解けていく。
いつしか震えはとまり、ぼくは眠りに落ちていた。
ぼくがディーと胸と胸を合わせたのは、たぶんあれ一度きりだ。
彼はいつも、背中からしか体を合わせない。自分の姿を見られるのを恐れている。いつも私でごめんと口にする。それはぼくの罪。
そんなディーを解放するどころか、たとえ体が治っても、ずっとぼくに縛り付けたい。誰にも渡したくないのだ。もう、ディーじゃなくちゃ嫌だ。
みんなが見捨てたぼくに、唯一やさしくしてしまったこと。それはディーの罪だと思う。
◇
冬になると、ぼくの朝食は温かいスープになる。
とろけるほどに野菜を煮込み、なめらかに裏ごしされたスープを、一口ずつスプーンで運ぶディー。ぼくはさながら給餌を待つ雛鳥。
今日のスープはかぼちゃの味がした。
どこからどこまでが手作りで魔法なのかはわからないが、ディーはぼくの食事を魔法任せにはしない。
喉に管を通し流動食にすることも可能だし、胃に直接転移させることもできる。毎食栄養タブレットだけでもいいのだ。
しかし、ディーがこの形を選ぶなら、ぼくはありがたく甘受したい。
それは、ぼくと彼のための儀式のひとつだと思うから。彼の想いを受けとるたびに、ぼくはどんどんディーのことを好きになる。
◇
朝食後、今日は全身マッサージをしてもらう日。
ひざや足首、肩等、体中の関節をぐるぐる回して揉みほぐし、柔軟性を保つのだそうだ。
さほど小柄ではないぼくの足を、持ち上げて曲げ伸ばしをするディーの喉元を、汗がしたたり落ちる。
「ノア、退屈かな? 柔軟体操をしておくと、治ったときに回復が早いんだ。筋肉が弱ると、歩けなくなっちゃうからね」
(うん!ありがとう。でも、ディーのほうが運動してるみたいだね。汗すごっ)
「治ったらどこに行こうね。今は冬だけど、春になれば一面の菜の花畑、魔法を使って空から桜を眺めるのもいいね……いや、君は王都の娯楽がお好みかな。夜会だって、観劇だって、きっと行けるさ」
ディーは少し寂しそうに笑った。
(そんな顔しないでよ……ぼくはここにいるのに、未来のぼくを勝手に想像しないで! もうっ、ディーの馬鹿!)
ぼくは少しムッとして、まばたきをいっぱい繰り返し、心配したディーに目薬をさされたのだった。
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