馬車に轢かれて恋人に逃げられた僕ですが、好きじゃなかった婚約者に拾われて恋に落ちました。

まめ

文字の大きさ
6 / 16

06

しおりを挟む

 その朝、目が覚めたら、ぼくの体は背中から暖かいものに包まれていた。ディーだ。首筋に触れる髪が少しこそばゆい。
 冬の訪れは、ディーの訪れ。
 この寒い季節の間だけ、彼はぼくと同じベッドで眠るのだ。
 
 ◇

 ぼくの体は自分で動かすことはできないが、たまに筋肉の反射等で動いてしまうときがある。びくんと足が大きく振れたり、手が上がったり。
 
 とある冬の夜、ぼくの足は反射で布団を蹴飛ばした。運が悪いことに、その夜のディーは仕事が立て込んでいて、深夜にぼくの様子を見に来ることができなかった。
 明け方、寝室を訪れたディーは、がちがちと歯を鳴らして震えるぼくを見つけ、真っ青になって涙を流した。

「っ……、ごめん!ごめんノア。ああっ、体がこんなに冷えてしまっている。でも、いきなり風呂に入ると体がびっくりしてしまうし……私でごめん。君の体を温めさせて……」

 ディーはぼくのまぶたに軽く指をあて、目を閉じるよう促した。
 そして、ぼくの胸側からぴたりと体をくっつけて、自分の体温を分けてくれた。
 後ろに回された腕は、ぼくの背中や腰をさするように撫でる。首筋からは、ディーの体温だけでなく、彼の脈打つ血潮が。重なった心臓からは、とくんとくんと彼の力強い鼓動が。 
 ぼくの体にディーが入り込むような感覚と、次第に暖まる全身に、筋肉の緊張が解けていく。
 いつしか震えはとまり、ぼくは眠りに落ちていた。

 ぼくがディーと胸と胸を合わせたのは、たぶんあれ一度きりだ。
 彼はいつも、背中からしか体を合わせない。自分の姿を見られるのを恐れている。いつも私でごめんと口にする。それはぼくの罪。
 そんなディーを解放するどころか、たとえ体が治っても、ずっとぼくに縛り付けたい。誰にも渡したくないのだ。もう、ディーじゃなくちゃ嫌だ。
 みんなが見捨てたぼくに、唯一やさしくしてしまったこと。それはディーの罪だと思う。

 ◇

 冬になると、ぼくの朝食は温かいスープになる。
 とろけるほどに野菜を煮込み、なめらかに裏ごしされたスープを、一口ずつスプーンで運ぶディー。ぼくはさながら給餌を待つ雛鳥。
 今日のスープはかぼちゃの味がした。
 どこからどこまでが手作りで魔法なのかはわからないが、ディーはぼくの食事を魔法任せにはしない。
 喉に管を通し流動食にすることも可能だし、胃に直接転移させることもできる。毎食栄養タブレットだけでもいいのだ。
 しかし、ディーがこの形を選ぶなら、ぼくはありがたく甘受したい。
 それは、ぼくと彼のための儀式のひとつだと思うから。彼の想いを受けとるたびに、ぼくはどんどんディーのことを好きになる。



 朝食後、今日は全身マッサージをしてもらう日。
 ひざや足首、肩等、体中の関節をぐるぐる回して揉みほぐし、柔軟性を保つのだそうだ。
 さほど小柄ではないぼくの足を、持ち上げて曲げ伸ばしをするディーの喉元を、汗がしたたり落ちる。

「ノア、退屈かな? 柔軟体操をしておくと、治ったときに回復が早いんだ。筋肉が弱ると、歩けなくなっちゃうからね」

 (うん!ありがとう。でも、ディーのほうが運動してるみたいだね。汗すごっ)

「治ったらどこに行こうね。今は冬だけど、春になれば一面の菜の花畑、魔法を使って空から桜を眺めるのもいいね……いや、君は王都の娯楽がお好みかな。夜会だって、観劇だって、きっと行けるさ」

 ディーは少し寂しそうに笑った。

 (そんな顔しないでよ……ぼくはここにいるのに、未来のぼくを勝手に想像しないで! もうっ、ディーの馬鹿!)

 ぼくは少しムッとして、まばたきをいっぱい繰り返し、心配したディーに目薬をさされたのだった。

 
 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

悪役令嬢の兄、閨の講義をする。

猫宮乾
BL
 ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

処理中です...